蔓薔薇屋敷の華麗なるご夫人方⑧
ガブリエルは単にデュラハンの頭部と身体を手に入れただけではなかった。
それらの魔力と魔術知識を引き出すこともでき、さらにはデュラハン配下の魔物たちを従わせることもできた。彼はその力のテストとして、ブロアード地区のマフィアに配下のゴブリンを貸与した。そこにネイスが絡んできたことから、ルシエルへの反逆にも利用してみた。
このチャレンジは失敗に終わったが、ガブリエルは代わりにデュラハンの能力を引き出すコツを会得した。デュラハンの元の意識が彼に対して秘匿しようとしていた知識の深淵へと降りられるようになっていった。攻撃や防御のための闇魔術の術式、その中には禁忌の闇魔術に関するものもあった。
「ハハハ! 魔物どもにも禁忌はあるのか。配下とした魔物を供物にしての身体強化術式が禁忌とは……。魔物でも仲間を犠牲にする技は外道であるわけだ。面白い!」
微かに残るデュラハンの元の意識は嫌がったが、精神の支配率においてガブリエルに逆らうことはできなかった。
「面白いぞ! 魔物どもの外法をもって我が甥に挑戦してやろう!」
兄や甥に対してヒリヒリと感じていた火傷のような感情――それを覆すための身を焦がすような野心をもって、ガブリエルは偽モンスター・スタンピードを引き起こし、魔物たちを犠牲に新たな強い体を作る闇魔術を実行した。
甥の女の一人がデュラハンの『身体』の方を敵将と見抜いたことには驚いたが、それを潰されたところで作戦に問題はないと判断して好きにさせた。闇魔術を発動させる『頭部』の方は見つかるまい、むしろ『身体』を含めて周囲の魔物を潰されたとしても闇魔術への供物が増えるので構うまいとさえ考えた。最強の身体を作りだし、生き残った魔物どもと共に辺境伯に反逆するのだ。
しかし、あの女は『頭部』の闇魔術の行使に気付き、早期に対処した。身体強化術式は失敗し、ルシエルが到着したこともあって魔物たちも平定されてしまった。
このため、ガブリエルはもう一度ゴブリンを使っての暗殺計画を練って実行したが、失敗。計画はことごとく失敗に終わった。
(すべてをルシエルが――いや、奴の女ども、特にあの赤毛の女に邪魔された。ルシエルの最下位の側室にな)
巨大な銀孤に噛砕かれながら、ガブリエルは苦々しく溜め息をこぼす。
(身体強化だけは成功したかったものだ。魔物どもの身体的強さと魔術的強さのすべてを手に入れて、ルシエルと戦えたら……! かつてなく面白い、楽しい組み合いが出来たであろうな)
すでに顔を食われて表情を作れないガブリエルは「くくくっ!」と心の中で楽しげに笑う。ついに銀孤は彼の思考の中枢を噛砕き、ガブリエルの意識が途絶えた。その精神は闇へ――死の世界へと消えていった。




