17章 絶対の神
僕は蜘蛛。
僕は、自分のテリトリーでしか
強く生きられない醜い嫉妬深い蜘蛛。
自分が絶対の誰とも共存しない世界
でしか生きられない。
他の世界になんて興味を持っても
仕方ないし、テリトリーに入った
者だけを食べて孤独と隣合わせで
生きている。
ある日、僕は空をボーッと眺めていた。
流れる雲、光る太陽、飛び交う虫達を
横目に、途方にくれる…
僕「あー、お腹空いたな
今日もなんもないなぁ」
そんな時に、地味で弱い紋白蝶が
巣にかかる。
それを黙って見ている。
もがいてもがいて、この巣から
逃げようとしている。
もがけばもがくほど、僕の糸は
絡まってその紋白蝶を縛っていった。
次第に諦め大人しくなる。
僕は、その紋白蝶に近づく。
紋白蝶は怯え、下を向いている
紋白蝶「食べないでください
私はまだ、
飛んでいたいんです
お願いします…
お願いします…!」
僕はそっと近づき、
その糸をほどいてあげる。
紋白蝶「えっ…」
僕「ねぇ…?だいす……はっ⁉」
紋白蝶「…っ!えっ⁉」
僕「ごめん!間違えた…‼」
急に恥ずかしくなる。
僕「どこへでも飛んでいきなっ!
僕は紋白蝶が大嫌いなんだ!」
紋白蝶「…っ!
ありがとうございます!
ありがとうございます」
僕「その代わりひとつ
聞いてもいいかな?」
紋白蝶「…はい」
僕「キミにも守るものがある?
守ってくれる者がいる?」
紋白蝶「は、はい…」
僕「そっか
後戻りできない後悔は酷く酷く
惨めで苦しいもの…
誰かが言ってた
もう引っ掛からないようにね」
紋白蝶「は、はい
ありがとうございます」
紋白蝶は飛んで行く…
遠くへ遠くへ
もう僕の手の届かない所に…。
呼んでも、叫んでも、泣いても、
喚いても届かないくらい遠くに…。
中途半端な未練ほど醜いものはない…
僕「これでいいんだ…
僕こそありがとう…」
僕は、名も知らない紋白蝶に
君を重ねてお礼を呟いた。
僕の間違いは君を愛した事。
君の間違いは、僕を愛した事。
全てに意味があるというのなら、
僕にこの耐え難い、
痛みを教えてくれた事。
愛を知るという事、愛はとてもとても
怖いという事。
信じるって、
やっぱりできないという事。
終わった恋は、未来には意味なんてないという事。
心に壁だけ増えていって、ただ過ぎ去れば「失敗」という言葉で終わるという事…
それを見ていた知らない通りがかりの
蜘蛛が僕に話しかける。
蜘蛛「何してるんだ?
獲物を逃がしちゃって」
僕「………」
蜘蛛「たまに、お前を見かけるけど
いつも寂しそうだな?」
僕「そんな事ないよ
僕はいつもこんな感じだから」
蜘蛛「無理してるでしょ?
どう見ても寂しそうだ」
僕「何が?僕は特に何もないよ」
通りがかりの蜘蛛は目をキョトンと
させた。
蜘蛛「ここから出ないの?」
僕「僕はここからは出れないよ」
蜘蛛「大丈夫さ そんなにこの世も
悪くない 以外にひとりぼっち
ではないものさ」
僕「僕はいつもひとり
それでいい」
蜘蛛「何かあったの?」
僕「別に…過去の事なんて
忘れてしまった」
蜘蛛「…なんで?」
僕「傷つけてしまうくらいなら
自分が忘れてしまった方が
楽だからね」
通りがかりの蜘蛛は、
何か気づいた顔をした。
蜘蛛「過去に縛られているんだね?
闇の者じゃないみたいだ!」
僕「僕は闇の世界の者でしかないさ
弱い弱い臆病な虫でしかないさ」
蜘蛛「蜘蛛が弱い?
虫達を捕まえて食べて
みんなが恐れているのに?」
僕は脱け殻のように、質問に答える。
僕「そうだね みんな恐れているね
だから、強くなろうとも思わない
いつも上から虫達を見下しては
自分の弱さを隠してる…
それは強さじゃないよ…?」
蜘蛛「………」
通りがかりの蜘蛛は、不思議そうな顔で
目をまんまるにする。
僕「ホントは誰かに愛して欲しいのに
その事すら
素直に言えなくなってる」
蜘蛛「………」
僕「縛る事でしか愛を知らない
愛を振りかざしてワガママに
生きてしかいけない
ホントは寂しいのに…
闇の世界の当たり前ってなんだよ」
通りがかりの蜘蛛は、ハッと理解した
顔をすると
蜘蛛「…お前は闇の世界の者以外に
恋をしたね?」
僕「……っっっ‼」
蜘蛛「とても辛い恋をしたね?」
僕「…どうかな?
別に何もないよ…
何も考えずにバカだから
楽しく生きてるよ
ぼ~っとね…
ここを今も動けずに…」
蜘蛛「そっか…答えは求めてないさ
それがお前の精一杯の
強がりなら 俺は知らない
ふりをするよ
また今度話してもいい時が
きたら話してよ」
僕「………」
蜘蛛「けど、自分は自分らしく
生きればいいさ
蜘蛛は蜘蛛らしく自由に
生きればいい!
好きな所に、巣を作って
井の中の蛙でも
強く生きたらいい」
通りがかりの蜘蛛は、
自信満々に言った。
僕「…なんで…?」
僕は、とても不思議だった。
蜘蛛「なんで?
だって、俺達は蜘蛛なんだから」
僕「…っ‼
…そうだね…蜘蛛だもんね…」
当たり前の事過ぎて
君と一緒にいすぎて忘れていた…。
僕は空にある雲を睨んだ…。
なんでこんなに遠くなんだ…?
何度も思ってた…
僕にはこの空は高すぎる…?
…そっか、蜘蛛だからか…
僕はやけに寂しい気持ちと、
妙に納得してしまった僕をまた不思議に
思った。
蜘蛛「どちらにせよ俺達は
獲物を食わないと生きて
いけないぞ?また来るよ」
そう言って、手を振ってその蜘蛛は
どこかに行った。
僕「はは そうだね…」
僕は苦笑い。
僕は君を愛したせいで、綺麗事を重ねる
君のせいで、普通の蜘蛛にすら
戻れないのか…?
そう思いまた、ぼ~っと空を眺めた。
僕らの愛は…僕らの偽りの愛は
結局、神には勝てなかった。
何をしても、僕らがどれだけ足掻き、
苦しみ、力を尽くそうと何の意味も
持たなかった。
僕の狭い世界の絶対なんて、
ホントの絶対の神には足元にも及ばなかった。
君と僕が作った闇の愛は、ただ僕らが
傷ついただけの小さい愛だった。
世界にはなんの影響もない
僕らの中だけで辛く残る大きく膨らんだ
小さい出来事だった。
僕の絶対は、神には勝てなかった。
神だけじゃない、僕は誰にも勝てやしなかった。
神の王国にも、
邪魔な神の王国の虫達にも
そして、愛した君にも…
結局、僕は誰にも勝てなかった。
ただ、一人でこれだけやった
これだけやったという自己満足。
これだけ君を愛してる、こんなに君を
愛してるのに!と、思い上がっただけ。
全て独りよがりのバカな想い
ただ僕が、蜘蛛らしくなくなっただけ…
ただ僕に、消えない想い、苦しみ、
悲しみ、憎しみ、後悔が増えただけ
この世界でいう罪が増えただけ…
僕は何をそんなに勝てもしないものに
勝とうとしてたのかね?
諦めが早くて全てに勝とうと
思わない僕が…
僕「神よ…もしもホントにいるのなら
ひとつ聞いていいかい?
僕は今まで何を
していたんだろうね?」
僕は、自分の絶対なんて何の意味も
ないんだとやっとでわかった。
そして、愛なんて信じた僕を
ただのバカだという事も再認識した…。




