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リンゴ:アクアマリンの瞳

 魔族はとても愛が深く、それゆえ凶悪で、強くなければならないのです。



 母上は少し性急に言ったのだ。それは我も理解している。許せるか許せないかは、……まあ、許せない。帰れるか。


「この地はまだ燃えておる。その上で連れ帰るだと? 死しても母を倒す」


「ぬ、我も魔王の仕事は辞められぬゆえこの地はいささか遠い」


「母上は光術のテレポート持っとるじゃろがい!!」


「……我も魔王に帰りたくない気がするぅ~」


「な? え、すまんのじゃ! 語るのじゃ! え、まじどうしたのかあさま、魔王辞めるの? 泣くな、大人が!」


「できればその方が良いのかも知れん。でもな、うーん、とりあえずこの場を収集するべきだな。オレンジの姉さまが出てきたせいで却って収集がついてない」


 あの人、気持ちは分かるけど、神様は出てきてはいけないって本気で分からしめたな。てかおかあさまが落とされてるのだが。


「姉さまは敵にも平等に語られていたろう、つまり我らが神は争い自体は否定していない。争いかたの問題だ。論争で人はまあ死なない。ボードゲームにしても死なない。休憩さえ入れれば」


 おかあさまの、この我も初めて聞く長台詞よな。だが、気持ちが伝わる。


「だから今は、論争する時間なのであろう。論争を物理で潰すようなバカをするな、と、私はそう考える、娘よ、すまん、さすがに戦争を収めるような魔法はきつすぎた、ごめん」


「な、かあさま、かあさま!」


 突然にかあさまは倒れた。まあやりすぎだ。スキルも魔力を使うもの。やりすぎれば倒れるわ。しかしおかあさまは魔王なのに聖女スキルなのはなぜなのか。




 魔王(おかあさま)さえぶっ倒れた。リンゴ()が叫ぶ。しかし、ルーフィアも倒れてる。は、なんだ。ここに来て分かる。


 ルーフィアの人望は本当に有ったんだ。あの子はなにがあってもこういう時は最初に動くもんな。


 冒険者どころかギルドマスターどころか力ない町人までもが最前線で戦っていた我らが愛しきパン屋の店長に向かって、集まっていく!


 こんなのが現実に起こってる。我らが主人は、確かに人の思いを集める、暖かき救世主様なのだ。


 聖女も勇者も、及ぶはずがない。



 現状を片付けるは我しかおらぬ。この場で最強は我だ。そして今回のスタンピード、敵は散ったようだ。おかあさまが殺ってしまったからな。


 おぞましい戦いだった。ルーフィアを回収し、その仲間を回収しよう。一瞬で終わったのはむしろ救いであろうか。


 ルーフィアが好きだった人は、ルーフィアが灰にしてしまった。う、うう、ううううう。ルーフィア、どんな気持ちだったのか、でも、ただ、倒そうとしていた。味方に被害を出さぬために、ものすごい迅速な判断で好きな人を殺した。愛深き故に、か。


 可哀想な、と、思うのに、うらやましいとすら思えてしまう。きっとルーフィアの初恋はあのアレスという少年だったんだろう。


 なんでだ。なんで普通の少年が兵器に使われたんだ? そしてここにいた? 様々な思惑が交錯している。一口で飲み込める状況ではない。


 それに、かあさま、こんなとこに魔王が出てくるでない!


 かあさまがアホウなわけがないからな、なにか理由があるんだ。まあ我を回収に来たのだろうが。


 何重に問題が重なってるのか。


 我にもツッコミきれんわ……はっ。いつの間にかボケとツッコミで考えるようになっておる?!


 パンと水本気で恐ろしいスキルだな!!





~~~~~~




 遠い記憶だ。我の子供の頃に聞いたお母様の話。


 我のお母様のお母様、つまりお婆ちゃまは、人間だったそうだ。


 とても明るくて優しい、太陽のような人であったらしい。魔族と人間、どころか魔王と人間、その恋はむしろ憧れられる物語だった。


 だが、我ら魔族は人と寿命が違う。大抵の物語は悲恋だ。悲恋に終わるといっても魔王が倒されるパターンもあった。


 もちろん、お祖父(じい)様のそれも悲恋だった。お祖母ちゃんは寿命で死ねたらしいけど。聖女に等しき力で二百年も、人としては頑張って生きたらしいけど、魔族のそれは、あんまりにも早い死。


 職業スキルは治癒師で、神授スキルも治癒だった、と笑ってたらしい。まあ神授のそれは聖女スキルなのだが。


 本当に、太陽のように眩しく暖かい人だったそうだ。人の世では生きづらかったらしい。聖女聖女と敬われ、囲われるのが鬱陶しくてにげてきた、なんて、我のお婆様はお母様と我にもにて、破天荒なのだ。


 ちなみに我がルーの元に来た時はな、土の四天王に「土に空は飛べまい!」などと挑発し、空を飛ぶゴーレムを作らせて、空を飛び、それがあんまりにも楽しくてな!


 はるかに北に飛んだら土の四天王、ビビの魔力もさすがに届かなくなって、我の魔力を注ぎまくったが、うむ、南に旋回すれば良かったのだがそのまま直進してしまって、森を抜けるまであと少し、そう、ルーフィアダンジョンのところに不時着してしまったのだ。


 ビビの魔力は切れていたのにゴーレムは我の命は守った。わずかな魔力で、せいふてぃー、とやらが働いたらしい。


 その末にまあ。墜落したのだ。死んだかとは思っていたのだがな。


 ルーがそこにいてくれた。拾ってくれた。りんごジュースが美味くて美味くて。


 なんか、惚れ込んでしまったのよ。ルーフィアっていう少年のような少女に。




 だから。




 ルー、ルーフィア、貴女を愛してる。愛してるから、目を醒まして!


 命を捧げることはしない。貴女が一番嫌いなことだもの。だから。


 私は、我は、


 今、この時、魔王になることを誓うから!!




 魔王って役職だと思ってた。望めば与えられる程度の。違うよね。違うんだ。


 魔族は実力主義だ。事実として、お祖父様はクラリスお母様に首をはねられたと言う。


 お婆様、つまり人間を愛していたお祖父様が人間に戦争を仕掛けるのを許してはおけなかったのだろう。我にだってわかるが、その苦痛は想像に難くないが、想像したくもない、


 地獄だ。


 魔族は長命だ。それゆえ我とルーフィアは同い年なのに、我がまるで幼子のような扱いを受ける。


 それゆえかも知れぬ。我はルーをルーフィアを、深く愛してしまっている。


 スキルの効果などではない。ルーのその愛、ルーフィアの愛は、とても軽やかに、我らを導く光。


 彼女の苦しみを、これからも積み上げていく、それが分かっているのに! 愛おしいのだ!


 ならば我らが、その愛の、それゆえの苦痛の、肩代わりをしたいのだ。


 ゆえに、我は誓おう。お主のために魔王にすらなろうと。お主を救う力になろうと。


 だから、お願いだ。お願いだ!


 早く、ゆっくりでもいいから、早く、目を、その暖かいアクアマリンの瞳を、開いて。






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