11 第一章『最低な男』-10
「よしっ、みんないるな。今日の任務について説明する」
素朴な馬車の中で王国騎士団員たちは任務についての説明を団長から聞いている。
団員は、クロウス、リーナ、ベイル、ニィア、ダルト、ルカ、団長の六人だ。それぞれ、馬車の三人用の座席に男女別れて座っている。
「今回は、ルーキーゴーレムの討伐だ」
「ルーキーゴーレムって、そこまで危険視されていないあのゴーレムですか?」
ベイルの言うとおり、ルーキーゴーレムは騎士団員ではなくても剣を修行を少し積んだ者なら誰でも倒せるような土で作られた魔物だ。
「ああ。あのルーキーゴーレムだ。しかし、そのルーキーゴーレムがいるといわれている『フォレイム森林』で死者が見つかった。それも、私たちと同じ王国騎士団員らしい」
その言葉に団員たちは驚く。
「なっ、死者ってっ! あのルーキーゴーレム相手ですよっ!」
ダルトは声を荒げて、冷静に状況を伝える団長の目を見る。
「ああ、確かにルーキーゴーレム相手に死者が出るとは考えにくい。だから、私たちが調査に行くことになったんだ」
団長の説明を聞くたびにみんなの表情が暗くなっていく。ルーキーゴーレムと戦って死者が出るなどという前代未聞の事件で、生きて帰れるかもわからないからだと思ったが、それ以外にも他に理由があるのではないかと、そのときの私は密かに思っていた。
「よし、ついたな。ここが、事件の起こったフォレイム森林だ」
森の入口付近で馬車を止め、団長を先頭に王国騎士たちは森に入っていく。
「そういえば、今回はルカ先輩も任務に参加するんですね。いつも研究所に籠りっぱなしなのに」
クロウスは、隣を歩く小柄な女性、ルカに問う。
「まあね。今回は調査が必要になりそうだから研究者であり、戦闘もできる私がついていくことになったんだ」
研究者である彼女の服装はクロウスたち王国騎士の鎧ではなく、いかにも研究者だとわかるような白衣を身に纏っている。
「へえ、なるほど……」
そんな話を続けながら、一同は光が森林の葉に遮られるほどの深い森の中を歩いていた。
もうどれくらい歩いただろうか。それくらいの長い時間を歩いたときに、団長が目の前に現れた異形の影に気づく。
「あれは……」
近づくたびにその影ははっきりしていく。茶色の土を固められて作られたような、人間の三倍ほどの大きさがある巨体。あれが、ゴーレムという種類の魔物だ。
「ルーキーゴーレム……、いや、違うっ!」
そのゴーレムは振動を起こす大きな咆哮を放つ。その方向に全員は反射的に耳を塞いだ。
「……みんな、今すぐ逃げろ」
脂汗をかいた団長が背中に背負った蒼の槍を取らず、それとは別に腰に差された長剣を構えて、騒音の咆哮が鳴り止んだ後に、静かに小声で言った。
「団長、でも――」
ニィアが一人、前に出る団長を呼び止めようとする。しかし、団長の答えは、自分の背中に背負った槍をニィアの足元に落としただけだった。
「団長、これって……!」
「……ああ、その時が来た。頼む」
その言葉だけで、ニィアは頷き、全てを理解した。ニィアは後ろにいるクロウスにその槍を渡す。
「あの、ニィア先輩、これは、団長の……」
「君にその槍を託す。そういうことだよ。さあ、逃げて」
「で、でも……」
ニィアとクロウスの奥ではゴーレムの岩の拳を団長が大きな鉄製の盾で受け止める防戦一方の戦いが繰り広げられている。
「早くっ!」
普段の穏やかな様子からは感じられない必死さに、クロウスは圧倒されて後退する。
「……絶対に、帰ってきてください」
それだけ言い残して、クロウスたち残りの団員は、ルカを先頭にして、先ほど来た道を急いで引き返す。
「それは……難しいかもね」
ニィアは団長が受け止めている岩の拳に飛び込みながら剣を振り下ろす。
「団長っ!私も残りますっ!」
「待てよ。『私も』、なんて言って残るなよ」
二人の背後から現れたのは、いつも嫌味ばかり言ってくるダルトだった。
「『俺たち』、だろ。団長、俺も残らせてもらいます」
「ニィアくんにダルトくん……。わかった。真ん中は私が引き受ける、二人は左右を頼んでいいか?」
「「はいっ!」」
ダルトは左に、ニィアは右に、三人は目の前の巨大なゴーレムに立ち向かった。