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セレナ:勇者たち

 すみません完全に寝ぼけてました。



 勇者二人の戦いは苛烈極まりなかった。


 広大な森を左右に飛び、分かれ、さんざんに剣閃を飛ばす。


 巨人に対してはバッタもいいとこの大きさしかない二人が巨人の腕すらも切り落とす勇者の斬撃を放っていく。


 勇者と呼ばれるだけはある。その瞬間最大速度はルーにも匹敵している。しかし、敵はブレアの最終兵器、神に挑むために作られた生命体。落とした腕をたちまち吸収し攻めてくるそれは、


 悪夢。


 私はひたすらにこの化け物を分析しているが、悪夢としか言えない構造をしている。そもそものこの巨人の外観は嘘だ。


 もっと言うなら、巨人という形、物理的な存在がある、そういう幻の一歩手前の存在であり、ダメージを与えたように見えてなんの痛痒も与えていないのだ。


 核がある。あれがブレアの作った最強の兵器だろう。精霊を吸収して外核を作り守りつつ、精霊の吸収も加速しているのだ。


 ブレアはアンデッドを使うことを一応は考えたらしい。恐らく魂の抜けた脱け殻のような存在に精霊という魂に近しい存在を集める欲求をもたらしたのだ。


 そしてより強力な能力を得るためにデーモンすら吸収する……いや? ブレアはそんな中途半端はしない。精霊どころかデーモンどころか、全てを喰らうんじゃないか?


 しかし、魔物は食らわれていない。死体が残っている。これは、ブレアがあの核に埋め込んだ毒のひとつなのか。


 どう見ても平穏には終わりそうにないが、ブレアの置き土産が楽しみになる。粘りに粘っていたのは分かっていたからな。


 テルナ様は役に立たないと分かっていて最後にブレアを援護した。その一瞬で立て直したブレアはなんらかの魔法を放って、ニヤリと笑って消えたのだ。


 ここにはクラリスさんがいる。彼女が本気を出したら仕留められるはずだ。


 しかし、少し怖い気もする。世界がはたして持つのかということ。


 さすがにブレアもその事は考えていたようで、セイフティーを作りプログラミングにより暴発も封じたんじゃないかと思う。


 神に挑むにしてもルーに挑むにしても、世界まで壊そうとは考えていなかったように思う。


 そうじゃなきゃシルフェイスを私たちに託したりしないもの。


 本気で明るい未来を見るために悪役をしていたのかもしれない。だから、まあちょっと迷惑だけど、ルーに挑もうと考えたのだろう。


 なんか悲しいな。協力するには私たちが生まれるのが遅すぎたのかもね。五十年近くひとりで世界の不況と戦い続けたのだから。


 帝国からニターナに移ったのはなんでだろう。そもそも正式に移っていたのかな? いや、暗躍してる感じだったのは分かるんだけどね。王子二人連れ去ってるし。


 まあうちも王子と王女連れてきてるけど。なぜかテルナ様は自分の子供より二人のことが好きみたいだし。血は繋がってないのにね。家族や親類は血液じゃないんだって思える。私の叔父叔母は銭ゲバでしかなかったし。


 そういえばカエデで成功した私のとこにきて猫なで声で資金を請求してきた魔物が二匹いたから焼いておいた。来世は金に埋もれる地獄でも味わえばいい。大人しく男爵夫妻をしていたら良かったんだ。誰が「お世話した人たち」だ。裏切った? むしろ正道だろ。私の金は法的に返してもらったからいいけどね。対価が大火傷とは大損だね。あ、殺してはないし私の地位的には不敬罪で済ましてくれたみたいだよ。ルーが。


 私はいい。傷ついても、壊れやしない。前世の記憶だってあるし、今世の常識だってある。


 壊れるなら、とうに壊れてるわ。だから、大丈夫。私は薄情だからね。


 でもルーは違うでしょ。このままじゃ壊れてしまう。それは絶対にダメ。本人はなんとも思っていない風だけれどそれが余計に怖い。


 ルーはただ人を無邪気に殺すような殺戮者じゃない。ルーを支える気持ちは「味方の騎士やその家族、平和を愛する民たち」に戦争をさせないために、自分が前に立つ、普通に考えてあり得ないことなのに彼女は躊躇ためらわない。だから愛してるのだけれど。


 そんな貴女がいつかコップに入れすぎた炭酸飲料みたいにしゅわあって音を立てて溢れてしまわないか、私は心配なのよ。


 ルーの動機はこうだ。「君が誰かを殺したならそれ以上罪を重ねないように殺してやろう」「背後の騎士たちが傷つかないように殺してやろう」「誰かが人を殺すことに痛みを感じるならボクが殺してやろう」


 ……全部、全部である。自分の痛みはガン無視だ。普通はあり得ない。


 ……でも、出会った頃からルーは、ルーフィアは、あの子は英雄体質だった。


 自分の思いでの家を焼かれても眉ひとつ動かさなかったんだよ。自分の痛みにそれはそれは鈍感になっていた。祖母が、母が、自分のために飢えて徐々に死んでいった。そんな状況で彼女が取った選択肢は、「痛んでも苦しんでもどうでもいい。他の人の幸せがあるなら」


 そして、彼女は傲慢になった。


 誰が憚ろうが知ったことではない。苦しむ者は守る。


 ただ救いだったのは別に自分を捨てているわけでもなく、スキルによって実力も得たことか。


 代わりにブラックブラック言いながら地獄のように仕事してるけど。魔王すらフラフラになるレベルの仕事を自分に課している。尊敬に値する。


 世の中は労働者を馬鹿にする。得られる利益が低いのになぜそこにしがみつくのかと。でも、私たちは違う。その労働に身をくくりつけつつ戦争までこなす。まるで神のように。


 そんな彼女が、なんの軋轢も感じていないなんて、私には信じられないし、苦しんでるならその部分は自分が替わりたいとも思ってる。


 ルーは私が花火とか病院とか学校とか、私が全部やったように思っているが、私は前世の記憶からアイデアを出しただけ。部下たちがそれを実現してくれただけなのだ。私の功績などないも同然。


 そう言っているのだが、なぜか部下もルーもなにを言ってるのか、みたいな顔をする。


 私なんてと言おうものなら従順だった部下たちが反旗を翻さんとばかりに食らいついてくるからね。


「セレナ様がいなかったら誰がこんなこと思い付くんですか!!」


「セレナ様を愛してる我らの気持ちも考えるべきです!」


「セレナ様が導いてくださったからここまで来れたのです!」


「どんどん虐げるレベルで仕事を押し付けてくださあい!!」


 最後の人はどうかと思うけどこんな感じだ。本当はみんなの功績なのにね。


 遠征のための保存食を美味しくするための瓶詰めを発明したと言われるナポレオンは実は部下に指示しただけだそうだ。ナポレオンもこんな気持ちだったのかも知れない。


「勇者たちが撤退してくる。休息の準備を」


『はい! セレナ様!』






 少しでも面白いな、続きを読みたいなって思ったら、ブックマーク、評価、感想をよろしくお願いします!


 評価はできれば☆☆☆☆☆→★★★★★でお願いします!_(:3」 ∠)_


 肉の話が書きたいです。というかセレナって人望ありますね。



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