パンを売りに行こう!
リンゴが有能。
ボクは今はけっこうお金はあるんだけど、……働こうかなって。働いてないと落ちつかないんだ。庶民だね。
それでついでにリンゴの欲しいものや本も買おうかなって。健全でしょ? 朝御飯の時間に誘ってみようかなって。
ちなみに今日はハムレタスサンドをみんなで食べてる。色々選んでいいんだよ? 飲みすぎて胃が重いのかな? ライムも? スライムに胃は無いよ?
ちなみに神スキルで作ったから胃は重くならない。眠いだけだと思われる。
「買い物とパン売り、あと、お皿とガラスのコップとか売らない?」
そう聞くと、テーブルをばん、と叩いてギラリとにらみつけてくるリンゴ。背景でゴゴゴゴ……って音がしてるね。地震かな?
「我に労働を求めるか。良かろう!」
「いいんだ?! 断るムーブかと思ったよ?!」
「働かざる者食うべからず」
「魔族って律儀だね?!」
そういうわけでボクことルーフィアとリンゴはおでかけします!
ライムはついてくるらしい。意外と力持ちなリンゴがリュックに入れて持ってくれる。大きいバッグも買わないとね。じゃあしゅっぱ~つ!
道中芽吹いている山菜や春薬草を摘みながら町を目指す。五才の頃の記憶なのにわりと覚えてるんだよね。オレンジお姉さんのことも昨日のことのように思い出せる。
あの人は星占術師だと言っていたけどボクの記憶が確かならその前に村全体を燃やしてた火事が一瞬で消えたんだよね。魔法にしては大規模すぎる。
まあスキルは秘匿する人も多いからね。名前ではよく分からないスキルとかもあるし、昔読んだスキル辞典だと百万人に一人しかもらえないスキルや世界たったひとつのスキルとかもあるとは書かれていた。ボクのがそれだから分かるけど。
つまりあんまり隠す意味はない。アレスたちみたいにバカにする人はいるけど現にボクは生活にまったく困らなくなってる。アレスたちはどーせそろそろバカやらかして苦言呈されてるんだろうな。
「ルーフィア、これは食えぬのか?」
「あ、よく見てたね。これね、さっき取った山菜に見えるけど毒草」
「……よく分かるな?」
「薬草鑑定持ってます(胸そらし)」
「揉む」
「揉まないで?」
リンゴはまだ成長が足りないけど種族のせいだから気にしなくていいのにね。お母さんはなかなかの体型らしい。まあリンゴが育つ前にボクが死ぬけど。成人が百五十才らしい。死ぬのは戦って死ぬか病死とか事故死とか飢え。老衰は滅多にないそうだ。
「あ、見えてきたよ」
「あれが人間の町か」
「ランシンの町だよ! 辺境でも大きめの町なんだ。開拓の中心点だよ!」
「栄えておる」
キョロキョロと周りを見渡すリンゴが可愛いよ。こうしてみると小さい子にしか見えないんだよなぁ。
ランシンの町は石畳ができていて防壁も整ってるし、衛兵は門を守ってるけど人頭税はない。発展の礎だから村の人の出入りが多く、税金をかけちゃうとブレーキになるからね。
その代わり場所代が高い。ボクは露店商の予定だからそんなでもない。村人に商売のチャンスがあるんだ。さっそく商業ギルドに行く。扉が綺麗な両開き。まあ片側しか開かないように止めてあるけど。
ロバを裏手に繋げるので非常食を繋ぐ。え、カツサンド食べたいの? 水はシードル? 酔うと踊らない?
リンゴは相変わらずキョロキョロギルドの中を覗いている。珍しいのかな? 小さな手を引いてカウンターへ。普通に握らせたな。寂しいのかな?
ギルドのお姉さんに場所代を払う。100グリン……安い本が五冊は買えるな……。魔導書はとても買えないけど。しっかり稼ごう。稼ぎの一割は税金か。かなり安い方だね。ボクの場合原価がほぼゼロだから帳簿付けが面倒かも。露店商だからこれだけどお店を持つと利益の三割も取られる。その代わり優遇して冒険者を雇ったり宣伝してもらえたりするそうだ。
「これ、みなさんで食べてください」
「あら、柔らかいパンねえ?」
「中にジャムが入ってて甘いんですよ」
大きめの紙包みにいっぱいのジャムパンを入れてある。お試しなので小さめだ。パンは焼きたての香りが漂っている。何人かヨダレを飲み込んだ。これはかつる!
「じゃあ行ってきます!」
「はい、頑張ってねボク!」
少年扱いされたけどまあその方がいい。ギルドを出ると中から声が上がる。しばらくすると誰かの歓声が聞こえた。勝った!
露店商が並ぶ裏通りに入って指定の場所に防水加工されたシートを引いて小さな棚をリンゴに作ってもらう。傘も買わないとね。今までは屋台レンタルだったからそれは少し痛かったんだよね。屋台を買ってギルドに置いてもらうのもアリだけど。ロバの非常食がいるし引いてもらえば良いよね!
「商品を並べるよ。最初だからパンとジュースだけ売ろう。コップを用意してくれる?」
「よかろう」
りんごジュース一杯3グリンにしよう。器無しなら一杯2グリン。かなり安い。市販品より一割は安いね。お釣りも用意して。大きめのリンゴジュースを入れるタンクを作ってもらう。土術マジ便利。なみなみとりんごジュースを入れる。甘いのに後味スッキリ。
惣菜パンとジャムパンを並べて、値段表を置いて、さあ、開店です!
非常食がウォフ!とひときわ大きく鳴く。さっそく香りに誘われたお客様が来てくれたけど、恐る恐るだね。
「な、なあ坊主、その甘い匂いがするのはなんだ?」
やっぱり香りに誘われるんだね。コップを洗う洗面器と水を貯めるタンクも作ってもらおう。うちは清潔指向です!
「りんごのジュースですよ。一杯飲んでみませんか?」
「3グリンか。安くねえか? 普通に5グリンするぞ?」
これは先輩として教えてくれてるんだね。とりあえず一杯と。値段設定、次は変えよう。
「うめえ、なんだこれ。すげえスッキリ。お、MP回復してる!」
ヤバい、安すぎた。次にお兄さんはカツサンドを試してくれた。りんごジュースを追加。まいど!
「うっっっめえええええええ!! しかもHP回復?! なんだ、レベルアップした?!」
ヤバい、安すぎた。分かる人には分かるんだよなぁ。
「もう一杯、あとパンを、おすすめは?」
「ホットドッグおすすめでーす!」
「うんんっめえええええ!!」
羊さんかな? 彼が騒いだのでお客が集まる。さらに彼は新人応援キャンペーンなのかどれがどう美味しいか説明してくれた。ヤバい、ラッシュだぞ! リンゴはコップを洗うふりをしながら新しいコップを増やしている。
売れる! 売れる~!
二時の鐘が鳴るまでに十分利益が出たので閉めようとするも、閉店の看板を出してからもお客さんが並ぶ。リンゴに最後尾の看板を出して立ってもらう。コップを洗う手間を見てお姉さんが代わりに看板を持ってくれた。対策必要だね。
なんとかはけた。今日の売り上げは六千グリン、税金を抜いて五千四百グリンとなりました。えーとね、安月給の人の一ヶ月分にもなった。高級宿に三人で泊まっても余るね。三時間でこれだよ? 明日はもっと早くに来なきゃ。
そのあとギルドに立ち寄り税金を払ったら驚かれた。原価も計算しなさいって言われるのがすごく困る。
逃げ出して、必要な本を買ってから、ボクらは孤児院に向かった。戦力が欲しい!
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セトラ「しませんが?!」




