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辺境伯の第六夫人! ~奥様たちは特殊戦闘員~  作者: フミヅキ
第二章 レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒
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レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒⑩

「うちの作戦はこうだ。カッシールの幹部んとこに出入りしてる下っぱどもの後をつける。時間はかかるかもだけどよ、そのうちゴブリンとの連絡役にあたるはずだ。バティスティリの監視役でもいい。奴らの次のターゲットがわかれば、ゴブリン襲撃の瞬間を押さえられるはずだ」


 カッシールが拠点にしているバラックは、ブロアードの西のはずれにあった。以前、嵐の日に粗末なテントや小屋のほとんどが破壊されたせいで空き家の多い地所で、そこそこ広めの平屋だった。セリカの情報によれば、組の幹部も常駐している場所らしい。


「そんなにうまくいくかしら?」


 不安げなネイスを連れて、バラック内をこっそりと覗いたレティシアは、自分の作戦の失敗を悟った。


「なんだよ……これ……!」


 そこに転がっていたのはカッシール組幹部と構成員の死体だったのだ。傷跡は叩き潰されたような裂傷というバティスティリ組構成員と同じもの。ただ、他の現場を見てきたレティシアからすると、死体の数に対して、床に撒き散らされた血の量が多すぎるように感じられた。


「こりゃあ……えげつねぇ土産物付きだ」


 マフィアの死体に混じって、節くれだった緑色の肌をもつ生き物の切断された手足や死骸がいくつか転がっていた。


「ゴブリンのもの……!」


 ネイスが呻くように言った。


(カッシールの奴ら、ゴブリンに襲われて、反撃はしたが敵わなかったってとこか……)


 むせ返る血の臭いに顔をしかめながら、レティシアは考えた。


「とはいえ、これで犯人ゴブリン説が実証されたわけだな」


「ゴブリンはマフィアを二組とも潰そうと動いていたってことかしら……?」


 室内の惨状に青い顔で尋ねるネイスに、レティシアは頭を横に振った。


「いや、あの穴を見ろよ」


 事務所内にはゴブリンの移動用と見られる穴が開いていた。だが、それは他の小屋で見たように床板で隠されることなく、それどころか穴周辺に石畳を敷いて補強してあった。その石畳も大量の血液で汚れている。


「ゴブリンどもが何度も行き来するからああやって整えたんじゃねぇのかな。おそらく、幹部連中がここで直接ゴブリンに襲撃のターゲットを指示してたんだ。どうやったらそんなことができるのかはわからねぇけどな」


「ではこの状況は……? もしかして、ゴブリンを支配できなくなって反撃されてしまったということかしら……?」


「たぶんな。ゴブリンってのは報酬を見返りに仕事を請け負うような知能はないんだろ?」


「ええ。動物より賢いのは確かだけれど……言語でのコミュニケーションなんて出来ないはずよ」


「なら、何らかの心身操作の術を使っていて、それが切れちまったんだな。何にしろ、この状況をゼーダさんに報告するしかねぇ。なんだか、すごく嫌な感じがするが……」


 レティシアは眉間に皺を寄せて室内の暗い穴を見つめた。一方、ネイスは床に転がるゴブリンの死骸を怪訝そうに見つめている。


「なんか気になんのか?」


「いえ……あの……一般的に語られているゴブリンよりさらに小ぶりではありませんか?」


「あ? つまり幼体ってことか……?」


 そう言うと、レティシアは何かに気付いたようにハッと目を見開く。


「そうか! カッシールめ、なんてバカなんだ! ゴブリンの繁殖力を見誤ったんだ!」


 レティシアは緑色の瞳を大きく見開き、近くのテーブルを叩いた。


「奴ら、ゴブリンどもにバティスティリ組の死体の一部を餌代わりに与えたんだろうが……その恩恵でゴブリンどもめ、ブロアードの地下で繁殖し始めたんじゃねぇのか?」


「それが、あの小さいゴブリン……?」


「そうだ。襲われたバティスティリ組の構成員のうち、死体が見つかってねぇ奴らはきっと地下で奴らの餌にされたんだろう。つまり、ゴブリンどもはいつも以上に食料豊富な状態で、そこそこの数の幼体が生まれたはずだ」


「なるほど。栄養過多状態のゴブリンは繁殖力と成長速度が異常なほど大きいと言われますし……」


 そこまで言って、ネイスも水色の瞳をハッと見開く。


「そういうこと……! カッシールの人たちは、新しく生まれたゴブリン幼体たちの意識支配をすることができなかった、あるいは支配のスピードが追い付かなかった……?」


「きっとそうだ。幼体たちに逆襲されてカッシールの奴らは殺された。その過程で、大人のゴブリンを支配するための術も解けちまったんじゃねぇのか?」


 ネイスの顔が青ざめる。


「で、では、今、この街の地下には……」


「意識の支配から逃れたゴブリンがウヨウヨいるかもしれねぇ。しかもこの血の量を見れば、多分ここでカッシールの奴らが集会でもしてたんだろうよ。つまりは組の主要メンバー全員ぶっ殺して、その死体を奴らは運べるだけ地下に持ち帰って、今はおいしく食らっているところかもしれねぇ。そしたら奴らはさらに殖えて……!」


 レティシアの顔色もまた悪かった。二人はしばらく呆然とした顔で沈黙を続けていたが、ネイスは邪念を振り払うように頭を振ると真剣な表情でレティシアに言った。


「ねえ、レティシア。もうこの件はマフィアどころかエネリア砦の警備兵の手にも負えないかもしれないわ」


「ああ……」


「わたくし、辺境伯軍の派兵を要請しようと思います」


「辺境伯軍だと……?」


「お願いなのだけれど、紙とペンを用意してくれないかしら」


 ネイスはそれまでのおっとりとしたお嬢様風とは異なる、凛とした表情で言った。レティシアはその表情に何かを悟って、彼女の依頼通りのものを調達するため街へと駆け出した。

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