再び、スタンピード
この世界は地獄です。
前回のスタンピードが組織の犯行だったんだから、その組織を潰さなきゃまたやるよね。でもまあこっちから打てる手も無いと。
クロカミさんもさすがに組織の拠点は吐かなかったからな。毎回細かく変えてるみたいなことは言ってたけど。
構成員らしきエルフにセレナたちが襲われたらしいから駆逐しないとね。
ボクの家族をこれ以上傷つけるなら、そんな存在はいらん。
穴から出てくると良いけど。水飴をたっぷりおごってやろう。
そういうわけで、また帰れなくなりました。そしてまた城壁の上です。今回はセレナとアイリスもいるしエリメータさんも外でだけどゴブたちと待機してる。町に入る許可は得られたんだけどね。
今回はペリテー伯爵の軍がなんとしても援軍を回すと張り切ってるらしい。まあ敵総数数百万だけど。ゴブとかコウモリとか含めだけど。
寄り子のメルフィーナ子爵が頑張って前回のスタンピードをほぼノーダメージで抑えちゃったからね。メンツもあるけど欲もあるよね。愚鈍ってことはないと思う。
メルフィーナ子爵が尊敬してるっぽいんだ。メルフィーナさんも前回は援軍を拒否したらしい。……ボクらに期待しすぎだよお。うん、分かってる。
ボクらがいなかったらメルフィーナさんが玉砕するのが一番被害を抑える最善手だったんだろう。勇者子爵メルフィーナは伊達じゃない。
エリメータさんの場合はアンデッドになったせいで普通の町の人は恐怖を感じてしまうらしい。ボクたちは平気なんだけどなあ。オーガのダンロと外回りしてもらう。
今回は敵の雑魚にキマイラが混じってる。正式には精霊獣と呼ばれているらしいけどボクらは冒険者サイドの呼び方でそのままキマイラと呼んでるよ。
「ルー、私たちにやらせて」
「レベル上げ? いいよ」
「よーし、ガンガンやるわよー! スタンピードを起こすようなクソ野郎は根っこからくちくするのよー!!」
セレナやアイリスたちもけっこう強いからね。さらにレベルを上げたらボクも心配しなくていいし。まず最初の攻撃はセレナがすることになったようだ。メルフィーナさんの雷と勝負? うん、二人なら面白そう。
でもセレナ、危険はないの? 大丈夫? アイリスは後衛に控えてくれてるけど(珍しく)セレナは前線で一発かますんだよね?
「ルーフィアは昔から心配性よねえ。まあそこが愛おしいんだけど、セレナがそんな安い女かしら? あの子は本物の天才じゃないの!」
「はは、アイリスに言われると思わなかった。ボクもセレナが誰よりも天才なのは、……知っている!」
「うん、信じて、もう少し、魔力、もう少し、領域、威力は、絶対……。一万は入るか」
ボクは、自分がおごっていたってはっきり分かったんだ。セレナこそ本物の天才だ。
「炎術:エリア:領域超拡大:セレクト:敵対者のみ絶対殲滅:パワー:無限炎獄:エネルギー:魔力全部!」
我の前に敵は無し。
ボクたちの前には空にさえ赤くないところが無かった。炎が全てを焼き尽くす。なのにボクらにはちっとも熱さがない。確実に、目の前の一万はいる敵だけを焼いた!
「は、はは……」
「ね、セレナは私たちで一番の天才なんだから!」
「二人にもできる」
「おおおおおお! これぞまさに魔王を焼いた伝説の魔法使いの力! 我ら魔族の憧れ! ……勝ちたい! この力に!!」
リンゴも大興奮だった。
「! まだ終わっておりません!!」
エリメータさん、さすがにこのタイミングで?!
「ふぉふぉふぉ、すさまじい。これこそまさに神の力、これこそがまさに神の力です! 我が超えねばならぬと望む力! 絶対の力! 超えたいいいいいいいいいいいいッ!!」
な、なにか、いる?
「我自身は非力ゆえ申し訳ないが、我が研究の成果と戦って頂こう!!」
「名のれー! 誰なんだお前! なんでボクたちの平和を邪魔するんだよおおおおおおおおッ!!」
「ほほ、我が名はブレア。ブレア研究者とでもお呼びください。ただのしがない魔学者であります」
「物語でよくある。声だけ聞かせてる。本人ここにいない」
「セレナ?! 心当たりあるの?!」
「私が知っているのは物語だけ。来る」
「ふぉっふぉっ、今回は少しばかり自信があるのですよ、さあ、やりなさい我が究極の研究成果、精霊人アレスくん」
「スキル:聖剣解放:神に反するものは全て消えるべし」
ゾクッ
なんだ、なんだ今の声、誰だ、知ってる、その声、なんでだ、なんであいつ、なにしやがった?! なにされたの?
なんでそこにいる、なんでその名前が出てくるんだよおっ!!
「ルー! 下がって!! アイリスッ!」
激しく叫ぶセレナの声。それにアイリスは即座に応えた。ボクは引き倒されるだけ。
「分かってるわよおっ!! 聖術! 結界術! 空間遮断結界! 神意よ、我らを守りたまええええええええっ!!!」
「アイリス! アイリス!!」
「私にまかせなさーい!! うおおおおおおおおおおおおお!!」
迫り来る膨大な熱量、膨大な破壊力。それに対抗する凄まじいアイリスの結界術。
セレナが言ったんだ、ルーフィアという女神様は守る力をこそ望んでると、アイリスに伝えたんだって。つまりアイリスは、守りの方が強い!
ボクは女神なんかじゃないけど、アイリスも、ボクを凌ぐ天才だ!!
『ぶほほ、我は神に至りー!!!! ……』
「くだらんことを。お前たちごときが我を語るな」
えっ?
「久しいな、少女。悪いが水を差す。……お主ならこれくらいは跳ね除けられるのだが、少し許せぬことがあってな」
突然現れた、一人の少女。ボクは、その人を、とてもよく知っていた。
「オレンジお姉さん……」
「諸悪を我が断つなど容易いが、なぜそれをやらんか、考えたことがないのか」
……お姉さん? その声は小さく、しかし、戦場全体に響いていたようだ。
「例えば子にボードゲームを与えよう。愛する子らだ。勝った負けたと楽しそうにしておるな」
あー、幸せそう! そこには本当の戦争はないけどだからこそ命の危機もなくて、とても楽しそう!
「そこに、はるかに超越した存在である我が、一手加える、どうだ?」
「ずるーーーい!」
そうなるのだ。ゆえに神は人の世に手を出さぬのだ。子らの楽しむために与えられた世界。なぜ歪める。なぜ地獄を選ぶのか。
……!!
「神よ! 神よ! 我はあなたに勝つために研鑽を続けておりますぞ!!」
「ブレア、貴様は他者を省みぬ。聖書原典を今一度読み返せ」
「たはー! 神学は自信有りませぬ!」
「いずれ滅びるぞ、まあよい。我の公平の意味を思うといい。子供たちから世界というゲーム板を取り除くことに、我は正義を感じぬ。それゆえ、ほんの少し、愚痴を言った。子らよ、世界を楽しめ。それこそが我が望み。それを妨げるものこそが、我の敵だ……。だが他者の自由を妨げる自由も許されぬ」
神はオレンジお姉さんは語り続けた。
「まあ神は手を出さぬのが正義よ。助言は少ししてやろう。ルールも理解せぬ阿呆のためにはな。それも親心、今回の話はそういうことよ、では、またな」
……なんかとんでもないことをオレンジお姉さんが言っていったけど、
お姉さんはどこかに消えちゃったけど、
スタンピードはまだ終わってないってことーーー!!
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