そしてパン屋が無双する
なんて言ったらいいか分からないの。コント性がちょっとこの辺りから強くなりますのよ。ほほほ。
町から見えなくなる辺りに来て、ヤクザな感じの人たちに囲まれました。バクダファミリーだー、へるぷ!
ボクも余裕あるなぁ~。
「こんにちは!」
元気な挨拶は基本だね! なんかガクッてなってる人多いけど。身内にも。
「てんメえー! 舐めくさりおってからにいッ!!」
「過剰なツッコミは脳の血管が切れるってさ~」
「ならお主はズタズタだな」
「ホントだ?!」
ボクは若いから平気さ。平気だよね?
「おうおう、あんさんらアテらのシマでたいそう儲けとるらしいなあ? この始末に五百万グリン寄越しな! 足りなきゃ借金漬けだあ!!」
「払う必要感じないなあ。頭悪いの、お爺ちゃんボケたの? 朝ごはんはもう食べたでしょ?」
「煽るではないか」
「き、き、き、」
「モンキー!」
「ウッキー!!」
「ホントにモンキーだ?!」
太っちょの悪党親分さんはモンキーだったらしい。お猿さんだよ?
「いあ、いあ」
「変なタイミングで出ないでライム?!」
「てめえら、やっちまえや~ッ!!」
「あの、オヤジ」
「なんだ? どうした?」
「全員足を縛られてます。動けません」
「のんびり交渉などしておるからだ。知っておるか? 風魔法には聞き耳、声送りなどというものがあってな」
衛兵さんは遠くにいるけどこちらを監視してくれてる。親分たちが町を出た時点から。親分たちの発言はギルティだと通信が来た。なのでその場で土術で捕らえにかかってたってわけ。やっぱりスキルや魔法に無知だと損するね!
「な、な、なに?」
汗ダラダラだね親分さん。パンをあげよう。
「もがっ!?」
「美味しいよねー、うちのパン」
全員の口に小さなパンを詰めていく。このパンはBランクになった時に作れるようになった水、というかポーション、自白剤液体が入ってるんだよ。複合スキルってやつ。
パンと水はわりと単純な土術みたいなスキルよりは育ちにくいし応用力も低いんだけどこういう使い方があったんだねえ。パンと水がここまで育ったのは魔力不使用って大恩恵があったから。代わりにすぐにお腹一杯になる。ちなみにボクのスキルなので吐き出そうとしても無駄。口に含んだら逆らえなくなる。美味しいから。
「じゃ、お飲み物を。死なない程度に睡眠ポーション、広がれ!」
ボクを中心に二十メートルくらいに睡眠ポーションをボールにして魔力で投げる。全員の顔に着弾。飲むまで待機! 無理に振り払ったらもう一回!
「えげぇ……もうゆるじでえ……」
「うん、もう会えないと思うけどね! さようなら!」
「衛兵たちよ、捕らえよ!」
「ハッ!」
衛兵さんいつの間に?! 行動速ッ!! てかリンゴが隊長かな?!
この町の衛兵さんはすでにボクのパンとビールでジャンキーになってるからね、いやジャンキーじゃない。ファンになってるからね、ロンさんが注意する前から味方になってくれてたんだよね。
いやー、近場に味方の兵隊さんができたからいっそう立てこもり式の籠城の可能性が広がったね!
これ無双って言うのかな? 言わないか。
「パン屋無双というか、ルーフィアのパン屋店員無双というか」
「まあいいや、帰ろう!」
こうして町の悪党バクダファミリーは壊滅したんだ。けど、僕らはこのことがもっと巨大な敵を生むとは、この時、知らなかった、気づかなかったんだ。
それは…………。
翌日。
「こっちだ! こっちにカツサンド二十!」
「ルーちゃん可愛いー! イチゴショートホールで!」
「こっちもよ! チョココロネ二十個!!」
「おーいビール! リンちゃんこっちに十杯頼む!」
「い、い、い、忙しい~!?」
「町の英雄の店と評判になってしまったな。孤児院総出で出てもらってるのに限界近い」
まさかこんな罠が潜んでいたなんて!! 誰が予測できただろうか?! 敵は見えるものとは限らない!! 忙しい生活はスローライフの敵だあ~!!
さらに。ミーヤちゃんと非常食にダンスさせたらお客が倍増した~!
「ギルドにも頼みましょうよ~!!」
孤児院の女の子に泣きが入った。もっと楽させてあげたいんだけどふがいないお母さんでごめんね。誰がお母さんだ!
「そうするよ!!」
「不肖セトラ、参上しました! 応援十人来ます!」
「あなたが神か!!」
ボクもさすがに混乱するよ!! でも商業ギルドからの応援助かる!! お給金のことはあとでいい!!
「これが本当のパン屋無双だな」
「上手いこと言ってる場合じゃないよお!!」
こうしてしばらく店がフィーバー状態になった。拠点開発に引きこもりたいけど暴動起こりそう。さすがにこの住民パワーに勝てるほど開発進んでないよお。
ちなみに次から五スペース取って座って飲み食いできるイートインスペース作っていいって。ころすきか。
でもね、帰ったらさらに追い討ちがかかってたんだ。
僕らがダンジョンっていうかまだ全然洞窟、に、帰ったら、家の前にゴブリンがいた。
いやね、軍隊作ろう、ゴブリンに襲われる、ゾンビはダメだ、むしろゴブリン軍隊にしたらいいんじゃね? ってなってね、出かける時に、うちの前に毎日一個パンを置くようにしてたんだ。そして今日は置いてなかったわけ。うっかりじゃないよ。五日ほどパンが食べられていてなくなるようになったから試してみたら、あの忙しさ。
二重三重の罠。このボクの目をもってしても見抜けないよ。この先司令官しないとダメなのにな~。
と、とりあえずゴブリンにパンを与えよう。手ずから与えないとテイムはできないからね。でもうち女の子ばっかりだからな~。ゴブリンに美醜は分かんないだろうしヤバくないかな~。ゴブリンは女の子を拐って子供を産ませるのは有名だもんね~。怖っ!!
ゴブリンは肌が黒っぽい緑色。森で姿を隠すためだね。手は長めで足は短め、頭とお腹が出ていて大きさは百二十センチくらいかな?
目はつり目で大きくて、瞳は白く濁ってる。耳は尖ってるね。手足の爪は切らないのか長い。お腹は膨らんでるしオデコも不自然に出っぱってる。
正直キモい。でもやらないと。テイムして仲間を呼ばせてテイムして、軍隊を作るんだ。
大丈夫、ボクの隣にはロバならぬ強さの非常食とスライムならぬ強さのライムがいる。後ろにはもっと強いリンゴがいる。ゴブリンなんて瞬殺だ。
ボクはパンを持って進む。いかがですか~?
するとゴブリンはなにを思ったのか、ペコリとうつむいた。いや、挨拶?!
そしてそろそろと手を出して、パンをつかむ。緊張が走る!
一歩下がってまたペコリ。授与式か!!
ゴブリンはその場でパンを食べた。瞬間にテイムに成功しました、の声。
やった! 明日からは軍隊作りだ!
君の名前はゴブ吉だ!
喜びの感情が伝わってくる。スライムやロバより具体的な感じがするなぁ。『今日から貴女を守ります』みたいな感覚がする。
さあ、中に入って、歓迎パーティーだ!
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