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その10

◇◇◇◇◇ その10


「さてと、じゃあ、一旦、私は役場に戻ります。」

 阿部は伝票を掴むとさっさとレジで支払いを済ませて、店を出て行った。

「よし、俺達も戻るか。」

 健一は静奈と涼子をうながすと店を出た。


「田舎とはいってもさすがに国道は混んでるね。」

 排気ガスにむせながら健一が言う。


「でも国道はこの1本だけ・・これが止まればえらいことだ。しかも、事故が多いときちゃあ、死活問題だ。でも、長寿が証明されれば道路を地下に埋め立て排気ガスを浄化したりすることも可能になる。さて、どうしたもんかな?。」


 3人は考えながら国道をそれて通称「縦道」と呼ばれる村を東西に横断する道路に入った。片側6mの2車線道路で両側歩道、緑地帯付きのりっぱなものである。


「ふうっ、暑いね~。」

 信州といえども8月下旬の日中は暑い。二人はだらだらと汗をかきながら歩く。

「あっ、魚!。」

 静奈が叫んだ。


「あれは・・鮎かな?。」

 東京の川では想像もできないきれいな水の流れる中を鮎が群れを作って泳いでいる。いいところだな、と顔をあげて、大空を見上げた。


「ぎゃあーっ。」

がしゃーん。


静奈と涼子の叫びと同時に発生した交通事故は西からの下り方向の車がセンターラインを越えて対向して来た車にぶつかったのである。健一は素速く道路に上がると2台の車に近寄った。


「大丈夫ですか?。」

 衝突直前に双方が回転したらしく、左側を大きくえぐった格好であった。恐怖で真っ青になった二人の運転手は車を降りると歩道にへたりと座り込んだ。健一は一人の運転手が持っていた携帯電話を借りると警察へ連絡する。


「いったい、どうしたんですか。」

 比較的落ち着いた顔色の運転手に健一はなるべくゆっくりと尋ねた。


「いや・・それが・・突然滑って・・。」

 車が横を向いた、というのである。それも登りと下りの両方が同時にである。雪道では坂を下っている車のタイヤがブレーキを踏むなどしてロックするとつーっと滑る時がある。こんな経験は誰でもあるであろう。 それが真夏のからからのアスファルトの上で起きたらしいのである。


 短期間に2度も事故を見せ付けられた静奈と涼子も歩道に座り込んでいたが、意外としっかりとした足取りで立ち上がった。


「もしかして、低重力現象じゃあないかな~。」

「うん、俺もそう思う。だけど、・・証明出来ない。」

 健一はさっきの携帯電話を借りると役場の電話番号を回す。


「あっ、阿部さん、すぐ来てくれるかな?。例の装置を持って・・場所はほら・・急いで・・。」

 20分ほどのんびりと歩いた道を阿部はワゴン車で5分ほどでやってきた。


「やあ、さっきはすみません。お二人の足をうっかりしてまして。」

「いや、いいんですよ。おかげで珍しい現象に出くわしましたよ。さっそく測定して下さい。」


 阿部の少し前に到着した警察が道路を封鎖して二人の運転手から事情を聞き始めている。幸い、けがはたいしたことがないようで、しっかりとした受け答えしているようにみえる。


 阿部と健一は警察の邪魔にならないように気を付けながら、重力波測定装置をなるべく事故現場近くに運びセットした。阿部はやってきた警察官とは面識があるらしく、ちょっと耳打ちしただけで、特に文句を言われている様子もない。事故現場を取り囲むようにして何箇所か測定した後で実際に滑ったと思われる場所も測定を終えた。


「どうだい?。」

「ちょっと待ってて下さい。今、まとめますから。」

 阿部は東谷に答えながらノートパソコンに測定データを転送してグラフを表示した。


「東谷さん、ほら・・。」

 阿部が見せてくれた画面には事故現場よりも20m手前を中心に20%の低重力現象が起こったことを示していた。


「やったな。」

 健一は思わず、阿部に声をかけた。

「ようやくですね。」

 阿部はノートから目を離さずに答えた。


「10分毎にこれから測定してみたらどうだい?。」

「なんでですか?。」

 阿部は怪訝な顔で東谷に尋ねる。

「ここだっていつも低重力ってわけではないだろう。」

「そうですね。」

「だとすれば徐々に復元する可能性もあるんじゃないのかい。」

「そうか・・やってみましょう。」


 阿部はタイマーを10分間隔にセットするとアラームの電子音に従って測定を再開した。何度か見て要領を覚えた静奈と涼子も阿部を手伝う。GPSと連動しているので前回の測定位置は正確に記憶されており、最新装置の優秀さがわかった。警察が帰った後も4人は2時間ほど測定を続けた。



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