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21章 悲痛の涙

 虫がかかっては逃がし、虫がかかっては逃がし、僕は毎日そんな事を繰り返していた。


そうしていたある日、またあの時の

通りがかりの蜘蛛が僕に声をかけてきた。


蜘蛛「また逃がしている

   食べないと死ぬぞ?」


僕は力ない笑顔で答えた


僕「別に食べる為に糸をはっている

  わけじゃないから」


またおかしな事を言っているという顔で

蜘蛛は話しを続ける。


蜘蛛「じゃあなんで蜘蛛の糸を

   はっているんだ」


僕は、当たり前の事を答えるように

話す。


僕「別に意味なんてないよ?

  ここが僕の居場所なだけ

  傷つけたくて

  傷つけているわけじゃない」


まだ強い闇を抱えているのかと、

蜘蛛は僕に質問をする


蜘蛛「もう1度聞くけど

   そんなに苦しんでいるのに

   なんでここを出ないの?」


僕「…出ないんじゃない

  出れないんだ…」


蜘蛛「なんで?」


僕「なんでだろうね…?

  ふふ…蜘蛛だからかな…」


僕は、自分でもどうすれば

いいかわからなかった。


通りがかりの蜘蛛は困ったように

悲しげな顔をする。


 その瞬間、いきなり強い強い雨が

降った。

蜘蛛は慌てて自分の巣に帰る準備をする。


蜘蛛「そっか…いつか出られたらいい  

   ね…

   

   俺は蜘蛛で自由に生きられて

   楽しい

   どんなに苦しくても

   お前もきっと何かが終わる時が

   必ずくる!

   素直でいること!

   これだけは忘れるな


   じゃあな 雨に流されるなよ」


蜘蛛は意味深な言葉を残して、

足早に去っていった。


 僕は、その雨に濡れていた。

びしょびしょに濡れながら、心の中で

もういない君に話しかけた。


「君は雨に濡れていないだろう  

 ね?

 誰かが用意した葉っぱの後ろに

 雨宿りしているだろう

 君には守ってくれる傘があっていいね

 僕には庇って守ってくれるような傘は

 ないから…

 そのままどんなに冷たくても

 濡れるしかない…」


僕「ねぇ…?

  こんな時くらいは泣いても

  いいよね?

  どうせ僕の事なんて

  誰も見てはいないから

  みんなわかりはしないさ」


この雨が、僕の今まで我慢してきた

嘘を隠してくれるから…


僕「君は僕じゃダメなんだ…

  僕は君じゃダメなんだ…」


と、弱い弱い僕に何度も言い聞かせた。


 僕は泣いた

声をあらげて泣いた

君を想い泣いた。


どれだけ泣いたかわからないくらい…

僕の独り言は、雨に降られて

寒かったのか?

とても震えて聞こえた。


僕「ねぇ…君に会いたいよ…」


 今ならどれだけ泣いても

僕の涙の雨は、本物の雨が隠してくれるから。

僕の叶いはしない、このどうしようもなく惨めな願いは、雨で流れてくれるから。


目をつぶり空を見上げて、

雨に当たりながら、君が言っていた事を思い出す。


君「雨は生き物の汚れを流して

  くれるんだ

  ろ過してくれるんだ

  

  ねぇ…?

  あなたの心をろ過したら

  何が残ると思う?」


僕「ははは

  そんなものは僕の心にはないよ

  僕は偽善者だもん

  残るとしたら

  君を想う愛の結晶かも」


君「うるさい

  ホントの偽善者は自分の事

  偽善者だなんて言わないよ?


  雨はね?流してくれるんだよ

  心の汚れも辛い記憶も

  後悔している事もリセットして

  くれるんだよ…」


そう言うと君は悲しげに

思いにふけていた。


その横顔を僕は黙って見つめていた。


 そう、雨は僕の声も涙も君も

何もかも流してくれる。


全てリセットしてくれるんだ。


心の汚れも、辛い記憶も、後悔している事も全部…。


雨が強く強く、僕を叩きつけるように

降り続ける。


 小さい頃、わからない事は

わかるように、知らない事は知るように

教わった。

けど今は、わからない事は

わからないまま、知らない事は知らないままの方がいい事があるんだと、

その方が幸せな事がたくさん

あるんだと知った。


「知らない幸せ、知る不幸」


上手く言ったもんだな…

知らなければまだ君と

一緒にいれたのかな?


…てね。


数日、雨は降りやまず

ただ冷たく、ただ悲しげに

降り続けていた…。

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