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辺境伯の第六夫人! ~奥様たちは特殊戦闘員~  作者: フミヅキ
第二章 レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒
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レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒⑨

 結局、あれから合計五名の死体がブロアード地区で見つかったことを、レティシアはゼーダから教えてもらった。死体はすべてバティスティリ組の構成員で、カッシール組が管理する地区の無人の小屋に放棄され、最初に見つけた死体と同じような傷がついていたらしい。しかも、行方不明者がまだいるらしく、死者数はさらに増える見込みだった。


「襲われたにしろ、連れ去られたにしろ、目撃者がいないのが解せねぇ」


 ネイスの宿屋に戻ってきたレティシアはベッドの上に座ると、腕を組みながら唸っていた。


「闇討ちとか、人のいねぇとこに呼び出して殺したってんなら、襲われた瞬間の目撃のないことは納得できるんだ。でもよ、戦斧みたいな目立つ武器を持ってブロアードに入ってきた奴を誰も見てねぇってんだから、おかしくねぇか? ブロアードにはそんなブツで殺しを請け負う暗殺者は住んでねぇし」


 眉間に皺を寄せてぶつぶつと呟くレティシアを、ネイスは心配そうに見つめる。すると、レティシアが顔を上げてニヤリと笑った。


「案外さ、アンタの言うとおりゴブリンどもの仕業かもしれねぇな」


「どういうことですか? それこそゴブリンが街に入り込んだりしたら大騒ぎになっているはずでしょう?」


 首を傾げるネイスに、レティシアは「それはそうだが」と頷きつつ、言葉を続ける。


「ゴブリンってのはさ、たしか穴ぐらに住んでるんだよな?」


「ええ。大昔、アンダーストラクチャーから這い出てきたゴブリンたちの末裔は、たいてい山野や渓谷の洞穴に住みついているわ」


「で、その穴を掘り進んで巣を作るんだろ。蟻ん子みてぇにさ」


「そうね。粗末な石器を作るか、人間の作った武器や道具を盗むかして穴掘りをするらしいわ。巣を拡張させて、食料庫や繁殖のための部屋を作るのだとか」


 ネイスの言葉を聞いて、レティシアは親指の爪をガリガリと噛みながら思案顔をする。


「例えばの話だけどさ、どっか人目に付かねぇ場所から穴を掘り進めて、ブロアードのどっかの小屋の真下まで到達するってことは可能だと思うか?」


「まさか……今までそんなことをしたゴブリンなんて聞いたことがないわ」


 ネイスは首を横に振ったが、レティシアはさらに言葉を重ねる。


「だが、ブロアードの空き家を狙って地下からから侵入、いくつかの空き家同士を地下道で繋げれば、立派な逃走経路の完成だろ?」


「ゴブリンにそんな知能があるとは思えないけれど」


「人間が知恵を貸していたらどうだ? それか、人間がゴブリンを意のままに操る方法を編み出していたとしたら。ギザリア領内にはドラゴンを操る部族もいるって聞いたことがある。なら、魔物を操る奴がいてもおかしくねぇだろ」


「まさか……そんなことが……?」


「カッシールの奴ら、弱体化した今の組織力じゃ敵わねぇからってんで、どっかの伝手を頼ってゴブリンを使うことにしたんじゃねえのか。あの小屋にバティスティリ組の連中を呼び出して……理由はなんだっていいんだ。そこら辺のガキに小遣いをやって、借金から逃げた奴がそこに隠れてるのを見つけたとか嘘を伝えさせて。で、バティスティリ組の奴が駆けつけると、そこにいたのはゴブリンだった……ってな具合に」


「そんな風に魔物を使うなんて……信じられないわ……」


 顔を強張らせるネイスに対して、レティシアはベッドを飛び降りて靴を履く。


「ここでウダウダやってても埒が明かねぇ。行こうぜ」


「どうするつもりですか? 組の人にゴブリンのことを報告するの?」


「ハハハ! この街にゴブリンが隠れてるだなんて言ったら、それこそ正気を疑われて終わりだよ。だからみんなが信じる証拠をわかりやすく見せればいい。犯人の尻尾を捕まえてやる」


 そう言って、レティシアはニヤリと笑った。



 レティシアはまずは仮説の検証から始めることにした。


「どうやら留守っぽいな」


 最初に死体を発見したボロ小屋にやってきたレティシアとネイスは、中に誰もいないらしいこと、既に死体が片付けられていることを確認して戸を開けた。レティシアは慎重に中に入る。


「気をつけてくださいね、レティシア。もし本当にゴブリンの仕業なら、わたくしたちの腕力ではとても敵わないのだから」


 彼女に続いて、ネイスも老婆の扮装のまま杖を付いて小屋に入った。


「うちだって鉢合わせはごめんだよ。けどま、奴ら隠れてなきゃならねぇんだから、死体の出た場所にはそうそう来ねぇだろ。見ろよ、やっぱりあったぜ!」


 レティシアが違和感を覚えた場所――小屋の床板がずれている部分は楽に引っ張りあげられるようになっており、床下にはポッカリと穴が開いていた。穴は子供が通れるくらいの大きさで、どうやら相当な長さがあるらしく、中を覗き込んだだけではその先を探ることは不可能だった。


「ゴブリンってのは小柄で、うちと同じくらいの大きさなんだろ。ぴったりだ」


 その後、レティシアたちは他の死体発見現場の床下でも同じような穴を発見した。


「こりゃ、八割がたゴブリンだろうが……まだ確実ってわけじゃねぇな……」


 レティシアは親指の爪を噛みながら思案する。


(考えろ。実行犯はゴブリンだとしても、指示を出すのは人間のはずだ。バティスティリ組のターゲットを監視して動向を報告してる奴がいるはずだ。そして、襲撃の指示を出してる奴も! カッシールについて詳しく知りてぇな)


 レティシアは老婆姿のネイスを連れて天藍楼へ戻ると、部屋でくつろいでいたセリカに開口一番切り出した。


「セリカ姐さん、カッシールの幹部たちの拠点ってどこだい?」


 紙煙草を灰皿に置いたセリカは、老婆に扮したネイスを一瞥して溜め息をついた。


「アンタ、ゼーダさんに頼まれたターゲットを見つけたんなら、さっさと引き渡しちまいなよ」


「さすがにセリカ姐さんの目は誤魔化せねぇか。ま、ちょっと色々あってさ。この人を引き渡すのは一日待つことにしたのさ。それよりさ、この店のケツ持ちってカッシールだろ。姐さんだったらカッシールの拠点を知ってると思ってさ」


 不満顔のセリカの肩を揉みながらレティシアは頼み込む。


「お願いだよ、セリカ姐さん。これはバティスティリ組にこれ以上ない恩を売るチャンスなんだって!」


 根負けしたように溜め息をついたセリカからもらった情報を元に、レティシアとネイスは再びブロアードの街中に引き返した。

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