精霊化魔族兵
「私はまだストックを三本残している!」
「魔王の変身回数なら頼もしいのにね」
そういうわけで、ボクらは南に向かった。最初はレグイーナンさんと合流だ。
レグイーナンさんはリンゴたちと同じタイプの魔族じゃなく人魚タイプだよ。水系だ。確かリナレアさんの配下。
十四才くらいの見た目の可愛い子だよ。四十代らしいけど。そういえば敵の魔王も水系だっけ?
「状況説明を」
お、クラリスさんがかっこいい。二時まで問屋で死にかけてた人に思えないよ! ひどい国だなうち?!
「マーク王都には街ごとの封印結界を用い、一時的に異界に保存しております。その場には敵対象に対するトラップを展開し、敵の各個撃破を狙っております。戦術としてはエルエーナ街道入り口に砦を設け足止めし、さらに何段階か砦を使うことで敵の将軍格を一つずつ仕留めていく計画です。問題になりますのが……戦力ですね」
まあだから踏み込まれたんだけどね。一応その事についてとか四天王を失ったこととか各所で大敗したことを詫びられたけど、そのことはいい。それにしてもすごいことしてるな。街ごと封印ってなんだよ。さすが魔王国なのか。
敵は、シルフェイスを上回るようなのがうじゃうじゃ涌いたら敵うはずがないからね。魔王国が弱いって話じゃない。
強い魔王軍が精霊兵になって魔王軍を攻めた、と考えれば抗えるはずがないんだ。特別な人が十人以上いるカエデ女王国の異常さが分かるよね。
モアリースト司教なんて新書派を蹴散らしたら引退するのかと思ったら、厄介ごとが片付いたので内政頑張りますぞ、とか言ってハッスルし始めたからね。しかも人脈がすごかった。宗教関係者から貴族から騎士から冒険者まで知り合いが。
はっきり言ってよくそこまで人のことを覚えていられるよね。そのことでうらやましいなあって言ったら「包丁が鉛筆の仕事をすることはないように、まあ適材適所ですな」と言われた。ボクは旗頭に向いてるらしい。軽いし風に乗るし。……ほめられてる?
とりあえず今後の作戦として、ボクらも敵がわかんないから当てていくことにした。ボクとクラリスさん、リンゴ、エリメータさんで敵の後方を撹乱する。
うちの四天王は防衛拠点建設だよ。パンも配る!
「常套手段になっているが、飯を食わせる、って軍隊ではすごい有効な戦術だな」
クラリスさんが変な感心をしている。たまたまだけどねえ。そもそも飢えを無くすための戦争なんだ。ボクたちが決めた。ブレアや帝国とは戦争の動機が違う。だから侵略だけの帝国も力が全ての魔王国も、ボクには勝てない。
スキル:パンと水は、最初から最強のスキルだよ!
まあ戦闘能力は低いんだけども。
「……いや、最強だが?」
「それはなあ~い」
「気持ち悪い」
「ひどいよ?!」
レベルだよ、レベル。ブラック企業による超強化。いまさら思うけどさ、バトル小説とかの修業法こそブラックじゃね?!
命かけないとヤバい局面は分かるんだけど! 洗脳されてない?!
さて、敵陣の横について偵察の妖精たちを送り出した。対価ははちみつロールパンである。妖精たち大ハッスル。密偵がハッスルしないで?
まあ優秀なんだけど。隠密性能が精霊並み。ほぼ見つからない。正し一部以外はあんまりお利口じゃないので正確に情報が得られないことがある。……一部は賢いんだよ?
「敵はいっぱい並んでました」
「お山に集まってました」
「お城を作ってました」
「ロールパンください」
「ごはん」
「敵軍は小高い丘の上に橋頭堡となる砦を築き破城槌などの攻城兵器を集め、こちらの砦に夜襲をかけようと目論んでいるようです。こちらから奇襲をかけるなら夜に、敵が出陣し砦が開いた後が良いでしょう」
「差がすごいな?!」
賢い妖精一人で良くない? まあはちみつロールパンは約束してあるので出すが。というかすごい食べるな! どこに入ってるの?!
妖精は二十センチくらいだよ。食べてるパンより体積が小さいくらいの体つき。食べたものは魔力に変換されているらしい。ちなみに一番食べたのは賢い子だ。許す。
「夜襲にカウンターって感じか。敵の強さが分からないんだけどなあ」
そもそも相手は魔族を追い返した精霊化魔族兵だ。そういえばブレアは人間も属性を持っているようなことを言ってたな。その結果がシルフェイスなんだけど、なんだろ、シルフェイスが特別に強いのは分かるんだけど、ブレアの扱いが他と違う気がするのだ。実験材料扱いをしていないような?
気のせいかも知れないが。孫が可愛くなってしまうお爺ちゃんのように見えるのだが。
それは置いといて。魔族は属性が分かりやすい。つまり精霊を足しやすい。
だけど逆に見ればすでに精霊の力を得てるから魔族は強いんじゃなかろうか? リンゴやクラリスさんやビビさんは基本的な魔族の姿をしているんだがそれぞれ光や土なんかの属性を持っている。そしてその方が、精霊に近くない方が逆に強い気がする。
精霊化がどれくらい意味を持つのかを今のうちに考察しているわけだが、敵の強さのサンプルが「魔王軍全敗」なので、計りようがない。ううーん。
「全く戦えないレベルでもなかったらしいぞ。物量で負けているらしい」
「クラリスさんは援助しなかったの?」
「人員はな。お金はあったから物資は送ったが」
時期的に秋から冬で物資も高かったろう。責めても仕方ないな。まあひと当てするしかないとなったらボクが出るんだが、最近は大将のボクを出したがらないんだよね、みんな。それでもヤバいのが来たら出るけど。
「ここは我が行くか?」
「クラリスさんは強すぎて指標にならないからね?」
どこのだれが魔王を物差しに使うんだよ。大は小を兼ねないから。世界地図でご近所の八百屋さん探さないからね?
「まあ我が行くのが妥当かな。変身すればさすがに負けまい」
リンゴだよね。実際に戦ってみないことには分からないからなあ。ただまあブレアがそんな半端な兵隊をいまさら動員するかなというのはある。シルフェイスを作ってからかなり自信が出てきたみたいだしね。
でもカジェルとか見てると本当にブレアって研究者としてはすごいのかなって思うよね。セレナの方が天才だけど。
ボクらは奇襲を覚られないようにリンゴを一度反対側から送り込んでみることにした。テレポート要員を一人つけて。当てたら逃げるスタイル!
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肉を食べるのです。そうすればアイデアがひらめきましょう!
いや、プロットは終わってるんだって。書くだけなの。




