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1 序章『転生神』

 転生。それは、楽しい思い出、悲しい思い出、自分の中にある大切な思い出を振り返り、前世での未練が残ることなく新しい人生を歩むこと。

 だが、一人で乗り越えられるほど人は強くない。その手助けをするのが――


 ――転生神。


 これは、『転生神』である少年の記録を綴った物語である。


 目が覚めると、僕は玉座に座っていた。

 どこまでも続くように感じる白い石壁に赤い無地のタペストリーが飾られている。


「お目覚めですか、転生神ルシル様」


 声の方へ振り向く。隣に一人の少女が立っていることに気づく。その少女は腰まで伸びるほど長い黒の髪に黒い目、そして、白と赤で彩られた巫女服を着ている。


「どなた……ですか? それに、ここは……?」


「私はカグネ、食事、掃除、洗濯など、諸々の雑用などを仕事としています。そして、ここは第七浮遊島『ソラスインゼル』にある城の中。そして、ここは『転生の場』と呼ばれる部屋です」


 その少女はお辞儀をして、そう答える。


「まったくわからない……。それに、僕は……誰なの? ……っ!」


 思い出そうと頭に手を当てるが、記憶を探ろうとすればするほど激しい頭痛に襲われる。


「大丈夫ですか、転生神ルシル様!」


 カグネがすぐに心配して肩を支える。


「ルシ……ル……それが、僕の名前……?」


「ええ、詳しい話は彼女が話してくれるでしょう」


 カグネは部屋の奥にある大きな扉を指す。その鉄の扉が開く。そこから現れた女の子は玉座の前に立っているルシルを見つけると転生の場の中を走ってルシルの下へ飛び込んだ。


「よかった、目が覚めたんだねっ!」


 不意に見知らぬ少女に飛び込まれ、衝撃に耐えられずに危うく後ろに倒れそうになったがなんとか踏ん張った。


「あ、あの……君は……?」


「ラフィ様、どうやらルシル様は記憶をなくしておられるようです」


「……やっぱり覚えてないか。まあ、覚悟はしていたから仕方ないよね……」


 彼女の目には涙が浮かんでいた。何か悪いことをしてしまったのだろうか。


「ごめんね、いきなり。私は転生神であるあなたの手助けをする、転生神補佐官のラフィネル、よろしくね」


「あ、はい……よろしく、お願いします」


 太ももに手を当て、一礼しようとするが、ラフィネルに止められる。


「堅苦しいことはいいよ。私たちはそんなに年が離れているわけじゃないし。私のことはラフィって呼んでくれていいよ、ルーくん」


「る、ルーくん? ま、まあ、そういうことなら、わかったよ」


「それじゃあもう一人、あなたに紹介したい人がいるからついてきて」


 ラフィネルは白い翼の生えた背を向けて歩き出す。見慣れないその翼にルシルは驚くが、とりあえずその件は保留にして後を追う。


「……ん?」


 歩き出そうと足を踏み出したが、そのときの感覚に違和感を抱く。風を受ける感覚がいつもと違うのだ。背中に何があるのだろうと手を伸ばすと、柔らかい、優しい何かに包まれているような、そんな感覚が。後ろを振り返ると、そこには白い、彼女と同じような翼が生えていた。


「――え、えええええっ!」


 あまりの驚きにルシルは大声を出す。あまりの声量でルシルの声が白い部屋にこだまする。


「ど、どうしたの?」


 ラフィネルは不思議そうな顔をして振り返る。


「な、な、なんか羽が……」


 理解が追い付かず、顔が真っ青になる。


「あ、ああ……。そういえば、最初はみんな驚くよね。それは転生神やその補佐官たち神の関係者の印みたいなものだよ」


「……神の関係者、か。でも、ボクとラフィにはついているのにカグネにはついてないんだね」


「私はあくまでも雑用係であって神と関係があるわけではないですから」


 神と直接関係はないにしても、掃除とかしているのなら間接的には関係はあると思うのだが。神様ってよくわからないものだな。

 ラフィネルに連れられ、転生の場を出て三十秒ほど廊下を歩く。そして、転生の場と同じ豪華な装飾が施された鉄扉の前まで来る。ラフィネルが扉を開けて中に入る。ボクがその後に続き、カグネがさらにその後ろに続く。急に光が差し込んできて腕を突き出して光を遮る。黄金色の太陽が草原を照らしている。


「すごい……扉を出ただけなのに」


 膝くらいまでの高さの草花が風に揺られている。まるで暖かな春風を思わせる、そんな風が頬を撫でた。先ほどまでいた殺風景な純白の城内からは想像もつかない景色だ。


「ここは、『夢幻の扉』の中、草原や雪原、洞窟や火山、または雲の上や街の中にだって姿を変えることができる不思議な空間よ」


「へえ、すごいなあ……」


 神秘的な仕組みの部屋を見て感心する。

 辺りを見回していると部屋の中心、丘の上にある大岩に座っている少年と目が合う。


「あっ、いたいた。おーい、クリュウ!」


「むっ、その声はラフィか。ここに来たということは、つまり……」


「うん、彼が転生神ルシルだよ」


 クリュウと呼ばれた少年は岩から飛び降りてルシルの前に膝をつく。茶色の髪が揺れ、深紅の目はルシルの青い瞳を見ている。


「初めまして、転生神様。俺はクリュウ。転生神護衛係を務めております」


「は、初めまして。えーっと、転生神、護衛係?」


「転生神護衛係というのは……その名の通り転生神であるあなたを守るのが私の役目です」


「守る……って、何から?」


「……いえ、どうかお気になさらず。今は忘れてください」


「……え? ……まあ、そういうことなら……」


 何かよくないことを聞いてしまったのだろうか。

 お気になさらずと言われたが、そう言われるとより強く記憶に残ってしまう。でも、忘れてと言われたのだから忘れなくては。

 ルシルは顔をブンブン横に振って物理的に忘れようとする。


「――さて、全員の紹介も終わったことだし、ルーくん、改めてよろしくね!」


 ラフィネルが三人の真ん中に立ってこちらに手を差し伸べる。


「よろしくお願いします、ルシル様」


「よろしく頼む、転生神様」


 その右にカグネが、その左にクリュウが並んでルシルを迎える。

 いきなり転生神だとか、顔も見たことのないけどボクを慕ってくれる人たちと出会ってよくわからないことだらけだ。だけど、なんとかここでやっていけそうな、そんな気がした。


「うん、よろしくっ!」


 ルシルは微笑みながらラフィネルの手を取った。


 そのときの笑顔は草花を照らす太陽よりも明るかったと、そう思う。

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