スタンピードってだいたい強いボスで終わるよね
スタンピード、決着!
スタンピードもさすがに一週間も続くとキツくなってきそうなものだが、
「疲労回復ポーションをおごってやろう」
例によってパンと水スキルが無双過ぎるのだった。まあお腹一杯になるからその度に休憩は必要なんだけどね。ご飯も水分も無尽蔵に供給されている。
ボクって最強の輜重兵だったんだね。もともと戦争で使えるなあとは思っていたんだけどね。
でもほら、兵士とか騎士がいないと回復要員だけじゃ戦えないしね!
「うちの騎士はルーフィアの大ファンらしいぞ」
「ほぼジャンキーであるな。ルーフィアジャンキー」
「ボクに溺れないで?!」
なんかボクがヤバい売人みたいじゃん! 売ってるのはパンとお酒とかだけだよ?! マジでクスリとかじゃないからね?!
「ホットドッグ五十個ください!」
「ハムサラダサンド三十個!」
「ビール」
「戦闘中に酒飲んでんじゃねえ!」
「リンゴちゃんにツッコまれた! うへへ!」
「リンゴジャンキーもいるみたいだね」
「…………言うでない。なんか我のツッコミを求む声が大きくなってきたのだ」
「敵陣に突撃してきます!」
「命を大事にせい?!」
「……ルーフィアジャンキーよりヤバくね?」
「実は二人セットで見られておる」
「いっそうヤバかった?! て言うか久々にツッコんだよ?!」
「なにを隠そう私も二人のファンだ」
「メルフィーナ子爵は仕事しろ!?」
「神雷神雷」
「仕事しすぎても戦場がヤバくなる?!」
「騎士さん良く焦げないね?」
「慣れておりますから」
「嫌な慣れだな?!」
まあ神雷術も味方には当たらないんだけどね。雑魚を掃討し終わって来たところで戦場の奥の方にデカい頭が見えた。なんだあれ。水みたいに透明な巨人。
直感で分かった。この前の雷をまとった狼キメラと同類だ。あれがスタンピードの原因なのだろう。
誰かモンスターで変な実験をしているらしい。
「あんなでか物どうやって倒すのだ?」
「ゴーレムじゃないんだからマスタード飲ませたら死ぬよ」
「本来調味料のはずなんだがな」
「今さらだって。マスタードじゃなくて水飴でも死ぬけど」
「マスタードは臭いが辛いからな。水飴で頼む」
「りょっ! 水飴地獄~」
「うわ、甘いのも胸焼けする」
水巨人は必死に頭を振って躱そうとしてるけど粘着力のある水飴が大量に鼻や気管に入ったら肺炎と変わらないしあっという間に窒息すると思うよ。巨人だから逆に入れやすいかも?
「対生物では最悪のスキルであるな……」
「普通に十メートル超える巨人など簡単には倒せないと思うんだがな……。生物の意外な弱点と言うべきか」
「水魔法だと簡単に振りほどいて咳とかくしゃみしたら終わりだけどね、水飴やマスタードは粘っこいから」
そもそも操作が自由にできるスキルだ、対抗手段ほぼないよ。結界を張って近づけないか炎で焼いてしまうか、魔力で弾く手もある。まあ水の巨人だから飲み込むとかもありそうだけど、呼吸してる以上は死ぬね。死んだ。
巨人は派手に倒れて味方からは歓声が上がる。
『うおおおおおおおおおおおおおおおッ!!』
やれやれだぜ。
「本来壁とか突破されて建て直しとか大変になるレベルだから助かったぞ。報酬を出せるほど金はないんだが」
「代官が苦しいのは把握しておるからな、仕方あるまい」
「ボクもお金も魔力もそんなに使ってないから大丈夫」
ほんとなら報酬だけで数百万グリンはかかる戦いだったけどね。高級な馬車が馬ごと数台買えるくらいだよ。いらないけど。実際騎兵隊だけで戦ったら訓練や装備で数百万グリン以上、その上何人も死んだだろうな。
「巨人一匹だけかな? というかあの巨人どうやってダンジョンから出られたんだろうね?」
「テレポートでもしておるのかな」
「そんなにすごい魔法使いなら攻めてきそうだけど」
「逃げたとしてもこちらの戦力を計ってからの気がするな。我ならそうする」
「つまりはまだ終わってないと言うことか。騎士や衛兵に探らせてみよう」
まだ少しは戦力あるんだね。ハイポーションとかマナポーションを渡しておこうかな。
ってうわあっ!? 騎士さんたちが吹き飛んだよ?! 変な骸骨が何体も現れた! リッチだ!
騎士さんたちにはポーションぶっかける。知り合いが死ぬなんて死んでも嫌だ!
「追加が来たようであるな!」
「こっちも追加するよ! ライム!」
鞄から飛び出し巨大化するライム。リッチとかゾンビとか不味そうってイメージが伝わってきたけど戦ってね? ライムはさらに巨大化してバリバリ敵を飲む。さすが進化系スライムは最強だね。名前はパンイーターだけど。
リッチたちは地面を腐食していくのでこっちは聖水を撒き散らそう。
「大盤振る舞いだな!」
「助かるな!」
「聖水だけならタダだからね!」
我ながらチートだよね。デンジャラス放水でレベル上がりまくってるし。アンデッドは溺れないかと思ったけど普通に聖水に触れたら焼けるようだ。どんどん消滅していく。
爆破魔法が飛んできたので水で盾を作る。さすがに五メートルも厚みがあれば下手な魔法は通らないだろう。
「水中で魔法戦はなかなかに無謀よな」
「ハンバーガー食べよう」
「呑気だなメルフィーナ子爵?!」
まあだいたい戦いは終わったっぽいから良いけどね。てかメルフィーナ子爵普通に強いし。
そろそろゴブたちは撤退させよう。味方に判別できないから殺されそうだし。
黒幕は残念ながら出てこなかったかな。あんな大物まで用意したのに残念だったね。
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「ぜ、全滅……。ウォーターエレメンタルを注入したジャイアントが溺れ死んだだと……? 陸上で……」
赤い髪を振り乱しその長身の女は叫んだ。ルーフィアのダンジョンに冒険者を送り込んだのはこの女だ。
「ふむ、まるで成果が上がらなかったようであるな。神への道はまだまだ遠い」
学者風の白髪に眼鏡の男は呟く。
「御託は良いんだよオッサン。これじゃなにも破壊できてないじゃないか」
茶髪の荒れた髪を振り乱し男も怒鳴る。
「まあまあ二人とも、どうも厄介なスキル持ちがいるようだ。水系統のスキルのようだから空飛ぶ魚でも作って攻めさせてみてはどうか」
神官風の衣装のエルフはため息を吐いた。
「オレは破壊できればなんでもいい!」
「あたしも虐殺できれば良いんだよ。しかし向こうの死人ゼロだよ?」
「いずれ神に勝る魔物を作ろうではないか」
「……俺は自由にやらせてもらう。精霊獣を寄越せ」
黒髪の男は一人彼方を見ていた。
「ふう、まとまりのない奴らですね。五人も揃って大した成果も上がらんとは」
どうやらこの神官が取りまとめ役のようだ。
「あたしが直に攻めたって良かったんだぜ」
「それにはまだ早い。精霊人を作るには実験が足りない。お主らも理性を失って暴れるつもりなどないであろう」
学者風の男は言う。この危ない実験の主導はこの男がしているようだ。精霊を液体にして魔物に注入しているのだ。そして人間にも同じことをしようとしているようだ。
その五人はランシンの町を振り返る。この辺境を落とし、やがて国を落とす、そこまでがこの男たちの計画である。あるものは破壊を楽しむため、殺戮を楽しむため、またあるものは神に挑むため、そして自由を求めるもの、彼らをまとめるもの。
それぞれの目論みは違うが、一致しているのは、ただこの国を破壊すること。
彼らを裏で操るものは誰か、それはまだ闇の中に包まれている。しかし、侵略は始まっていた。
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