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#95 狂乱種の効能

 さて。アニー達に合流となると、やはりこの姿で向かうのは少しどころかかなり都合が悪い。

 現状では周囲に知り合いのテイマ―程度にしか思われてないだろうけど、万が一にも首を突っ込んで麻薬の事を口走ってしまうと、どこからかウサン・クセーノと同一人物――とはまず思いもせんだろうが、密接な関係と思われる事は極力排除したい。

 かといって、恭弥で姿を現すのは既にいなくなっていると報告させているから齟齬が生じるし、ウサン・クセーノは既に街の外に居る設定なんで論外なんで、ここはニューキャラ一択だ。

 ある程度権力がありそうで、悪事を許さない清廉潔白を是とする高潔な存在――俺的には聖騎士が条件にあてはまるかな。

 これであれば、多少無茶はあるかもしれないが巡礼の旅の途中で立ち寄った街で麻薬の販売をしていた賊を捕らえたとしても、喜ばれるのは偶像であって俺じゃない。そうと決まれば善は急げだ。

 白銀の全身鎧(フル・プレート)で体格をごまかし。

 シークレットグリーヴで身長をごまかし。


「あーあー。うむ。このくらい低い声の方が威厳を与えやすいであろうな」


 変声機で声色をごまかせば、あっという間に聖騎士っぽい何者かの出来上がりだ。この格好であれば、誰も俺が幼い超絶美少女であるなんて思いもしないだろう。

 多少歩きにくい感はあるものの、たかがゴロツキ程度の反撃ならこれでもまだ動けすぎると言ってもいいだろ。

 目的地である一際大きな建物の前までやって来ると、そこは黒山の人だかりが出来ていて、かつては門の役割をしていたであろう鉄格子がトラックでも衝突したのかと思うくらいにひしゃげ、来る者を拒めなくなっている。


「済まぬ。これは一体何の騒ぎであるか?」

「おお。これは聖騎士様――って聖騎士様!? なぜこのようなところに!」


 たまたま声をかけた男の絶叫にも似た宣言に、その場にいた多くの人間の目が一斉にこっちに向き、中にはその場で跪いて祈りを捧げるように手を組む人もいたりする。やはり白銀は聖騎士の象徴で間違いなかったか。


「そう構えなくともよい。我はこの騒ぎの原因を聞きたいだけだ」

「は……っ。何でも、ここを治める準男爵が、商人ギルドのマスターと手を組んで秘密裏に〈狂乱種〉の麻薬を販売していたそうで、それを知った獣人達が屋敷に乗り込んでいるのです」

「そうであったか……」


 ん? 今……達って言ったか? 確かにこの街にはエルフを除いた各種族が少なからず暮らしているんで別に不思議でもなんでもないけど、なんだって獣人だけなんだろうか。聞きたい……聞きたいけど聖騎士がそんな事も知らないのかという目で見られるのは少々ばつが悪い。


「しかし……街を守護する騎士団はどこで何をしているのだ? 随分と少ないように見受けられるが」

「それは。鉱山道に住む山賊共を捕縛するために出向いているからです」

「ほぉ。この領地の山賊問題は解決困難と耳にしていた。それでは手が足りぬのも同意。ならば我が行き過ぎた行動をしていないかを見てこようではないか」


 これで大義名分は得た。後はどうして獣人だけがこの中に突っ込んでいったのかを聞ければいいんだけど、そう簡単にはいかないよなーなんて事を考えながら、人をかき分けて屋敷の中に足を踏み入れると、中からは男の物らしき悲鳴が断続的に響いてはその辺に転がっている護衛らしき人間のようになっているんだろう。


「南無南無」


 こいつ自体が犯罪に手を染めていない可能性があるけど、領主に雇われていたという時点で殺すに値するという事か。少し過激になりすぎているような気がしないでもないが、とりあえず冥福を祈ってさっさと奥へと突き進む。


「ふっ!」

「おっと」


 物陰から突然飛び出してきた男獣人の斬撃が近づいてきたけど、俺の〈万能感知〉の前では見てこようと言った瞬間に物陰に隠れた事まで既に把握していたので、難なく受け止めて地面に叩きつける。

 それにしても、獣人ってのは随分と耳がいいんだな。あの距離の雑多な会話の中から俺の言葉だけをチョイスして即行動に移すとは優秀だねぇ。


「が……ッ!?」

「チッ!」

「ふむ。随分と実力に差があるようだな。それでよく不意打ちを買って出たものだ」


 1人は俺の速度に反応しきれずに叩き付けられたが、もう1人の方は瞬時に武器を捨てる事を選択して難を逃れていた。これだけでも倒れたまま動けずにいる奴とは随分と差があるのが分かる。


「クソ野郎の増援か……」

「それは違う。我はお前達がこれ以上罪を重ねぬようにと忠告をしに来た者だ。そもそも何故この屋敷の者を手にかける。ここが領主邸と知っての狼藉か?」

「当然に決まってるやろボケカス。ここん領主は〈狂乱種〉を使った麻薬を製造販売してたんや。そないなゴミクズは死んでええんや」

「なるほど。確かに麻薬は罪ではあるが、我から見れば貴殿等は少々冷静さを欠いているように見えるが?」


 領主の屋敷の前に集まっていた連中も、麻薬と聞いて怪訝な顔をしたり悪口なども聞こえてきてはいたけど、行動に移してまで異を唱えたのは獣人だけ。

 となると、麻薬の効果が表れるのは獣人だけ? しかし〈万物創造〉の説明欄にはそんな事は記されてなかった。となると、獣人にだけ特別強く影響を及ぼす?

 そう考えれば、アニー達が領主邸に攻め込むなんて過激な行動を取る事にも納得がいく。

 だが、俺に何の相談もせずにってのは少しおかしい。アニーはともかく幼女関係以外では理知的なリリィさんまでもがここまでの惨状になっても止めないというのはおかしすぎる。

 相当に効力が高いのか。

 それとも大量に吸い込んでしまったのか。

 どっちか分からんが、吸い込んだのは間違いないだろう。じゃなければこの惨状の説明がつかん。

 問題なのはいつどこでって事だ。俺が街から離れていたのは30分ほど。その間に獣人を中心に麻薬がばら撒かれ、冷静さを失ったところに準男爵の屋敷を襲う。随分と流れがスムーズだなと感じるのは俺だけか?


「決まってんだろゴミクズが。〈狂乱種〉はおれら獣人に特によく効く。それでなくともここの領主はおれらを下に見てやがるらしいからなぁ。これは今までに溜まった鬱憤を叩きつけるまたとない機会なんや! 邪魔するならオノレも殺すで!!」

「お前達では無理であるな。我は世界の剣であり盾である存在。それをいち獣人如きに後れを取る我ではない。それに、直接手を下さずともそう遠くない未来に全滅するのは逃れられぬであろう」


 たとえ麻薬を販売していたとはいえ、領主への反逆は立派な罪だと思う。

 このまま行けば間違いなくカスダ準男爵は殺される。アニーやリリィさんが居る限りそれは変わらないと思うが、いつまでも旗頭となっている訳じゃない。2人は俺の仲間だからな。

 別に連中の願いを聞き入れて戦争を吹っ掛けるというのであれば止めるつもりはないけど、そうなれば二度と美味い飯にありつけないし、安全な寝床や快適な馬車の旅。おまけに今回みたいな厄介ごとに対する対処の限界がどうしたって出て来るだろう。

 多少悲しいなぁとは思うけど、それはあくまでベッドでの楽しみがなくなったというだけであって、デカすぎる厄介事を持ってくるような相手は美女でも斬り捨てる事にためらいはない。だって面倒なのはマジでやりたくないんでね。


「オノレに何が分かる! 虐げられてきた獣人の憎しみも恨みも分からんような人種族如きが説教すんなや! 反吐が出る」

「説教のつもりはない。我は単純に知り合いの回収に来ただけである。これ以上邪魔をしなければ我は何もしないが、向かってくるのであれば容赦はせぬ」


 生憎と相手は男。ためらう理由はどこにも無い。不意打ちで傷一つ負わせられなかった時点で獣人2人の勝ちの目はないと思ってくれれば良し。駄目なら殺すだけだ。


「っだらあああああ!」

「残念だ」


 地面に叩きつけられた方が背後から襲い掛かって来たが、わざわざ背後を取っておきながら馬鹿みたいに大声を出し、あまつさえ殺気すら隠そうとしない愚行。とんだ弱者だったようで一刀の元に上下に両断してやった。


「ヴァイスうううううう! 貴様あああああ!」

「我は忠告した。それを聞き入れなかったこの者が悪い。恨み言を吐くのは筋違いだ」

「黙れやアアアアアアア!」


 やはり愚かな奴はどこまで行っても愚かだな。きちんと忠告を聞き入れていれば、少なくとも騎士団が戻って来るまでは生きていられたかもしれないのに……無駄に命を散らすとは度し難い。

 という訳で、もう1人の方も難なく一刀両断。血に濡れた刀身を振り抜いてから鞘に納め、目的地に向かって歩き出す。

 まぁ。道中も獣人が襲い掛かって来たんで返り討ちしてやった。どいつもこいつもまともな会話が難しいほど興奮していたり、中には死体に何度も刃を突き立てる狂った行為を続けている奴もいたりする。

 こういう光景を鑑みると、ここに居る獣人連中も既に狂乱種の麻薬を吸い込んでいる可能性がより高まったと判断していいだろう。まぁ、獣人がそれほどまでにこの麻薬を憎んでいると取れなくもないけど、だからってこれは少し異常すぎるだろ。

 そうなると、こいつらはいつどこで麻薬を吸ったのかって事になる。ユニに聞いても分からんだろうし、本人達はさっきからパーティーチャットを無視しまくってやがるから聞けやしない。


「やれやれ仕方ないか」


 ここは予定通り、本人に直接会って問いただしてみるしかあるまいて。

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