クロカミ
夜に二話投稿してこのお話も終わりとします。
(予定どおりではあるが、あの化け物を拳だけで砕くなんて……。だが、予定どおりだ。ブレアに託された魔石で、精霊を喰らうもののすべてを吸いとり、俺が完全な存在へと生まれ変わる。本来はブレアの力を吸いとる予定だったが、そこはブレアにより出力調整されている。……無様だな。俺は他人の力を借りねば最強に至れない)
だが、神へと至る。元々はこのための研究だったのだ。ブレアは天才だ。天才の中の天才。癖がおかしいのは天才の特徴でもある。嫌いではなかった。俺にここまでしてくれたからな。
実の親は貴族だったが二人とも五歳頃までに飢えて死んだ。それから、親戚に追放されて幼い頃の俺はただの物乞いだった。孤児院で暮らしつつ町中で物乞いをしていたが小銅貨を投げつけられるのが関の山。思い付きで残飯をもらえないかとあちこちの料理屋、宿屋、肉屋、八百屋を裏口から訪ねた。これは少し成果があった。
この思い付きをくれたのは肉屋のオジさんだった。裏通りを通っているとたまたまごみ捨てに出ていたオジさんがそのゴミと塩を少しくれたのだ。それは牛の内臓のようなものだった。スラムの瓦礫を集めて焚き火をして、焼いた。最初はほぼ焦がしたがそのままかじる。塩は美味かった。
何度か残飯漁りとその料理とは呼べない塩焼きを食って過ごしていたら匂いに釣られてスラムのチビが集まるようになった。「焦がしても芯は食える」とか、「生だと腹を下す」とか教えたりしているうちに、俺はそのガキのグループのリーダーになっていた。
俺たちはわずかな食料を漁りながら必死に生きていた。生きること以外に、正義なんてなかった。
だが、冬になる度に誰かは飢え、風邪を引き寝込み、亡くなる。それは繰り返し起こった。自分に力がないばかりに、それを見過ごすことしかできなかった。
なので冒険者になった。少しでも自分が稼いで孤児院を立て直さなければと思ったのだ。当然のようにいい顔はされない。苛烈だった。
ゴブリンに家庭用の、食事に使うような、肉を切り分ける少し大きめのナイフで斬りかかる。最初のうちは通用したし魔石も得られたが、普通に自分一人の食費を稼ぐのが関の山だった。
俺は、弱い。それがコンプレックスになるのに時間はかからなかった。
強くなるために。それは手段が目的になってしまった瞬間だろう。
得た金を武器に変える。当然孤児院で飢え死ぬ人間はとどまらなかった。余計に無力を感じた。
力を求めた。ひたすらに力を。もう、孤児院のことが見えていなかった気がする。
そんなある日、事件は起こった。町が、孤児院がドラゴンに襲われたのだ。
当然その当時の俺がドラゴンに勝てるはずもない。外に出ていたから俺は助かったが、その日、俺は全てを失った。家族を、友を。町を。
力がなかったからだ!
俺は力を求めた。さらに冒険者として毎日戦いに明け暮れた。いつしか竜を食らえるほどに強くなっていた。
そんなある日、ブレアに出会ったのだ。
「ほっほっほっ、力をお求めなら一緒に行きませぬか。神に挑もうと思っておりますでな」
神に。今となっては神が悪などとただの逃げ口上だと分かっているが、このくらいの若さの時は仕方ない。たった一人の神に文句を押し付けていた。
だがブレアの神に挑む気持ちはそんなに悪辣なものとは思わなかったのだ。例えば精霊兵は、飢えぬために精霊を取り込み、魔力によって生き抜くことができるという画期的なシステムだ。人間としての生や倫理を失うという欠点をどうにもクリアできなかったので悪魔の実験としか見られていないが。
ブレアのやつも立派に世界を優いていたのだ。だから俺はあいつに着いていたんだから。
無尽蔵の生と死を産み出し、結局は争いに身を投じ、全てを捨てるか、得るか、そんな博打になってしまったが、
戦うしかないのだ。
「へえ、神の段階まで踏み込めるんだ。ようこそ、こっち側に」
「ルーフィアぁ! 貴様に再び挑ませてもらうぜ!」
「こいよ。その苦しみを、歴史を、全て飲み込んでやろう。僕が昔日を埋める。ボクが倒したい一番の、飢えを、君と倒してやろう。豊穣を、傲慢なるボクが、おごってやろう!!」
「いくぞおおおおおおおおおおおおっっっらあ!!」
戦いが始まった。神と、神の!
「我こそは黒神、さあ、パンと水の神よ、我と戦え!」
「お前を満たすだけ、力の差をおごってやろう!!」
最初から結果なんて分かってる。最初から自分がひねたガキでしかないのは分かっている。でも失ったものは、仲間たちの命は、俺には重すぎて、もう戦うしかなくなったのだ。無様にも、力に頼ることしかできなくなってしまったのだ!!
「くらえええ!」
「がふっ!? いいパンチだなあ!! その苦しみごと、ほふってやろう!!」
「ルーフィアああああああああああああああ!! ブレアはお前のためにしんだあああああああああああ!!」
「ボクはまた誰かの命の上に立ったってことだろ!! もうそれは乗り越えた!! 幾多数多の生と死の上に、それでもボクは立つ。みんなに」
ルーフィア、お前も多くの悲しみを背負っているのだな。そこに差があるとは思わぬ。一人でも、命を背負うのは重いことだ。
「おおおおおおおおおおお!!」
負けぬ!
「みんなに、幸福をおごってやるんだ!! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ、おっらあ!!!」
「く、くっそお、すまん、ブレア、足りなかったあ!!」
ルーフィアとの殴り合い。もともと俺が勝てるはずもなかったのだ。自分で得た力ともらった力では。
でも、神にもらったスキルは平等だ。この戦いは、スキルを通さなかった。純粋な戦いだった。だから、俺に悔いはない。
ただ、ルーフィアは俺を殺してくれなかったのだが。
「幸福をおごってやるって言っただろうが」
最後まで、完敗していたらしい。
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