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こんにちは、メリーゴウランド  作者: あると
第一章 誘拐先は異世界だった
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第四話 出発前に

「もう食べれないわ。本当に久しぶりにお腹一杯ご飯食べたわ。ていうかあなたはほとんど食べてなかったけど本当に大丈夫なの?」


 俺たちは区役所の受付の人に招待された宿屋に入ってからまず初めに料理をふるまってもらった。今まであまり気にしなかったが、服装がいい加減なものだったので大丈夫かとも思ったが話はきちんと伝わっていたようで嫌な顔はされずにもてなされた。ちなみに夕食の時間はもう終わっていたようだが特別に作ってくれたようだ。あらゆる方面に感謝だ。


「うん、微塵もお腹すかないんだよね。食べれないってことはないんだけど、空腹こそが最大の調味料だと思ってるからね。それになんとなくで食べらると食品にも調理師さんにも失礼だしね」


事実、俺は料理をほとんど食べなかった。ウエイターに軽くサンドイッチを依頼して出してもらった程度であとは特に口にしなかった。それと反対にアリンはその小さい体のどこにそんなに食品が入るんだ、と驚くくらいには食べていた。多分、あの牢屋生活でまともなモノを食べてなかったせいだとは思うが、それにしても彼女の食欲には驚かされた。


「あなた、よくわからない価値観持ってるのね。もらえるものはもらっておいた方が得よ。まぁ、それはいいとしても料理は素晴らしかったのに、部屋がまさか一部屋しか空いてないとはね」



アリンはもう少しお淑やかに戻ってほしいのだが....。それはそれとして新たな問題は彼女が言う通り部屋が一部屋しか空いてなかったことだ。人気の宿なんだなとも思うし、よく一部屋空いてたなとも思った。俺は全然いいし、むしろウェルカムなくらいなんだが彼女がどう思うかはわかったもんじゃない。これでいやだとか言われたら泣いてしまう自信がある。


「ほんとね。俺はいいけどアリンは嫌だろう? 何なら廊下で寝るけど俺」

「なんでよ! あなたのための部屋なんだからあなたの好きに使いなさいよ。ていうか私嫌じゃないし、なんだったらあなたに抱き着いて寝てもいいくらいだわ」


まぁ、なんてこと言うんでしょうかこの娘。俺に気を使っての発言なのか本心なのかは定かではないがそういうことは安易に口にするもんじゃないだろう。それともこの世界ではそれくらい普通の事なのか? 男女が抱き合って寝るのは。


「分かった分かった、そこまでしなくてもいいから。普通に寝ようね普通に。幸運なことにベッドが二つある部屋だしね」

「あらそう、残念ね。私は一つでよかったけどねベッド。で、話は変わるけど私はお風呂に入ってこようと思うけどあなたはどうするの。ていうかあなたって男なの? 女なの?」


 ベッド云々の話は聞き流すとするが、その後アリンからの口からはお風呂という言葉が飛び出てきた。確かにお風呂は入らないといけないのだが、俺はどうすればいいのだろうか。あるべきものがあるべき場所にない身としては他人に体を見せるわけにはいかないのである。性別はないしな。


「男,,,,かな。お風呂はあとで入ろうかなぁ....?」

「そうなの? 私てっきりあなた無性なのかと思ってたけれど」


......え? あなた今なんて? 無性って認知されてるのこの世界? 


「い、今無性って言った? え、無性って存在するのこの世界?」

「え、何を今さら。いるわよ無性くらい。それこそ粘性種(スライム)とか、飛竜種(ドラゴン)の長命種なんて無性もいるのよ」

「そ、そうなんだ。無性って一般的なんだねこの世界。じゃ、じゃあ俺無性っておかしくないんだな」

「やっぱりそうなのね。しゃべり方とか一人称は男だったのに顔は女っぽいから不思議だと思ってたのよね。ていうか男なら簡単に一緒に寝ようなんて言わないわよ」


 あ、結構疑われてはいたんだね。未だに鏡を見てないから自分がどんな顔をしているのか分からないから女の顔とか言われてもピンとこないけど。ていうか男なら簡単に寝るって言わない、って言うあたり貞操観念はしっかりしているんだな。よかったよかった。


「そ、そうなんだね。疑われてはいたんだね。早く言ってくれたらよかったのに」

「いや、無性の存在知らないってふつう思わないでしょ。まぁ今後あなたはあまり常識を知らないってことを頭に入れておくわ」


 ひどい言われようだが仕方ない。確かに常識内容に思うもんね、こうも何も知らないと。


「お気遣い、ありがとうございます....。なら、俺はどっちの風呂に入れば?」

「女湯でいいでしょ。顔は女なんだし。逆に男湯に入られるとこっちが心配よ」

「え、でもそしたら、君の身体を....」

「それがどうしたの? 物に大丈夫でしょ。さ、行きましょう。いい加減お風呂に入りたいわ」


 そういうなりアリンは俺の腕を引っ張ってズンズン女湯の方へ行く。なんというか男勝りになりましたね。

 そういえば着替えとか、タオルはどうするんだろうと思ったが、風呂の入り口付近で普通に販売していた。服が上下で銀貨1枚、タオルが銅貨3枚。銀貨も銅貨もないからどうしようどうしようとおろおろしていると、アリンが普通に金貨を出していたし受付の人も銀貨と銅貨でお釣りを渡していた。この世界では硬貨自体が本物の金銀銅で作られているようでそれ自体に価値があるから、両替的なものは出来ないと思っていたようだがそんなことは内容だ。  


「お、嬢ちゃん、金貨出してくるとはお金持ちだねぇ」

「ありがとう。でもこれ私のじゃなくて彼のなの。彼ちょっと特殊でね。詳細は言えないんだけどね、すごいやつなのよ」

「へぇ、そりゃどんなふうにだい? もしかして今話題になってるすごい魔術師の卵なのかい? なんでもすべての魔術適正があるとかないとかって」

「あら、もう噂が出回っているのね。あの冒険者たち口が軽すぎるわ」

「確かにね、まさかもういろんな人に俺のことが話されているとわね。あ、俺の着替えは、これにしてください」

 

 噂の回る速度の速さに驚きつつも受付に着替えとタオルを渡してお金を払う。


「はいよ、お釣りはこれね。あぁ、でも気をつけろよ?」

「? 何にですか?」

「なんでも、魔術師狩りがひそかに実行されているようだぜ。あくまで噂だがな。この街はそういったことは特にないが中央区の方であるようだ」

「えぇ~、私たちこれからそこ行かなきゃいけないのに」


 中央区? と疑問を感じたがアリンの言葉でどうやらそこは魔術局本部があるところなようだ。魔術の本場みたいな所で魔術師狩りってどういうことなの。


「あ~、それじゃ気をつけろよ。何日後かに死んでたとか言われたら寝つき悪いからよ」

「ちょっと縁起でもないこと言わないでよ。ウエンティはすごいけど、腕前としてはまだまだひよこなんだから」

「そうですよ、まだ死にたくないですし俺」

「はは、悪かったな。じゃ、風呂入ってこいよ。今は客いねぇからゆっくりしてこいよ」


 少し申し訳なさそうに受付のおじさんは俺たちを送り出した。今の時間は俺たちの貸し切りみたいな感じらしいから女の人が多くいないのはいいのだが、アリンと二人きりなのか。これ、逆に意識しないか?



 

「いいお湯だったわね。久しぶりにあんなに広いお風呂に入ったわ。今まではタオルだったしさっぱりしたわ。あなたはどうだった?」

「あぁ、うん、そだね。よかったよ、お風呂。すっきりしたね」


 ごめんなさい、本当は湯加減なんてまったくわかりませんでした。あなたの方を極力見ないように頑張ってました。さすがにうら若き乙女の素肌を凝視なんてできるはずなくて気を張りまくりでした。


「なーんか、よそよそしいわね。まぁそれはいいとして、どうなの水魔術の感覚は掴めたかしら?」

「......? どういうこと? 水魔術の感覚とは?」

「はぁ、やっぱり知らないか」


 あれ、呆れられたんだけど。だってしょうがないじゃないか、魔術なんて何も知らないし、感覚を問われても意味わからないし。


「あのね、魔術というのはね、発動するものを自分の身体で直接味わうことで使えるようになるの。そこから初めて鍛錬を行うことができるわけ。適性+体験で初めて自分のものにできるわけなのよ」

「は、はぁ。うーん? なるほど?」

「分かってないようね。例えば私は風と光の適性があるわけだけど、生まれた時には風と太陽光を感じられたから私はほぼ生まれつきその二つの魔術を使えるわけ。だから基礎、例外魔術の六つは比較的習得者が多いわけ。まぁ、火に関してはちょっとむずいけどね」

「あーそういうこと。魔術って難しいような簡単なようなものなんだね」

「適性を持ってる人わね。魔術を使えない人たちもいるから何とも言えないけどね」


 どうやらこの世界は魔術習得の難易度が割と低いらしい。逆に魔術適正を持っていない人は絶対に魔術を習得できないわけなのね。


「なるほど、だから特異魔術は使える人が少ないわけか。時・空間・虚、だったっけ。そんなの体感する人なんていないもんね」

「そういうこと。私たち知性体は時と空間、そして虚に縛られて生きているわ。でもそれを体感できる人なんていない。過去現在未来の概念を知っていようとそれを物理的に体験できる人はいない。空間も虚も同じこと」

「なんか、哲学的だね」


 言われてみれば、この場所に存在している俺だって空間をどうにかできるかと言われたらそれは無理なわけだしな。


「そうね。言われてみれば哲学みたいな話ね。まぁなんにせよ魔術適正は世界への干渉権限みたいなわけよ。だから特異三魔術が特別視されているの。そしてあなたはそれが使える。敢えて何故かは聞かないわ。どうせ聞いたところで意味わからないだろうし」

「干渉権限か。言いえて妙だな。......それで、俺は今後はどうしたらいいの?」

「どんどん魔術を使って力をつけていくことね。今魔術を使ってもどうせ赤ちゃんも殺せないくらいよ。出せても水滴、火の粉、そよ風、砂埃。そんな感じよ。試しにここでつかってみたら?」

「えー、いいのかな。というか魔術の使用法なんて分からないよ? アリンはどうしてるの?」

「んー、しいて言えば感覚よ。何をどうしたいか、それがどう世界に影響を及ぼすか、詳細に想像する必要があるの。そうすれば自ずとその魔術を理解できるようになるわ。そうしていくことで魔術は習得されていくの」

「ほえー、みんなそんな感じなの? 随分とアバウトなんだね、みんなそんな感じ?」


 聞きなれない魔術の習得方法だな。こういうのって大体魔術の本とかあってそれを読んで習得していくとか、師匠から教えてもらうとかじゃないの?


「多分そうだと思うわ。でも魔術師全員に会ったわけじゃないから確証はないけどね。ま、なんにせよ鍛錬なしには実用可能な魔術は使えないわ、あたしも付き合うから明日から頑張りましょ」

「それはありがたい。細かいことはまた明日教えてよ、もう今日は眠い気がする」

「そう、ご飯は食べないのに寝るのね。じゃあ、おやすみなさい」

「おやすみ」


 明日はどんなことをしようかな、と少しだけ心躍らせながら俺は瞼を落としていった。


      *      *      *

 ウエンティとアリンが就寝しようとしているとき役場は驚きに包まれていた。なぜなら、魔術局局長が直々に件の少年を早急に本部へと寄こすようにとのお達しがあったからだ。本来局長からの直々の連絡というのはそうそうない。


「すごいわね、あの子もしかしたらものすごい魔術師になるんじゃない? そしたら私たち大手柄なんじゃないの?」

「えー、そうなのかな~。もしそうだったら昇格とかあるのかな~?」


 オフィストークに花を咲かせながら役員たちはテキパキと今日の仕事を終わらせていく。魔術局というのは相当ブラックなようで夜も更けるのにまだ役員は帰られずにいた。



――――――そして三日後ようやくウエンティとアリンは中央区へと旅立っていく。


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