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その1 全20話 毎日午後8時更新予定

隣の女神様2 重力の謎を解け 全20話


◇◇◇◇◇ その1


 宮川高校は普段は新聞記者がやってくるような大きな事件は発生することなどまあない落ち着いた学校である。先日、この辺りでは見かけることがない大型ヘリコプタが短期間に立て続けに離着陸を繰り返したことは宮川村の人々には記憶に新しい。


 珍しく高校で事件発生かと不謹慎にもわくわくした村民もいたらしいが、急病人とけが人を県の大きな病院に運ぶために宮川高校校庭を貸したと役場が発表したことで皆の記憶から忘れられようとしていた。


「本日緊急生徒集会を開くので、生徒会執行部の皆さんは体育館の準備をしてください。」


 生徒会顧問から呼び出された生徒会長みかがみ 御鏡静奈しずな玉川涼子たまがわ りょうこは何事が起きたのかと気を張り詰めた。

「何が起こったのですか。」

「骨折を伴う自転車事故だ。上の農道で起きたんだ。」

「大けがですか。」

「幸い、2日ほどの入院で済みそうだと連絡がさっき入ったばかりだよ。」

「それでも、みんなの大切な命を保護者から預かっているのだから、注意をしておきたいんだ。準備、よろしくね。」


 静奈と涼子は放送委員長の生徒に連絡し、体育館内の放送が使えるように手配をする。集会時間が近づくと、集まってきた生徒を各クラスの級長が整列させることになっている。生徒会長は集会時の総責任者という立場である。


「これから、全校集会を始めます。礼」

 副会長である涼子が号令をかける。

「生徒指導主任よりお話があります。生徒のみなさんはその場に静かに座ってください。」

 生徒指導かよ、何があったんだ、生徒の間からざわめきが聞こえる。


「今朝の登校時、自転車で1年生が農道を走っていて、転倒しました。そのまま道路上を滑っていきガードレールにぶつかり、止まりました。左手を骨折し、救急車で病院に運ばれました。 幸いなことに車の通行が途切れた直後だったために、この程度ですみましたが、直後に車が来ていたり、対向車線にはみ出していれば、命が失われる危険性もあった重大事故です。生徒の皆さんは今一度自転車の乗り方に充分に注意して安全運転をこころがけてください。それと自転車に乗る際には必ず保険に入ってください。」


「生徒会長 御鏡さんより挨拶があります。」

 指名されて静奈が演台に進み出る。

「生徒の皆さん、今説明があったとおり、自転車事故は非常に怖いものです。もしかするとみなさんの尊い命が失われることになりかねません。充分注意してください。」


 昨年までは生徒集会といえば全校生徒を静粛にさせるのに多大なるエネルギーが必要であったが、今年は静奈が前に立つだけで静かになってしまう。生徒の質が変わってきたのだろうか。

「それではこれで集会を終わります。みなさん、起立してください。姿勢を正して、礼。3年生より解散してください。」


 涼子の号令で生徒たちは立ち上がり、教室に向かって歩き出す。これから体育の授業のクラスは体育館に残って整列しようと動き出した。


「生徒会長ってこんな役目もあったんだね~。知らんかったよ。」

 会長の静奈はぼやいた。今朝は挨拶運動や立ち番も珍しくない日でクラスでぼんやりと朝を楽しんでいたところに生徒会顧問の呼び出しがあった。なんだろうと職員室に向かったところ、全校集会のセッテイングを申し付かったというわけだ。


「まっ、緊急集会はそうしょっちゅうあるわけでないからしょうがないか。」

 静奈は自分で自分を慰めて、1時間目の授業の準備をするために個人ロッカーから教科書やノートを取り出すと教室に戻り、しぶしぶ授業を受ける体制を整えたのである。


「き~ん、こ~ん、か~ん、こ~ん。」

「やった~、ようやくお昼だ~。」


 静奈と涼子は、授業が終わったばかりの教室から弁当を持って飛び出し、生徒会室に向かった。ほんとうはクラスメイトとくだらないことをだべりながら教室で食べたほうが楽しいのであるが、生徒会役員は仕事をすぐに片付けることができるように生徒会室で昼食を摂ることを義務付けられている。2人は生徒会室を開錠すると中に入り、窓を開けて空気を入れ替える。2人には広すぎる会議用長机に陣取ると弁当箱を取り出した。


「いっただっきま~す。」

 静奈は胸元で小さくを手を合わせると、食事の挨拶を済ませる。今日のメインディッシュは静奈の大好物の唐揚げである。唐揚げを豪快に箸ですくい上げ、今まさに口に入れようとした瞬間、生徒会室の内線電話が「りり~ん。」と音を立てた。

「ちっ、はい、生徒会室です。」


 学校で生徒が内線電話に触ることなど、放送室とこの生徒会室だけである。最初のちっは受話器を上げる前に発している。

「御鏡か。」

「はい、そうです。」

「ごはん中に悪いんだけど、大至急職員室に来てくれないかな。」


「わかりました。涼子とすぐに向かいます。」

静奈は受話器を置くと涼子に向かって嫌そうに話しかけた。

「はい、行くよ。」

「嫌だ。」

 涼子は口では拒否しているが、身体はもう動いて、歩き出していた。


「失礼します。御鏡と玉川が参りました。」

「おっ、悪いな」

「何があったんですか。」

「うん、悪い知らせだ。また自転車の事故が起きた。」

「えっ、今朝、緊急集会を開いたばかりじゃないですか。」

「そうなんだけど、遅刻した1年生が自転車をかなりのスピードでぶっ飛ばしていて、自動車にぶつかったんだ。場所はまた農道だ。」

 静奈と涼子は顔を見合わせた。


「けがの具合はどうなんでしょうか。」

「今、病院に担任と保護者が行っているけど、骨折程度で命に別状はないらしい。」

「それは良かったです~。」

 静奈は思わず声をもらした。


「朝集会を開いたばかりで、また事故なんてちょっと嫌ですね。」

涼子が真剣な表情で答えた。

「でも、生徒の命は何よりも大事だから、昼休みの後にもう一度全校集会を開くことになった。そんなわけで、また準備を頼む。」


「わかりました。」

 2人は事情がわかると職員室を後にした。

「うちらのお昼はどうなるの~。」

 静奈と涼子はぶつぶつつぶやきながらも午後の集会の準備にかかった。

「これで全校集会を終わります。」


 本日2回目の集会後、生徒は三々五々教室に戻った。連続事故の発生にさすがの生徒たちも注意を強めたのがよかったのか翌日は何も起きなかった。しかし、その週末また事故が発生してしまった。今度は生徒が入院しなくてはならない自転車事故である。

 いくら何でも事故が多すぎるんじゃないかと学校も役場もなんかおかしいと感じ始めていた。そして生徒たちの間ではこの学校は何かに呪われているのではないかとのうわさが徐々に浸透したのである。



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