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辺境伯の第六夫人! ~奥様たちは特殊戦闘員~  作者: フミヅキ
第二章 レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒
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レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒⑰

「へえ~。それがあなたとルシエルやネイス先生との出会いなのね」


 葡萄酒の入ったグラスを傾けながら、少し頬の赤いキーリィが言った。


「無事にゴブリンは退治できたの?」


「ええ。水攻めはうまく行きました。ルシエル様指揮のもと、水路工事はあっという間に竣工し、ブロアードの地下のゴブリンの巣穴に水を流し込みました。ゴブリンの卵や幼体は水没、溺死。水で巣を追い立てられたゴブリンたちは、穴の出口で待ち構えていた辺境伯軍が駆除しました」


「さすがね!」


 キーリィは上機嫌で葡萄酒を煽る。


「それで……何て言ったかしら、あのムカつくマフィアはどうしたの?」


「ああ、バティスティリ組のゼーダさんたちですか? それもきっちり片を付けましたよ」


 キーリィの空いたグラスと自分のグラスに葡萄酒を注ぎながら、レティシアはクスリと笑う。


「ゴブリンの巣穴を開けられた場所のうち一か所、頑丈な建物があったのです。そこはルシエル様に頼んで辺境伯軍の兵士を配置せず、ただし、頑丈に戸口を補強して水攻めで這い出てきたゴブリンたちを閉じ込めておきました」


「へえ、それじゃあ、そこに?」


 キーリィの言葉にレティシアは頷く。


「はい。ゴブリンの駆除が終わったと聞きつけてノコノコ帰っていらっしゃったバティスティリ組のご一同をそこへ誘い出し、ゴブリンに片を付けて頂きました」


「あら、いい気味ね」


 キーリィは嬉しそうにパチンと指を鳴らす。


「余計なことをしなくても、ネイス様のご覧になったとおりの未来はやってきたのでしょう。しかし、どうしても自分の手で仕返しをしたかったのです」


「あなたのそういうところ、わたし嫌いじゃないわ」


 レティシアとキーリィはニヤリと笑い合った。


 その時、一人の婦人が酒場に現れる。一歩ごとに色香が漂い出るような美人で、酒場にいる誰もが見惚れていた。レティシアは椅子から立ち上がって満面の笑みをその女性に向ける。


「セリカ姐さん!」


「久しぶりね、レティシア。蜘蛛の巣の子が、あなたをここで見かけたって教えてくれてね」


「お店の方はいいのかい?」


「娼館のオーナーは今の時間はすることが少ないのよ」


「今となっちゃ、姐さんはヘブンズゲートの顔役だもんな。マフィアどもにも一目置かれてるってんで、こっちにも美人オーナーの噂は伝わって来るぜ」


 ブロアード地区で暮らしていた頃の言葉遣いで話すレティシアを見て、キーリィはぽかんとした表情する。レティシアは慌てて彼女にセリカを紹介した。


「キーリィ様、こちらは天藍楼の現オーナーのセリカさんです。あの……お酒をご一緒しても?」


「もちろん歓迎するわ」


「セリカ姐さん、こちらは蔓薔薇屋敷の第五夫人、キーリィ・キニューリヤ様です」


 レティシアにそう耳打ちされて、旅の女戦士姿だったキーリィをレティシアの侍女だと思っていたセリカは、慌てて畏まった礼をしようとしたが、キーリィはそれを制した。


「この場では改まった儀礼は不要よ。はじめまして、セリカさん」


「お会いできて光栄ですわ、キーリィ様」


 二人はにこやかに握手を交わした。


「もしよろしければ、天藍楼の応接室でお話ししませんか。こみ入った話もできますし、近所の料亭から御酒と気の利いた料理を運ばせますわ」


「あら、いいわね」


「キーリィ様がよろしければ行きましょう。わたくしも久々にお店の様子を見たいですし」


 三人は酒場を出て天藍楼に向かった。

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