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辺境伯の第六夫人! ~奥様たちは特殊戦闘員~  作者: フミヅキ
第二章 レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒
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レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒⑧

 ネイスの症状が治まった後、レティシアとネイスは宿屋を出た。


 バティスティリ組は大々的ではないにしろ、ネイスを捜索している。レティシアは古着屋から入手したくたびれた服をネイスに着せ、バンダナを巻いて髪をまとめることで髪色も隠させた。さらに、わざと素肌を汚させ、杖をついて歩く老女のように見せかけた。


「婚約者って奴が襲われる現場の判別はアンタにしかできねぇからな。候補地にはアンタに来てもらわなきゃならねぇ」


 二人は連れ立ってブロアード地区を歩いた。どこも埃やすえた臭いが漂い、ネイスは片手で杖を付き、片手で口をハンカチで押さえながら苦しそうに歩いた。だが、その様子は彼女の老婆の扮装に説得力を持たせただろう。


 レティシアが連れてきた三番目の候補地はゴミ捨て場の直近という立地で特に環境が酷く、舞い散る埃や漂う悪臭がネイスの目と鼻と喉をひどく苛んだ。だが、そこに辿り着いた瞬間にネイスは叫んだ。


「ここだわ! この風景にそっくり!」


「ホントか! ここはたしかカッシールの所有地だったな……。ホントにここなのか?」


「ええ……! いえ、でも……少し色味がイメージと違うかしら……? 光景としてはそっくりだけど、なんというか間違い探しの絵みたいに細かな部分が少し違うような気もするわ……」


「どっちだよ? でも妙だな……。嫌な臭いがしねぇか? 血の臭いみてぇな」


「血……?」


 ネイスにはゴミの臭いが強すぎてわからなかったが、この環境に慣れっこのレティシアは、くんくんと鼻を鳴らしながら臭いを調べる。レティシアは異臭を辿って近くのボロ小屋にそっと近寄った。


「ここか……?」


 耳をそばだてて中の様子を窺い、壁に空いた隙間から中を覗く。


「なに……!」


 レティシアは驚愕に目を見開いた。


「どうかしたの、レティシア?」


 ネイスの問いに答える代わりに、レティシアはボロ小屋の扉をそっと開いた。


「いやぁっ……!」


 中を見たネイスは手で口を覆って短く悲鳴をあげる。そこに転がっていたのは、血まみれの男性の死体三体。レティシアには彼らの顔に見覚えがあった。


「こりゃあ……バティスティリ組の下っぱ連中だ……! まだ血が固まってすらいねぇ。殺されたばっかりだな」


 死体の傷は裂傷のようだが、派手に潰れて肉片や臓器を撒き散らしていた。レティシアは素早く思考を巡らす。


(なんだってこんなとこに? ここはバティスティリじゃなくカッシールの地所のはずだ)


 元々ここはカッシール組がご禁制の物品を隠すのに使っていた場所だった。しかし、不衛生と悪臭がきつ過ぎたせいか、いつからか組の連中は寄り付かなくなり、その後、浮浪者が住み着いていた。しかし、長年放っておいた場所なのに、最近になってカッシール組は浮浪者たちを追い出したのだ。何のためにそんなことをしたのか、レティシアも気にしていたところだった。


(バティスティリ組を襲ってその死体を隠すために? だとしたら随分と周到に準備してたことになるが……。それに、この小屋、何か変なんだよな……違和感っつーか……)


 現状だけでは事実を推し量ることは難しいと考え、レティシアは真っ青な顔のネイスに向き直る。


「アンタ、宿に戻ってなよ。うちはこれをバティスティリ組の幹部に伝えてくるから」


「わ、わかったわ……」


 ネイスと別れてブロアード地区の込み入った道を小走りに進みながら、レティシアは思考を再開する。


(あの死体の傷、刀傷か……? いや、それにしちゃあ傷口が派手だったな。うちはあんま武器とか詳しくねぇけど、こんな風にできるのは戦斧とかじゃねえの……?)


 そこまで考えて、ネイスが見たというヴィジョン――戦斧を持ったゴブリンが彼女の婚約者を襲撃する――を思い出した。


(こんな街中でゴブリンだと……? そんなアホな)


 まだ明るいこんな時間にゴブリンが街に入り込んだのなら目撃されて騒ぎになっていないはずがない。


(人の格好をして紛れ込んだとか? まさかな)


 レティシアの知る限り、ゴブリンには人に仮装するなどという知能はないはずだった。


(アホらし。あの妙な女に感化されたのか。もっとまともな真犯人がいるはずだ)


 レティシアは頭を振ってゴブリン犯人説を隅に追いやり、道を急いだ。



 レティシアは、ネイスを探している途上で三人の死体を発見したとバティスティリ組のゼーダに報告した。何人かの部下を引き連れて現場にやって来たゼーダは、死体を一瞥してレティシアに言った。


「こいつらは金貸し屋に付けてた兵隊どもだ。取り立てで貧乏人にやり返されたか?」


「でも……借金して四苦八苦してるような奴らがこんな大胆にマフィアに盾付けますかね? ここまで出来るのは同じマフィアぐらいじゃあ……?」


「ふむ。下手人はカッシールのクソどもってことか。だが、オレは組の奴らには『その日』が決まるまではカッシールとやりあっちゃならねぇって、口を酸っぱくして言い聞かせてたんだがな」


「闇討ちっていう可能性もあるんじゃないですかね? どこかで襲って、とりあえずここに隠したとか」


 レティシアの言葉を聞いて、ゼーダの瞳がギラリと凶悪に光った。


「レティシアよ、この現状をどう読み取る?」


「今のブロアード地区の空気を考えれば、カッシールの仕業である可能性が高いんじゃないでしょうか。ただ、この傷を作れるのは……たとえば、戦斧とかそういう派手な武器ですよね。マフィア同士の喧嘩にしては妙な死に様に見えますけど……」


「ふん……。カッシールの奴らめ、この期に及んで暗殺者でも雇ったか?」


(暗殺者ねぇ……。でもそういう奴らって戦斧なんていう目立つ武器を持ち運ぶか?)


 レティシアはいくら考えてもうまく犯人のイメージを作ることが出来なかった。


「ゼーダさん、なんにしろ組の人たちに警戒してもらった方がいいですよ。ターゲットはこの三人だけじゃないかもっすから」


「そうだな」


 ゼーダは死体に紙煙草を供えてから、部下たちに丁重に弔うよう指示し、さらにこう命じた。


「組の者全員に連絡をとって身辺に気を付けるよう伝えろ。連絡がつかない奴は消された可能性がある。探せ。あと、この三人に今日何があったのかも調べろ」


 人相の悪い構成員たちは頷き、それぞれに散っていった。

こんばんは、作者のフミヅキです。読んで頂いてありがとうございます。

ブックマークを付けてくださった方もいらっしゃって嬉しいです。

このお話を楽しんで頂けたら幸いです。これからもよろしくお願いいたします。

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