その3
◇◇◇◇◇ その3
「さあさあ、村内を案内しましょう。この阿部君が君達のお手伝いをしてくれるから、なんでも相談して下さい。」
今井村長は東谷とさほど年が変わらないであろう一人の青年を紹介した。
「阿部です、よろしくお願いします。」
「東谷健一です、こちらこそよろしくお願いします。」
「さあ、行きましょう。」
阿部は村長室を出ると駐車場に向かった。御鏡と玉川、二人の少女もなぜか一緒についてくる。
「私の後を付いてきて下さい。」
阿部は公用車らしい軽トラックに乗り込むとさっき健一が下って来た道を勢いよく上って行く。農道から曲がってきた信号の手前を左手に折れて田んぼの中の道をすいすいと飛ばす。
「田んぼの真ん中に・・・どうしてこんな二車線の立派な道があるのかなあ。」
東谷が首を傾げるほどに広くて立派な道が一直線に走っている。そこを田んぼの真ん中にある集落に向かっている。二車線から右折してちょっと細い道路に入ると阿部の軽トラは一軒の白い家の前で止まった。
「さあ、ここです。お入りになって下さい。」
「へえ、ここ、教員住宅?、けっこういい家じゃん。」
ずっと黙っていた涼子が声を上げた。芝生を敷き詰めた庭に面してその二階建の白い家は建っていた。
「しばらく使ってなかったからよく風を入れて下さいね。」
阿部はそういうと駿平が荷物を車から降ろすのを手伝っている。静奈と涼子も住宅の中を見たさに、車から荷物を下ろして中に運び入れ始めた。
「あっ、先生って独身なんだ。」
「私たちのクラスの授業もあるかなあ。」
「先生、いくつ。」
「どこから来たの。」
2人は矢継ぎ早に質問攻撃をする。
「いっぺんに質問されても答えきれないよ。」
2人の女子高校生から先生と連呼されてどぎまぎしていた健一は悲鳴をあげた。
「後はよろしくお願いします。」
阿部は声をかけると役場に戻っていった。