セレナ:脱出前に
セレナとアイリスのルーフィア評価は高めですね。
アイリスの調教はすんだ。いや、言い方。絶対ルーにつっこまれるからな。
アレスたちバカトリオはやっぱり伯爵令嬢に粉をかけようとしてしくじっている。知ったことではないが。早く死ねばいい。私たちぽっと出のスキル持ちが努力もなしに得られるものなどたかが知れている。
ルーはどれほど高みに登り詰めているだろう。私は彼女が成功していないなどこれっぽっちも思っていない。ルーは天才だ。こっちのアイリスも天才なんだけどね……。なぜか治癒術から結界術、祈り、光術に至るまで聖女スキルを完全にものにしているのだけど?
ルーが不平等だと泣きそうなくらい、聖女スキルの名に恥じない存在になっているわ。聖術の深淵をみて欲しい。まあ私も炎術をバカみたいに鍛えたけどね。幼子の枝毛だけ焼くくらいの精密なコントロールをものにしたの。敵対したらその場で灰にする。
「ねえー、女神様にそろそろ会いに行こうよー」
「モアリースト司教が根回ししてくれている。そろそろ出られるはず」
「あの第一王子とかキモいんだよぉ」
「大声で言わないで、分かってる」
第一王子は色ボケだから分かるけどね。ルーも言ってたけどこの子油断したら不敬罪になりそうなことを言い放つのよね。ルーがこっちに来てくれたらこんな苦労しなかったのかな。ルーが苦労するだけか。それは嫌だ。だが本当にこの国の王子は第一も第二も屑だ。第三王子は賢い。何を考えているかわからない怖さがあるが、彼が王になって欲しい。
その第三王子が対面から歩いてくる。城の中なので不思議ではないがひとりで歩いてる。まあ拐われたりもしないだろうが。ハスター様だったか。
「アイリス殿、セレナ殿、訓練かな?」
「はい、今日もチェルシー殿にしごかれる予定です」
「チェルシー、彼女は容赦を知らぬからな」
「Sランク冒険者の教えはためになります」
「よきかな。ああ、モアリースト司教が君たちを巡礼に出す話、僕からも一言添えておいた。期待しているよ?」
「?! 左様ですか。お話を伺いたいところですが、私たちが旅に出れば済む話でしょうか?」
ハスター王子はにんまりと笑う。小柄なハスター王子なので小さい子がにっこり笑ったように見える。ハニーブロンドとアクアマリンの瞳がルーを思わせる。いやあ、腹黒い。たぶん私たちがある程度実績を残せば彼の評価が高まり派閥を増やせる、そんな腹積もりなのだ。
私が心配するまでもなさそうだ。この王子が王になるだろう。それまでこの国の貴族が腐ってなければ。
「僕は姉上さえ幸福になれるならそれでいいのだよ。彼女に腐った貴族の世界は辛すぎる」
「分かります」
「姉上のスキルって『慈愛』なんだよ。姉上は世界を照らすお方だ」
この人の欠点はシスコンなところである。
第一王女のスージー様も今年が成人で、どこかに嫁入りする話になっているが、ハスター王子もそれを嫌がっているようだ。とても大人しい人だが同年代の女性ということで話を聞いたことがある。この国の腐敗、戦争を好む貴族たちを憂いておられた。
「ハスター殿下、最近城の中でささやかれている噂はご存じでしょうか?」
「城を出る君たちが気にする必要はない、と言いたいところだが、逆に外から見て欲しいところだな。まさか城の中に魔物が住まっているなどと、さすがに聞き捨てならぬからね」
ハスター王子はモアリースト司教とも仲がいいので信用できると思うが、話しておくべきかもしれない。
「私たちの友が必ず力になってくれます。この国で起こっていることを必ず知らせます。なので知り得る限りのことを教えてください」
「? そこまで言わしめる方かな?」
「彼女は人の愛を体現したような人ですよ。スキルを得た以上、彼女より頼りになる人が思い付きません」
ハスター王子はニヤリと笑った。
「僕も来年は成人だ。その少女を迎えに行ってもいいかな?」
「聖女に噛まれたくないならおすすめしませんわ」
「女の子どうしも萌えるけどもったいなくない?」
「そうですね、彼女を男にくれてやるなんてもったいないです」
「そこまでか。きっと国のために力を尽くしてくれそうだな。どの辺りにいるかは?」
「ペリテー領ランシン、カエデ村の辺りにいるはずです」
「ペリテー伯の土地なら間違いはあるまい。声をかけておこう」
「助かります」
第三王子が味方となれば心強いことこの上ない。いちいち全てを焼いてまわるわけにはいかない。この王子様ともっと予定を詰めたいところだ。どうするか。
「ハスター王子、今夜にでもお話しする機会をいただけませんか?」
「もちろん構わないよ、英雄となる人たちだからね」
「ご冗談を。しかしよろしくお願いしますね。チェルシー殿がうるさそうなので失礼いたします」
「チェルシーはうるさいだろうね。頑張ってくるといい」
「手加減して欲しいですわ」
「……そうか、チェルシーも連れていくがいい。手を回しておく」
「! それは助かります。殿下もお気をつけて」
「心配いらないさ。楽しくなりそうだな」
この人の頭の中など覗けはしないが恐ろしい策略家なのは感じられる。たぶん今のやり取りでも私が知らないなにかが含まれていたに違いない。味方と思えるゆえ油断はしないが信用はできる。頼もしい。
「ねーねー、あの王子様ルーに凄い似てない? ルーフィアって王族だったりするのかな?」
「その発想はなかった」
「可愛いわよねー。私ショタもいけるかも」
「浮気なら歓迎するわ、ルーは私のもの」
「しないから。私はルーフィアの物」
ルーフィアが自分の物と言わない辺りがこの友人が信用できる部分だ。まあルーフィアを自分の物にするのは無理だろう。じゃじゃ馬であるし、根っこがとてつもなく強いのが彼女だ。
自分の家を燃やされても友達のために泣かないなんて普通の精神力じゃない。バートを燃やさないのもルーが望まなかったからだ。どうせあの三人は自分で板子を踏み抜いて溺れ死ぬだろう。だから放置だ。
私はこれから始まるチェルシーさんとの特訓に震えていればいいのだ。あの人マジで容赦ないからな。
「今日もチェルシーさんと特訓かあ。あの人マジでピンク色のゴリラとか空を飛ぶパンサーみたいな謎生物よね」
「言い過ぎ」
「アイリス、セレナ、今日も地獄を見たいようだな。誰がピンクのダンス好きなマッチョなオランウータンが厚化粧をしたような女だ」
「「誰もそこまで言ってない」」
アイリスより口が悪い人を私は初めて知った。ハスター王子と会談できるだけ体力残るかな?
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