チートと旅立ち
アレスたちにひとしきり笑われたけどボクは一人で「やった! 当たりスキルだ!」と喜んでいた。だってこれだけでも餓えなくてすむんだから悪いスキルのはずがない。そのせいでアレスたちが嫌そうな顔をしていたけどボクは興味なかった。
スキルって比較的にその人が望むものが選ばれるのかも知れないね?
名前 ルーフィア 種族 人族 性別 女 年齢 15
レベル 5
HP 35/35
MP 22/22
職業傾向 治癒師
現職 薬草取り
神授スキル パンと水(魔力不使用) ランク F
一般スキル 薬草鑑定 人望 種族スキル(人族)
称号 ユニークレジェンドレアスキル保持者 聖書原典オタク スキルオタク 本好き 薬草鑑定士
ほら、これだけでもチートな香りがする。称号もユニークレジェンドレアスキル保持者になってるし、魔力なしでパンや水が出せるなら……餓えることは間違いなくない。
とりあえず出してみる。と、水はコップかなにか入れ物が必要なのか。パンだけを出してみよう。
ポン、と音がして空中に黒いパンが浮かぶ。硬くて歯が立たなそうな黒パンだ。これはランクがFだから仕方ない。
ランクが上がると色々なパンや水が出せるみたいだ。しかも水の方は温度も変えられる。つまり弱い魔物とかなら熱湯をかけて倒したりもできるってこと。十分有能なスキルだ。
でも黒パンを見てアレスたちはさらに笑うしアイリスたちも心配そうだ。神父様はその反応を嫌そうに見てるけどね。この神父様はいわゆる原典派なので女神に賜りしスキルは全て素晴らしいものと考えているんだ。
実際セレナのスキルは名前は普通だけどかなりチートっぽいしね。アイリスはなんかプリプリ怒り出したけど?!
「なんてこと。可愛いルーフィアがそんな変なスキルだなんて……。女神にクーリングオフよ! さあルーフィア、パンと水を女神の口に詰め込むのよ!!」
「できないよ?!」
うーん、けっこういいスキルなんだけど頭の中にスキル説明がインストールされたばっかりだから説明が難しいな。
そう悩んでいると聖女スキルのアイリスは神父様に連れていかれた。どうやら王都に行かないと駄目らしい。お別れの挨拶をしたかったけど仕方ない。ボクはセレナと一緒に家に帰ることにした。
あ、アレスも連れていかれた。ザグレートもついていった。腰巾着だしね。バートはいないな。興味ないけど。
旅立ちの準備しなきゃな。一応二人に手紙書いておこう。
家に帰る道、なんだか騒がしい。見ると空に煙が上がっている。ボクの家の方角だった。突然すぎてなにがなんだか分からないが、セレナと共に走った。
「ルー、あれ、貴女のうち!」
「えっ、えっ、なんでぇ?!」
幸いと言っていいのかあの家にはなにもない。財産も硬貨くらいしかないのでたぶん燃え残ってそう。それに大火事と言うほどにはなってない。
どうやら出火したのはスキル授与の儀式が終わって三人で話してる間くらいだったらしい。まだ小火と言えるレベルだ。でも変なのは火が出ているのは台所でも暖炉でもない、入り口だった。
「放火?」
「……? なんで?」
悲しいとかより驚いた。実際ボクはこの家は捨てるつもりだったので惜しいとかはない。燃やす物もほとんどないし。思い出はあるけど、悲しい思い出だし。
やっと家の前に着いたけれどやはり火の勢いは弱い。
「ちょうどいいスキルがある。炎術:消火」
セレナが魔力を放つ。たちまち小火は消火されていく。
これが神に授けられしスキルである。炎の術は炎の全てを操る。使い方はスキルを受け取った時にインプットされているはず。
炎術は、燃やしたいものは灰に変えるが燃やしたくないものは一切熱を伝えず、燃えているものを消すこともできる、文字通り炎を操る術なのである。
例えば人質を取られても犯人だけ燃やせる。神のスキルがその辺りの魔法の炎とは比べ物にならないのは明らかだった。
瞬きほどの時間で炎は消えた。
「ありがとセレナ! すごいスキルだね!」
「ふふ、役に立てた」
セレナにしてみればボクになにか負い目があるらしく、妙に手を貸そうとしてくる。いらないのになあ。そこにいてくれるだけで嬉しい。
でもセレナにはアイリスのそばにいてあげて欲しいんだけど。今のスキルを見てその気持ちが強くなった。
「セレナ、アイリスが王都に行ったらどうするの?」
「私は……そうね、アイリスについていてあげたい。あの子、かなり危なっかしい」
「ボクもそう思う。失言して不敬罪とか一日目の午前中に言われてる気がする」
「具体的な予測。たぶんあり得る」
全くアイリスの言動は信頼が置けないのである。まあ一応男爵の家系だし多少は大丈夫だと思う。聖女スキルって言われてたし。
単純に勇者スキルとか聖女スキルと言っても色々種類がある。神雷術とか聖剣技とかいう勇者スキルもある。基準はよく分からないけど神聖なスキルは勇者スキルとか聖女スキルに分類されているみたいだ。
中でも聖術は応用範囲が広すぎる。原典で言われてる強くて成長が難しいスキルのひとつだ。
「なので一見わけのわからないパンと水はすごいスキルの可能性を秘めているんだよ」
「……ルーってスキルマニアだね」
「そんなことないよ? 好きだけど」
ともあれ、ボクは二人とはお別れだ。とりあえずこの焼け跡調べてみよう。
「火球の痕跡がある」
「セレナが燃やしちゃった、って見せたい?」
「と、見せかけてる」
「ずっと教会にいたし神父様もいたから間違いなく冤罪だよ?」
「犯人は、バカ。たぶん賢者スキルとかもらって舞い上がったタイプのバカ」
「それもう犯人決めつけてない?!」
バートがもらった自然術は炎術や水術など自然に関するたくさんのスキルが使える。賢者スキルのひとつだが当然成長が難しいスキルだ。
たぶんセレナみたいには扱えない。炎術ひとつ極めるのも大変なんだ。全部極めるなんて長命の魔族じゃないと無理だよ。つまり人間には過ぎたスキルなんだ。それでやってることがこんなバカな犯罪行為。本物のバカだよ。
「アイリスが知ったら惨劇が起こる」
「起こるねぇ」
「……ルー、家がなくなって、平気なの?」
「んー、それが平気なのよ」
「豪傑ね!?」
セレナが動揺するの久しぶりに見た気がする。でもボクが泣き叫んだりしたら次の日にはセレナが犯人を灰にしてしまう。友達を犯罪者にしたくなんかない。
うーん、もうセレナには話しておこうかな。そうしたらアイリスもすぐに知る。
「ボクねえ、最初からスキルをもらえたらこの町、コノンを出るつもりだったんだ」
「それは、なぜ?」
「別に二人が嫌いとかじゃないんだよ?」
たぶんボクは、みんなが思ってるより薄情なのだ。十年前に泣き、おばあちゃんが亡くなって泣き、お母さんが亡くなって泣いた。痛いとかは平気なのに悲しいと耐えられないんだ。
「とりあえずお金と焼けてないカバンとかあったら持っていこう。買うものは、スコップと紙は必要だね」
「最初にトイレ用品?」
「食べ物は出せるしね。パンと水とか最高だぜ!」
「確かに旅人には最高ね」
よかった、笑ってくれた。
「治癒師スキルを鍛えておきたいから治癒の魔導書をまず買うでしょ? 武器はメイスが丈夫だし良いと思うんだ。お金はギルドにあるしね」
「計画的ね」
「そうだよ?」
ずっと思ってたんだ。都会って肌が合わないなって。それだけじゃないんだけど。
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