その6
◇◇◇◇◇ その6
車のエンジンをかけると何度も切り替えして方向転換し国道まで戻った。
「先生~、なんかお腹空いちゃいました~。」
静奈と涼子は揃って声を上げた。
「そこのお店はおいしいのか。」
「元祖 クリームカツ丼」と書かれた看板のお店のが見えている。
「うん、とってもおいしいです。このあたりじゃけっこう人気のお店です。」
「じゃあ、そこにするか。」
健一はそういうと駐車場に車を滑り込ませた。
「いらっしゃい。そちらへどうぞ。」
昼時だったので混雑していたが、席に座ることが出来た3人におかみさんらしい女性がお水を運んで来た。
「うーん、おいしい。」
「こら、行儀が悪いぞ。」
運んで来てくれたばかりのお水を一気に飲み干した静奈を健一がたしなめる。
「だって、ここのお水ってほんとうにおいしいよね~。」
涼子が助け舟を出す。3人のやりとりをにこにこして聞いていたおかみさんが声をかけた。
「あれ、御鏡さんとこと玉川さんとこのお嬢さんたちじゃないの、相変わらずうれしいことを言ってくれますねえ。」
「このクリームカツ丼てどんなんですか?。」
健一が興味津々で尋ねる。
「信州白味噌を甘辛く煮た特製のクリームをかけてあるカツ丼ですよ、みんな大好きなお勧めの品ですよ。」
「これにしよ、ねっ、ね。」
静奈と涼子の勧めに従って、健一は頼むものを決めた。
「じゃあ、それを3つください。」
「クリカツ3つ!。」
元気の良い声が店内に響く。
「あれ、お客さん、昨日役場にいた人じゃないの?。」
おかみさんは健一の顔をしげしげと見ると思い出したように尋ねた。
「そうです、そうです、お会いしましたっけ?。」
「ちょっと用事があって役場に行ったら村長室に入ってくところだったよ。若いのにお偉いさんかね?。」
「とんでもない、宮川高校に最近赴任したんばっかりです。」
「へえ、高校の先生さんかね。」
「そうです、よろしくお願いします。」
「じゃあ、静ちゃんと涼子ちゃんは教え子さんてわけだね。」
「まだ何にも教わってないけどね~。」
そういうと静奈と涼子はけらけらと笑う。
「今日は事故の調査かね。」
「えっ、よくわかりましたねえ。」
ずばり言い当てられて健一はびっくりした。
「だってねえ、よそへいきゃあ、宮川は危ない村だ、近寄らん方がいいぞってからかわれるんだよ。せつないからしっかり調べておくれな。」
おかみさんはそういうと厨房へ戻った。
「そんなに多いのか。」
宮川高校生徒の事故がここんところ頻発しているのは事実であるが、近隣からまゆをしかめられるほどの数とは思えなかった。確かにこの村の道路はスピードが出したくなる程立派な道路であるが、実際にハンドルを握るとぶっとばそうという気分よりも景色を眺めながらゆったり走ろうという気持ちになってしまう。
「今日走った道にはそんな危険な場所なんてなかったよねえ。」
静奈と涼子も不思議そうに考えている。
「はい、クリカツお待ち。」
「事故が多いのはどの辺ですか?。」
「そうだねえ、伊那部の方から農道を走ってきて村に入ってしばらくの辺りが多いかなあ。」
「それっと宮高の近くだよね。」
静奈が答えた。
「おいしーい、これいつ食べてもすんごくおいしいよ。」
涼子はクリカツをもうぱくついている。
「うわあ、うれしいなあ。」
おかみさんも涼子がおいしそうにぱくついている姿をみると戻って行った。
「うん、これはいける。」
考え事をしていた健一もクリカツをうまそうに食べ始めた。