その4
◇◇◇◇◇ その4
「東谷先生、到着したばかりで申し訳ないんですが、私たち、先生にお願いがあるんです。」
生徒会長御鏡静奈がちょっと姿勢を改めて東谷の方を向いた。
「はっ、なんでしょうか。」
いきなり改めて質問されて、健一は裏返しの声で返事をしてしまった。
「実は、ここんところ、学校周辺の道路で交通事故が多発しているんです。生徒が何人もけがをしています。中には入院している生徒もいます。」
「それは大変だね。」
「事故がちっとも減らないんです。うちの生徒も自転車の乗り方はあんまりよくはないことはわかっているけど、注意していても事故が起きるってなんかおかしいなあって。」
高校生の自転車事故が多いことは、テレビや新聞報道でたびたび問題になっていることはもちろん知っている。特にスマートフォンが普及してからは、自転車に乗りながらスマホを操作して転倒した、イヤホンで音楽を聞いていて自動車の接近に気が付かなかったなど、事故のニュースはけっこう多い印象を受けている。ただ、ある学校に集中してるという話は聞いたことがない。
「それで今井村長さんに相談したら、丁度新しく赴任してくる先生がその方面に詳しいらしいから相談したらどうかって、アドバイスしてくれて。それで先生の到着を役場で待っていたんです。」
えっ、俺って、自転車事故に詳しいってことになっているんだ、聞いてねえよ。東谷はここに来てから何度目かの聞いてねえよ、を心の中で叫んだ。でも否定することはどうも許されていないっぽい。
「わかりました。じゃあ、事情を聞きたいんだけど、いつなら都合がいいのかな。」
静奈と涼子は明日はどう、休みだけどいい、ええっ、俺の休みはどうなるの、ここってブラック、など水面下で話が行われた結果、
「明日の土曜日、先生の都合がつくなら私たち二人はOKです。」
静奈が提案した。
「明日なら先生も大丈夫です。」
ああー、明日のお休みがこれでおじゃんだ、健一の心の中には残念感が広がったが、生徒の手前、そんなことはおくびにも出さず笑顔で、承諾の返事をした。