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王の好きな花

作者: 山田千夢

 今日は年老いた王様の誕生日。国中の民は、王様が花を好きなことを知っていたので、何日も前から大きな美しい花束の準備をしていました。

 宮殿は色とりどりの花でいっぱいです。素敵な香りもしています。

 民は、自分の花束が褒められることを期待しながら列に並んでいます。

 一人一人、王の前に進みます。

 先頭の民が花束を差し出しました。ピンクや赤の花がいっぱいの、美しい大きな花束です。

「……私の苦手な花が入っているな。これはいらない」

 王は、手渡された花束を叩きつけるように民に返します。……どうやら、この王はそれほど優しくはないようです。

 次に並んだ民は、その様子を見て怯えながら花束を差し出します。この花束も、大きく、色とりどりの美しい花束です。しかし、これも王は一度受け取ってから顔をしかめます。

「……虫がついているではないか! 私は虫が大嫌いじゃ!」

 またもや民に花束を叩きつけるように返します。

 列に並んでいる民はさらに怯えます。次の人も、その次の人も、大きく素敵な花束を王様に渡しますが、王様は毎回、何か理由を付けて花束を叩き返していました。

 それを見ていた一匹の黒猫がいました。黒猫は、この様子を見て、どうやら今日は王様に花を渡す日らしいと察しました。

 黒猫は家に帰り、ご主人様が活けた花瓶の花の中から、一番綺麗に咲いている、真っ赤なバラをくわえます。

黒猫は王様の前の列の最後に並び、順番を待ちます。

 相変わらず、王様は人々が何日も前から用意した大きな花束を、何らかの理由を付けて叩き返しています。花束を返された民たちはうなだれて返された花束を持って帰っていきます。

 黒猫の番がやってきました。黒猫は二歩、王様の前に踏み出すと、口にくわえた赤いバラをそっと王様の足元に置きました。

 王様はそのバラをじっと見つめます。

「……そう、私が欲しかったのは、このような一輪の美しい花なのだ」

 王様は足元のバラを拾うと、香りを嗅いだり、光にかざしたりします。

「ありがとう、名も知らぬ黒猫よ。私は、そなたに感謝を伝えたい。……私の財産を、そなたに譲ろう」

 宮殿の中の人たちはどよめいた。この黒猫は、莫大な財産をもらうのです。

 しかし。当の黒猫は意味が分かりません。周りがざわざわしたのが気持ち悪くなって逃げだしました。

「おい、待つのだ、黒猫!」

 王の言葉も、黒猫の足を止められませんでした。

 黒猫の残した赤いバラを、王様は再び見つめます。

「黒猫よ、お前は何を求めて私の前に並んだのだ?」

 王様には、一生、解けない謎が残りました。


 家に帰った黒猫は、何事もなかったかのようにご主人様が椅子に座って寝ているのを見つけると、その膝に飛び乗って自分も、くるん、と丸くなって眠るのでした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まさに猫に小判ということわざを体現したお話でしたね。 やっぱり黒猫ちゃんにはご主人様との静かな暮らしが1番みたいですね。
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