10 第一章『最低な男』-9
クロウスが詰所を出たころには国誕祭は始まっていた。始まっていたと言っても食べ物を売っている屋台が出ているだけで正式な開催とは言えない。
クロウスがそんな並ぶ屋台を通って向かったのは。
「あ、クロウスっ! やっと来たっ! もう、遅いよっ!」
きれいな大国の景色が見える山頂のベンチに、この国の王女ユシアは座ってクロウスを待っていた。
今日は、王国騎士の訓練があったから夜にユシアと会うことはなかったから、訓練の水分補給用に使った空のボトルやタオルなどが入れられたバッグを背負っている。このバッグから王国騎士だということはわからないだろうが、おそらく質問はされるだろう。
「そのバッグはなに?」
なんて考えていたら早速質問された。いつもなら、「訓練に使ってた道具」だなんて言ってはぐらかしていただろう。でも、今日は違う。
「ああ、実は、王国騎士になったんだ」
「えっ、王国騎士っ!?」
「まあ、それも二年前の話だけどな」
「に、二年前っ!?」
王国騎士になったことにも驚いて、さらに、それはもう二年前になっていたことに驚くユシアだった。
「な、なんで言ってくれなかったのおっ! それも、二年間って……」
「ご、ごめんごめん。でも、それとは別に、今日は渡したいものがあるんだ」
ベンチの横に置いたバッグから黒い箱を取り出す。そして、その中身をユシアに見せる。
「これは……指輪?」
そう、銀色の輪に赤い宝石がつけられた指輪がその箱には入っていた。指輪にはめられた宝石には色によってそれぞれ意味が違う。その中でも、クロウスが渡した赤色の宝石には『愛』や『結婚』などの意味がある。
「王国騎士になる前は、王女であるユシアと釣り合わないと思っていたんだ。だから、せめて王国騎士になって一人前になったら、もう一度、言おうと思ってたんだ」
あのときと同じ、いや、それ以上に心臓の鼓動が早まる。顔もっかつてないほどに赤くなっている。どうしてだろう、二回目のはずなのに。だが、それは、ユシアも同じだった。
「改めて言います。俺と……結婚してくださいっ!」
ユシアはプロポーズをするクロウスに微笑んで言った。
「……はいっ!」
そんな二人を祝福するかのように街から打ち上げられた花火が、二人を照らした。