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辺境伯の第六夫人! ~奥様たちは特殊戦闘員~  作者: フミヅキ
第二章 レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒
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レティシア・ブロアードの華麗なる覚醒⑥

 翌日、ネイスの似顔絵を持ったレティシアは古巣のアジトを訪れた。


「よぉ、ムート」


「レ、レティシア……! 何の用だ!」


「ちょっと頼みたいことがあるんだよ」


 現在、ブロアード地区で最も勢いがあると言われる窃盗グループ、蜘蛛の巣。


 かつてレティシアを殴って彼女の成果を奪っていた年上の少年ムートは、今は青年と呼べる歳となり、小ぎれいな格好でかつて親方が座っていた椅子にいた。苦虫を噛むような表情の青年ムートに対し、レティシアは意地悪げにニヤリと笑う。


「せっかく来てやったのに嬉しくなさそうだね。うちのおかげでその席に繰り上がったってのにさ」


「それは……親方がドジって捕まっちまったからで……」


「それを仕組んでやったのはうちだろ? しかも、蜘蛛の巣が仕事の幅を広げられたのだってうちのお陰じゃないか。今はブロアードどころかギザリア内外にも仕事場を広げてる」


 レティシアが蜘蛛の巣在籍時、セリカの支援を受けて始めたのは「騙し」だった。名家令嬢や生き別れの娘へのなりすまし、別れた妾の産んだ娘を騙っての脅迫など、金持ちを的に掛けた詐欺を働き、窃盗グループの稼ぎ頭に登りつめた。その結果、親方の覚えもよくなり、蜘蛛の巣の他のメンバーの協力を得て仕事ができるようにもなった。騙しの過程で大人が必要な場合には、親方を執事や育て親に仕立て上げてやりとりさせた。


 あまりに稼ぎすぎて治安維持役の砦兵に目を付けられた時、レティシアは親方を嵌めて、彼を主犯として差し出したのだった。


 彼女が蜘蛛の巣を抜けて娼館に移籍したのは、一旦姿をくらます必要性もあったからだった。そして、親方の逮捕に協力させたのが、当時の親方のお気に入り、ムートだった。


「今だってうちが騙しのマトの情報を流してるだろ? だいぶ儲けさせてやってるじゃないか」


「オメェへの『情報料』の支払いさえなきゃな!」


「だったらうちは手を引いてもいいんだぜ? けどさ、うちの娼館を利用するような金持ちの情報なんて、アンタどっから手に入れるのさ? グループの規模縮小でもする?」


 ニヤリと笑うレティシアに、青年はさらに渋い顔となる。


「四の五の言ってないでさ、この女を探してほしいんだよ。蜘蛛の巣の掏りの組は、ブロアード中に潜んで外から来た人間を観察してんだろ。その網に引っ掛かるはずさ。頼むよ」


「クソっ! オレに拒否権はねぇつーんだろ! わかったよ、クソガキ!」


 レティシアは蜘蛛の巣の現親方であるムートに無理やり捜索を引き受けさせ、古巣を後にした。



「レティシアさん、その女はここにいるよ」


 数刻後、窃盗グループ・蜘蛛の巣の一員――掏り担当の少女ドリスが、レティシアをブロアード地区のとある宿屋のそばへ案内した。粗末なバラックを廃材で補強した、この地域では一般的な建屋。ここの宿屋の仕切りはカッシール組だということをレティシアは知っていた。


(つまりはバティスティリ組の手配が回らない宿屋ってことだ。ネイスって女、運がいいな)


「ありがとな。助かったよ」


「いえいえ。お礼と言っちゃあ、なんですけど」


 そう言って、十二歳のレティシアより一つ二つ年下の少女は、手のひらを彼女に向かって差し出した。レティシアは不機嫌な顔を作る。


「あ? 手間賃は親方にでも請求しろよ」


「この女はドリスが最初に目を付けて張ってただぜ! レティシアさんに譲ってあげるんだから、特別な心付けってもんがあってもいいでしょ」


「心付けなんて言葉をどこで覚えたんだよ。まったく、いい心掛けだな」


 レティシアは苦笑し、掏摸の少女に懐から取り出した硬貨を手渡した。ドリスはにんまりと笑い、「まいどあり~」と言いながらスキップで去っていく。


 気を取り直して、レティシアが近くのボロ小屋の影からしばらく宿屋の様子を窺っていると、入り口から黒髪の女性が姿を現した。


「あの女か……?」


 派手な格好ではないが、彼女の整った身なりにレティシアは上流階級の匂いを感じた。その女性は杖を突いて歩きながら、キョロキョロと周囲を見回している。


(体が悪いのか……?)


 レティシアが小屋の影から観察を続けていると、黒髪の女と目が合った。一瞬だけ焦ったレティシアだったが、その感情を飲み込んで素知らぬふりをする。


(こんだけ距離があるんだし、下手なリアクション取る方が相手を警戒させちまう。それに、ああいう金持ちそうな奴は、うちみたいな下賤なガキなんてそもそも眼中にねぇんだから)


 レティシアはそう考えたのだが、黒髪の女は杖を突き、白いドレスの裾を翻しながらレティシアに向かって駆け寄ってきたのだ。慌てて裏路地に逃げ込もうとするレティシアの腕を彼女が取った。


「あなた、レティシアね。ごきげんよう」


「な、なんでうちの名前を……!」


 面食らって目を見開くレティシアを、黒髪の女の水色の瞳が、まるでよく見知った人間に向けるような目で見つめていた。


「占星カードによれば、そろそろ救いの手が現れる時刻だったのです。それがあなただったとは。わたくしを助けてくれますね、レティシア」


「は?」


「いつ居所が知られてしまうかわからないわ。行きましょう」


「お、おい! 何すんだよ!」


 訳もわからず混乱するレティシアの手を引いて、黒髪の女は自分の宿の部屋に戻った。

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