ブレア:怒り
ブレアが暴れます。
盗まれた技術を追って北に来ましたぞ。正直に言いますと盗まれた技術はルーフィア殿を超えるどころか世界を滅ぼすようなものです。使わせてはなりませんな。まあ生きのいいデーモンの霊体を使うのは正直難しいと思うのですが。……デーモン使いはクレモットにいるはずなので分かりませんが。
しかしまあよくも我の一番の研究成果を狙ったように奪えたものですな。スパイなんぞいないので直感で奪っていったのでしょう。まあ実験施設は精霊だらけですからな、一目見れば分かるというものですが。
ハラワタは煮えくり返っておりますぞ。無能が人の研究成果を盗んで大きな顔をしていたら気分は良くないでしょう。
怒り。この感情を抱いたのはいつ以来ですかな。我はクロカミ殿だけを連れて北に来ました。クレモットの大地では……なんじゃあれ。聖女殿がアンデッドを蹴散らしまくっております。聖女はやはりどこかおかしいですな。
クロカミ殿には最終兵器を使うためのコードを与えています。これを使えば最終兵器を止めることもできる。しかしルーフィア殿に挑むというなら別に彼でなくても構わない。
潜伏しつつ情報を集めているとエリーシアさんたちが亡くなったことを聞きました。足止めのために残ってくださったのですが……ルーフィア殿は一日もかからず二人を倒してしまった。
やはり桁が違う。昔から英雄が誕生する時はこうでした。どんな大きな障害物も英雄は笑って乗り越える。隔絶した力、精神。千人殺したら英雄などと言いますが、千人も殺せるメンタルはなかなか持てないでしょう。
まだ若いルーフィア殿がその域に達しているのは驚異ですが、同時に悲しくありますな。
本当は彼女の心は死んでしまっているのかもしれません。辛くても自分の足で前に進んでいるのだとしたら、正しく英雄ですが。
なので許せません。ルーフィア殿を殺して良いのは我らだけだ。あの方だけに支えさせて得た平穏など無くなってしまえばいい。たった一人に荷物を背負わせるような社会など消えてしまえば良いのだ。
我らはルーフィア殿に休息を取っていただく。そのための戦いは我らこそが終わらせなければならない。
世界も神も悪くはない。悪いのは、人間だ。それを認めないから屑ばかりが世の中に蔓延るのだ。神に頼る信仰など無くなるべきだ。唾を吐くべきはくそったれな社会だろう。人間だ。
だから滅ぼしてやろう。どうせまたゴキブリのように増えるんだろうが、ちょうどいい口減らしになるだろう。他人に重荷を背負わせ呑気に生きているだけの俗物どもを消し去ってくれる。
いつも最初に傷つくのは勇敢な戦士や英雄たちだ。この構造を変えねばならん。
トップが偉そうにふんぞり返って贅沢をする、それのどこが悪いのだ。彼女たちは死ぬ思いで働いている。仕事が辛いとこぼしても仕事が嫌いだとは一言も漏らさない。
分かっているのだ、彼女たちの仕事が世界を支えていることを。
たかが十七、八の少女をそんな過酷な状況に追い込んでいるのは社会だ。無能にして怠惰な一般人。死んでしまっても文句をいわれる義理はなかろう。殺して、殺して、殺して、殺し尽くしてやりますでな。
明日を生きる英雄のために、悪は花開く。もはや迷いなどありませぬ。
もう一つ用意していた奥の手、これを以て奴を、精霊を喰らう者を止めましょう。
我は怒っているのですぞ。怠惰な者が嘘を吐き、盗み、適当に力を振るい、失敗し、災いを招く。本当に度しがたい。救いがありません。アイリス殿? あれは才能があればこそ許されるのです。真似するところが違う。彼女がしている努力は想像を絶しますでな。
敵の本体は移動中。まっすぐカエデ、ニターナ連合軍本体を目指しているようですな。叩き伏せてやりましょう。
しかし、この魔力の大きさ、抑えきれるかは分かりませんな。なにを材料に使ったのやら。まさか、デーモンエンペラー? 世界を壊す気ですか?!
カジェルの阿呆はどうやら盗んだ技術を盗まれたようですな。間抜けにもほどがありますな。所詮その程度の人間だったのでありましょう。今はニターナの檻の中。戦いが終われば処刑というところですか。
戦って死ねぬのはなかなかに辛いものですな。我は最後まで戦い、戦って死にましょう。
この怒りを形にするべく、精霊化実験の集大成をお見せしましょう。
クロカミさんは後の手筈をよろしくお願い致しますぞ。ルーフィア殿を超えるのは貴方だ。
さあ行きますかな、精霊をこの身に詰め込んで、エレメンタルジャイアントとして敵を滅ぼしますぞ!!
ブレアはここで人間としての終わりを迎えた。そして巨人化したその存在にカエデ、ニターナ連合軍は大いに怯えた。始末しようとしたセレナたちはその巨人がこちらを向かないことを訝しんだ。そしてなぜかそれがブレアであると分かった。その巨人を慈しむように、シルフェイスが飛んでいたからだ。
「ラムネがもう飲めない」
「ルーフィア殿なら出せますぞ。ルーフィア殿のところに行くのです」
「ルーフィアは好き。でもブレアはお父さん」
「敵は強大ですでな。さあ、お行きなさい」
シルフェイスの動かぬ表情。しかし、その瞳は水を称え、光っていた。動かぬ巨人からも雨のように水が溢れていた。
やがて山の向こう側、東からブレアをも上回る巨大な魔物が現れた。自然界に存在する精霊を喰らいながらより巨大に、より強力に進化し続ける、ブレア自身の最高傑作。精霊を喰らい、悪魔をも喰らい、死者としての不死性を持った最強最悪の化け物である。
ブレアは激怒した。そして同時に歓喜した。技術を奪われ勝手に良いように使われたのは怒り心頭に発するが、使われた素材が恐らく最上級。デーモンエンペラーの気配を感じさせた。さすがに素材にデーモンエンペラーを用意するなどブレアにも無理だったのだ。その点をクリアされて、嫉妬よりも歓喜が上回った。
自分の最高傑作を、さらに最高の形で行使されているのだ。
今からそれと戦わねばならぬ恐怖はあるが、むしろ試してみたい気持ちが勝った。
巨人、ブレアはさらなる巨大な化け物に走りより、飛び上がり、躍りかかった。
セレナたちはその巨人たちの決戦を見守ることにした。
そこにあるのは絶望か、悲しみか。
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物語は最終盤へ。




