3章 病み地獄
君はある日、慌てた様子で蜘蛛に関する恐ろしいある事件を僕に話す。
君「知ってる?昔の話し…蜘蛛の中に
は愛した者をずっと愛してから
最後には殺して食べてしまう蜘蛛が
いるんだって!!」
僕「知ってるよ 男の場合は地獄蜘蛛
女の場合は女郎蜘蛛って言われる
蜘蛛だね」
君「なんで 愛した者を食べてしまう
んだろう…?
食べたいだけなら愛す前に食べて
しまえばいいのにね…?」
僕「そうだね そうした方が悲しく
ならないのにね」
君「私には理解できないな
私は愛した者とならずっと
一緒にいたい!
おじいちゃんとおばあちゃんに
なっても手を繋いで歩くんだ!」
君は手を上げ、「真実の愛」に近いような、未来の愛の形を口にした。
僕「憧れだね」
君「あっ⁉ずっと一緒って言っても
トイレ以外だからね?」
君は少しふざけて、僕に笑いながら恥ずかしそうに話した。
なんで、僕は蜘蛛なんだろう…?
君みたいに、地味だけど自由に誰とでも
仲良くできる紋白蝶なら少しは君の
気持ちがわかったのかな…?
君は僕に一生懸命。
僕を好かれる虫にしようと、優しく
柔らかく僕に言い聞かせる。
君「大丈夫 みんなわかってくれる
から あなたは悪い虫じゃない!
私は知ってるよ?あなたは心が
キラキラしているもの」
そして、ため息混じりの小さな声で
君「私なんかより全然…」
と、寂しげに呟いた。
その言葉が僕には痛かった…。
僕は、それを振り払うように精一杯
元気に言った。
僕「そんなの僕は興味がないよ
君がいてくれたらそれでいい」
君「ふふふ そんな上手い事言って」
僕「僕はホントに君以外何も
いらないよ?」
君も、何かを振り払うように
精一杯元気に言った。
君「うん そばにいるよ
どんな闇からでも助けてあげる
って言い過ぎか…けど私はあなた
から離れない」
君の言葉が何よりも嬉しかった。
けど、何かわからない不安が君と僕には付きまとっていた。
その時きっと、君も僕も何かを
お互い隠していた。
きっと、このまま一緒にいれば失う
大切なものがある。
きっと自分の世界が壊される。
自分の嘘で、自分のエゴで、自分のこの
出会ってしまった恋で。
薄々それを感じていたのに、
今、離れたら君を深く傷つける事はない
と分かっていたのに、
君と一緒にいたかった。
ここに闇の世界を作って、巣にかかる者を食べなかったのは君が初めてだ。
君が僕にいらない感情を教えて
くれたから、僕は僕でいられなくなる。
君の言葉を、聞いているふりを
していただけのつもりだったのに…
君の言葉は、僕の知らないうちに
心に入り込んでいた。
僕の抱えるジレンマはきっと
繰り返される。
愛すれば愛するほどに、大事だと大切だと思う度に心にある闇が膨らんでいく。
抜け出せないんだ、きっと。
抜け出せないんだ、ずっと。
失う事が怖いと思えば思うほど、相手の自由を奪いたくなる。
僕が生きていると感じるのは、
淫らな愛を感じる時だけ。
僕に価値などないから、僕があげられるのはその歪んだ愛情表現だけ。
けどそれだけじゃ、またいなくなってしまうんでしょ?
いくら離れないと約束しても…ね…。
ねぇ…苦しいよ…?
ねぇ…助けてくれると言ったじゃない?
離れるのはとても苦しい…
けど、一緒にいるのはもっと苦しい…
「どうすればよかったのかな…?」
僕の悪い頭じゃ、
到底答えの出ない出口のない
暗闇みたいな難しい問題だった。