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辺境伯の第六夫人! ~奥様たちは特殊戦闘員~  作者: フミヅキ
第一章 第六夫人の華麗なる日常
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第六夫人の華麗なる日常⑨

 辺境伯が参戦して一刻ばかり経つと、あらかたの魔物が片付けられ、生き残った魔物たちもアンダーストラクチャーへの遁走を始めていた。ルシエルの一団も砦への帰途に就く。


「まあ! ルシエル、やっぱり来ていたのね!」


 目ざとく辺境伯の姿を見つけたエルフの第五夫人キーリィはルシエルに飛び付き、彼の腕に自分の腕を絡めてご機嫌に笑った。


 彼女の鉄製手甲や膝あてには血と肉片がこびり付いており、最初のデュラハンを撃破後も多くの魔物たちを屠ってきたことがわかる。それを見たルシエルはにこりと笑った。


「キーリィも頑張ったようだな」


「ええ、もちろん! ねえ、レティシア、わたし大活躍だったでしょう?」


「はい。やはりキーリィ様の手により戦闘初期に敵将の指示系統を折ることができたことは、短期決着への貢献がとても大きいです。偉大なる精霊魔法の使い手にして最強の武闘家、キーリィ様に女子特殊攻兵隊の機動力がかかっています」


「聞いた、ルシエル?」


「さすがキーリィだ」


 レティシアと辺境伯の称賛にキーリィは鼻高々だった。


 辺境伯一行が砦の下に帰り着くと、空から瑠璃色のドラゴンが舞い降りた。妹のマミアがドラゴンから先に飛び降りて、砦に待機していた女性兵たちに抱きかかえていた裸の伊織と自分の盾を引き渡した。伊織は元の幼子の形態に戻り、眠っている。


 マミアは姉がドラゴンを降りるのを手伝い、地上に降りたハミアが指笛を吹くとドラゴンは自らの巣を目指して去っていった。


「あね様の杖を」


 マミアは女性兵が持ってきた杖をハミアに手渡す。ハミアが杖を使って前方を探りながら歩き始めると、マミアが杖を持っていない方の腕をとって歩行の補助をした。


「なあマミア、ハミアの飾りをとってくれ」

「わかった、あね様」


 マミアが姉の目隠し用の飾りを取ると、その下には妹とそっくりの顔があったが、目は傷で潰されていた。竜使いに選ばれた乙女は、代償として己が目を捧げる必要があるのだ。


「ご苦労だったな、ハミア、マミア」


「その声は卿か。この戦はなかなか疲れた」

「あね様は伊織の誘導の方に神経を使ったようだ」


 辺境伯の参戦で予想以上に早く巨大デュラハンとの決着がついてしまい、ドラゴンは銀孤の注意を引きながら、魔物たちの集団の方へと伊織を誘導し続けていたのだ。銀孤の習性を知っている辺境伯軍も、うまく兵を引かせて連携し合った。


「余計なことをしたか?」


「いや、卿の力には助けられた。なにより我らと伊織の無事が一番だからな」


 一行が砦の陣内に戻ると、女性兵が伊織をソファに寝かせ、翡翠の数珠飾りを付け直してから毛布を掛けた。さっきまでの暴れ方が嘘のように伊織は穏やかな寝息をたてて眠っている。


「伊織もよく頑張ったな」


 辺境伯は伊織の柔らかい銀色の髪を撫でると、彼女の狐耳がピクリと震えた。


「ルシエル、皆さん、おかえりなさい」


 車椅子のネイスが優しい笑顔で言うと、辺境伯は目を細める。


「ネイス……ただいま」


 ルシエルは車椅子のネイスの前で床に片膝を付き、彼女の手を取って口付けをした。


 立ち上がった辺境伯は、第一夫人ネイス・ヘラ・ギザリア、第二夫人(甲)ハミア・ハナーシュ、第二夫人(乙)マミア・ハナーシュ、第四夫人伊織、第五夫人キーリィ・キニューリヤ、第六夫人レティシア・ブロアードを順番に見つめる。


「戦いは終わった。妻たちよ、我が家へ帰ろう」


 ルシエルの言葉に夫人たちは笑顔で頷いた。

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