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辺境伯の第六夫人! ~奥様たちは特殊戦闘員~  作者: フミヅキ
第三章 蔓薔薇屋敷の華麗なるご夫人方
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蔓薔薇屋敷の華麗なるご夫人方⑥

――ゴロンゴロンゴロン……


 ガブリエルの首は胴体から外れ、場にそぐわない喜劇のような音と共に地面に転がった。


「は……?」


 ワルドとムートが呆気にとられて転がる首の行方を見守る。だが、二人のショックはさらに続くことになった。


「まさか……ここまでバレていたとはな……」


 そう言って、床に転がったガブリエルの首が呆れと諦めの混ざったような溜め息をついたのだ。


『ひ、ひひえええええ!』


 ワルドとムートが揃って腰を抜かした。レティシアが鋭く叫ぶ。


「皆さん、ガブリエル様の目を見てはなりません!」


 レティシアはガブリエルの首の根本を槍で刺して持ち上げ、上空へと勢いよく放り投げた。


「キーリィ様!」


「わかっているわ! わが友よ、風の乙女シルフよ、アレを北へと運んで!」


 嵐のような風が吹き、強風はガブリエルの首を吹き飛ばした。


「伊織ちゃん、鞠の玩具よ!」


 北の方角には悪臭漂うゴミ廃棄所が広がっており、そこには辺境伯第四夫人の伊織が待ち構えていた。ただし、封印の数珠は既に取り去され、童女としての意識は飛んで獣の精神へと交代しつつある状態。それに合わせて彼女の姿も巨体の銀孤形態へと変化し始めていた。


「グルガアアアアアアア!」


 咆哮しながら巨大化し、九尾の銀孤となった伊織は、飛ばされてきたガブリエルの頭部へと飛び付いた。


 ゴミの悪臭が不快らしい伊織は、そのストレスを発散するように執拗にガブリエルの首を弄ぶ。爪を立て、齧りつき、皮膚や頭髪や目鼻を削いで、最後は骨ごとバリバリと頬張り始めた。


 一方、残されたガブリエルの首から下の胴体がもぞもぞと動き続けているのを、キーリィとメイド兵たちとで捕縛し、ルシエルが魔術封印呪を施したうえで馬車に放り込んだ。


「レティシア、あれ――あの首なしの身体はどうするつもりなの?」


 キーリィが問うと、レティシアは溜め息をつきながら答えた。


「一応、形式上の裁きを下したのち、火刑か何かで処分……といったところですかね。あの身体がガブリエル様のご遺体として葬られることになるでしょう」


 銀狐と化した伊織はガブリエルの頭部を飲み下そうとしていた。ハミアがレティシアに尋ねる。


「どうする? 頭が片付いた後、伊織の意識をどこかに逸らさねばこの街が危うかろう。ハミアが竜に乗って注意を引くか?」


 馬車から戻ってきたルシエルが頭を横に振った。


「それは不要だ、ハミア。今の君ではドラゴンの操作は厳しいだろうし、何よりも君は体を大切にしないと。長旅の疲れも心配だから休みなさい。伊織の遊び相手は私がするよ。久々に相撲でもするかな」


 そう言ってルシエルは拳を鳴らしながら、巨大銀孤の待つゴミ廃棄所へと歩いて行った。


 ようやく我に返った辺境監理官ワルドはレティシアの腕を揺さぶる。


「あ、あ、あれは何だったのだ!」


「ご覧のとおり、デュラハンですよ。ガブリエル・ギザリアは魔物になり果てていた……ということです」


「どういうことだね?」


「取り寄せたエネリア砦の日誌――十年以上前のものですが、アンダーストラクチャーから這い出てきたデュラハンとの交戦記録が残っていました。日誌にはガブリエル様がデュラハンを駆除したとだけ記録されていましたが……おそらくは、ガブリエル様に追い詰められたデュラハンは、あの方の肉体を……」


「乗っ取ろうとしたのか……!」


「ええ。しかし、逆にデュラハンの能力ごとガブリエル様に取り込まれてしまったのでしょう」


「そんなことが有りうるのか……!」


「ガブリエル様自身もギザリア直系のお血筋で、特殊な体質と能力を潜在的にお持ちのはずですから」


「なるほど……。では、奪ったデュラハンの力でこのゴブリン達を操っていたのか……」


 ルシエルに切り捨てられたゴブリンをワルドは恐々と見渡しながら言い、レティシアは重々しく頷く。


「ええ。しかし、本件だけではありません。デュラハンの能力と共に、デュラハンの元々の配下だったアンダーストラクチャーの魔物たちも動員して、少し前の偽モンスター・スタンピードや、昔のゴブリン事件を引き起こしたのもガブリエル様です」


「な、なんと……! 私の赴任時のあれはそういうことだったのか!」


 ワルドは言葉を失い、茫然とレティシアを見つめる。


 一方、バティスティリ組の現棟梁であるムートは、ドリスに詰め寄っていた。


「テ、テ、テメェ! オ、オレを騙したのか!」


「いやいや、何言ってんですか。すべてムートさんがレティシアさんと仕組んだ策略でしょう?」


 朗らかに笑いながら言うドリスに、ムートは勢いを削がれてしまう。


「へ……? ド、ドリス、オメェ何言って……?」


「組のさらなる発展のためには辺境伯との繋がりは必須だし、四年前のゴブリン事件の真犯人に借りを返すチャンスだってんで張り切ってたじゃありませんか。ここでやらなきゃ、男が廃るってさ」


 ドリスの言葉にムートは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしたが、ドリスは気にせず周囲の組員たちに向かって微笑んだ。


「お前たち、ムートさんはさすがだと思うだろ?」


「ヘイ! さすがオレらのボスです!」


「オレら、ブロアードのゴブリン騒ぎを収めたムートさんの手腕に惚れてバティスティリ組に入ったっす」


「相手を油断させるためにわざと逃げ惑うフリしてんたんですよね? すごい演技力でした! さすがっす!」


 尊敬の表情と称賛の言葉を向けられたムートは最初は戸惑い気味だったが、何秒後かにはヘラリと笑った。


「へ、あ、あ、そ、そう? い、いや~、実はそうなんだよ! 頼りないボスの演技はたいへんだったな~」


 さっきまでの怒りや戸惑いはどこへやら。ふんぞり返って組員たちに自分の手柄として今回の顛末を虚実織り交ぜながら語るムートを見て、ドリスは苦笑しながらレティシアの元に寄る。


「お疲れ様でした、レティシアさん」


「うまいことやってくれてありがとな、ドリス」


「いえいえ。うちの組はムートさん以外はしっかりした奴ばっかなんで。……ムートさんには事前に計画を教えちまったら、ガチガチになってうまく行かねぇと思ったんで黙って連れてきました」


「いや、リアルな反応の奴が何人かいてくれた方がよかったのさ。あの男を油断させるためにはな」


 そう言って、最後の肉片を銀孤に飲み込まれようとするガブリエルをレティシアは見つめた。


「これにて一件落着――。最初のゴブリン騒動から約四年。長かったな……」


 レティシアはふぅと息を吐き出して、ブロアードの澄んだ青空を見上げた。

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