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#92 大商人 ウサン・クセーヨ

「ん……っ。やっぱりベッドは最高だな」


 あれから被害者と戻って来た騎士団用の食事を作り終えたところで、アニー達も仕事が終わったようですぐに出発する事が出来た。

 その道中は大した出来事もなったので割愛し、平穏無事にネブカにあるコテージで昼過ぎから翌日の朝方――まさに今まで寝ていた。そのおかげで頭もスッキリしてるし心なしか身体も軽い。

 自分ではよく分からんかったが、どうやら相当に疲れてたみたいだな。


「さて、飯作りでも始めるとするか」


 昨日の晩はあまりにも寝た過ぎてありものを適当に食べてもらうという愚を犯したからな。今日はそれなりに手の込んだ料理でも作ろう。そう決意を新たにしてコテージを出ると同時に何かがぶつかって来た。


「ご主人様おはようなの」


 満面の笑みを浮かべてそう挨拶するのは、俺の知ってる中には1人しかいねぇ。


「はいおはよ――って、お前アンリエットか? 起きて大丈夫なのか」

「大丈夫なの。いっぱいレベルが上がって動かし方が分かったから、ご主人様の役に立つためにあちし成長したなの」


 確かに成長している。

 背は言わずもがな、身体もちゃんと女性的になっているし、言葉にもちゃんと漢字が使われるようにもなっているところを考えると頭の中身も成長したと信じたいけれど、口調があんまり変わってないのが少し不安材料だ。


「そういえばお前の知り合いが来たらしいけど、そんな奴いるのか?」

「きっとそいつはましたーに造られたホムンクルスの1人なの。ましたーがつける名前は難しいから、あちしはエムオーって呼んでたのなの」


 ビビったぁ……っ。一瞬M男って聞こえた。まぁ、あれだけ殴る蹴るの暴行を受けて平然としてる奴はもはやそう呼んでも何の問題もない気がするし、そう呼んだ方が面白い反応をしそうなのでそれで行こう。


「ふーん。お前もそのホムンクルスって奴の1人なのか?」

「そうだけど、あちしはあいつより偉いなの。でもましたーに失敗作だって言われてるから上にいるのが気にいらないだけなの。弱いくせに生意気なの」

「ほぉほぉ。結構思い出してんだな。それならあいつ等の弱点とか破壊できる方法は?」

「……ごめんなの。それはまだ難しいなの」

「まぁ気にするな。そう急ぐ事でもないから焦らずゆっくり楽しもう」


 しゅんとするアンリエットの頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて頭を押し付けて更に強く抱きついて来る。なんか前よりも甘えん坊になってしまったような気がするけど、まぁ別にいいか。


「取りあえずご飯作るか」

「あちしもお手伝いするなの!」

「それじゃあ手伝ってもらおうかね」


 ふんすと鼻息荒く宣言したアンリエットのやる気を削ぐの悪いからな。せっかく大きくもなった訳だしサラダ作りでも任せるとしようか。たった一晩で俺より大きくなりやがって……なんて羨ま――いやいや。俺は女風呂に堂々と入る為に自らこの年齢を望んだんだ。だから羨ましくなんて無いんだからねっ!

 という訳で朝食を作っているとアニーやリリィさんが起きてきて、念話を聞いてユニ。最後に侯爵とアクセルさんもやって来て、いつものように食事が始まる。


「昨日はお疲れさまでした。アスカさん」

「気にしない気にしない。俺がやりたくてやった事だから、お礼ならアスカに関する情報を出来うる限り封鎖し、偽りの情報でもって封印してもらいたい」


 昨日・一昨日と、随分と動いたからな。大多数の山賊はメディスの封印解除のために犠牲になったらしいが、それでもゼロになった訳じゃない。中には俺が最初にアスカのまま脅した連中もいる。そいつらに俺の情報を吐かれると非常に困るからな。


「その件についてはアクセルから話を聞き、たまたま居合わせた旅人で知人である恭弥という人物が勝手に行ったという話になっているので、アスカさんに話が届くような事はないと思います」

「それなら一安心かな」


 まぁどんなに頑張っても情報ってのは漏れるもんだ。要はそれを一秒でも遅く出来れば、居場所の特定も困難になるだろうし、かつらをかぶったりシークレットブーツで背を誤魔化したりすればもはや勧誘など不可能だろう。


「しっかし欲のない奴やな。偉なれば女なんて選び放題になるんと違うか?」

「確かにそうかもしれないが、それであれば同時に責任が付きまとうようになるから嫌なんだよ。俺の目的はあくまで綺麗で可愛い女の子とお知り合いになる事であって、そういう事じゃない」

「英雄色を好む言いますが、ある意味アスカはんにぴったりの言葉やわぁ」

「まぁ否定はしない。英雄になるのは勘弁だけどね」


 そんなこんなで朝食を終え、侯爵はまだ話があるとの事でユニを引き連れてカスダ準男爵の屋敷に行ってしまい、アニーとリリィさんは戻って来るまで商人ギルドへ。アンリエットはいつも以上にべったりと抱きついてくぅくぅと安らかな寝息を立てている。

 俺はそんな状況で、いつもと違ってステータスウィンドウを見ていた。何故ならメディスとの戦闘を終えた時にようやっとレベルが20を迎えて新しく〈スキル〉が強化されたからだ。

 今回追加されたのは〈万物創造〉の〈消費MP減少〉がLv2になり、〈魔法剣〉が追加。そして〈魔導〉に光と闇のLv1に、ついでに〈性技〉がLv2に。最後にレギュラーである〈回復〉の性能向上したので、何が出来るようになってどんな効果があるのかの確認作業を淡々と続けている真っ最中だ。


「ふーむ。やはり〈魔法消失(ディスペル)〉を覚えないか」


 元々覚える人間がさほどいないって話だからな。ほとんど期待はしてなかったんで落ち込みはしていなくとも期待を持たせる効果のありそうな魔法はいくつか使えるようになった。

 その中の1つに聖弾(ホーリー・バレット)というのがあった。これさえあればまたあの死神が出てきても何とかなりそうな気がする。

 他のやつはどれも特筆すべき物は無い。取りあえずは魔法の威力を試すために道中の魔物には犠牲になってもらわなくてはな。


『アスカ~。アニーやけどちょっとええか?』

『どうしたんだ?』


 突然のパーティーチャットだったけど、アニー側に特に焦った様子は感じられない。なら一体どうしてこんな手段を取ったのかと疑問に感じていると、どうやら今度は喧嘩を売られて買ってしまったらしく助け船が欲しいとの事。


『っちゅう訳なんやけど……』

『まったく……俺にも出来ない事があるんだからその時は諦めろよ』

『ホンマにすみません。この詫びは何でも受けますんで』

『じゃあ罰として今日の昼は肉少なめな』

『うぅ……ウチが悪い分かっとるからなんも言えへん』


 という訳で向かう先はおなじみ商人ギルドだけど、これからする事を考えるとこのままの格好で向かうのは何かと都合が悪いな。かと言って恭弥で訪れると準男爵の元に連れて行かれるという面倒事にエンカウントする可能性がぐっと高まる。

 ならば全く別の存在になり切るしかない。それもド派手なインパクトを残せるほどの格好で。


 ――


「アニーやん待たしたなぁ。いきなり呼ぶもんやからどないな事が起きたんか焦ったでしかし」

「お、おう……いきなり呼んでスマンかった。どうしてもあんたやないと解決できへんかったんや」


 選択したのはLEDライトを巻きつけたシルクハットに、ラメがこれでもかと縫い付けられて日の光でキラキラと光輝くスーツに、おもちゃの鼻眼鏡にスネークウッドの杖を携えた不審人物ここにありと言わんばかりの、怪しさが具現化したという出で立ちは周囲の目を一身に引きつける。ちなみにアニーとリリィさんはガン引きだ。


「おいどんはウサン・クセーヨ言いますさかいよろしゅうな。ほいで? 今回アニーやんは一体何をやらかしたんだべさ」


 ぐるりと周囲を見渡し、原因であろう存在に向かってインチキスマイルを浮かべながら息もかからんばかりの距離まで近づいたのは、恰幅がいいがなんとも胡散臭そうなオーラがにじみ出ているおっさんだった。


「え、ええ……実はこちらの商人が、我がネブカの商人ギルドの象徴とでもいうべき名刀・龍断ちに傷をつけまして。それに対する修繕費を支払ってもらおうとしたのですが渋っていましてね」

「ほぉほぉ! あれがかの龍断ちでっか? 確かにでら凄か一品じゃのぉ。それに傷をつけたなんて事になっただならそら大変な事やでしかし」


 すぐに疑わしそうな表情をあくどい笑みに変えてちらりと視線を向けた先には、確かに一振りのデカい剣が飾られている。

 全長は3メートルほど。柄・鍔は龍の鱗で形成され、刀身にも龍の鱗のような刃紋が浮かんでいて、これ見よがしに龍特攻がついてますよと言わんばかりだが、近づいてよーく目を凝らしてみてみると確かにわずかな刃こぼれが発見できる。

 うーん。俺の〈万物創造〉にも龍断ちの情報はもちろん乗っている。


「ちなみに……どんな風に傷がついたんだ?」

「落としただけや。そこの留め具に細工してあって、触れた途端に落ちたんや。そこに跡が残っとるやろ?」


 確かに剣が落ちたであろう跡が残っている。俺調べによると品質は大体60ほどとかなり高品質。こんな立派そうな剣が2メートルにも届かないような高さから落ちて簡単に刃が欠けるもんか? なんかおかしいな。


「お分かりですか? こちらは白金貨2枚もする伝説級の武器。それを傷つけたのですからそれ相応の修理費の請求として半値をいただきたいのですよ。出来なければ奴隷となってもらいますが?」

「何言っとんねん! そもそもあんたがウチらに触ってみるか言うて来たんやろうが!」

「そうやな。というかそれホンマに伝説級の武器なんか?」

「何を仰るかと思えば……アニーさん。貴女は〈鑑定〉持ちなのでしょう? それで確認すればよいではないですか。こちらの言っている事が嘘なのか本当なのかをね」

「……」


 ここで反論できないって事は、アニーの〈鑑定〉ではあれは間違いなく龍断ちと表示されるんだろう。おかしいと分かっているのに証拠がない。だから俺を頼って来たと言う訳か。


「ちなみにあんさんは誰なんでっしゃろか」

「これは申し遅れました。わたくしは当ギルドを管理しておりますワッペンと申します。貴方が彼女達の代わりに弁償していただけるのですか? それでしたらこちらは一向にかまいません」


 この態度……間違いなくあの剣は偽物だな。

 そもそも〈万能感知〉でのこの商人の反応が真っ黒なのだから。きっとあこぎな商売で金をしこたまため込んでいるんだろう。エルグリンデにあったギルドと比べてみても派手な装飾に、目が痛くなるような金銀の調度品が下品極まりないように配置されている。


「ほぉーん……」


 まぁ……別に白金貨2枚なんて、今やこの世界すら購入できるんじゃないかってくらいに有り余っているから叩きつけてやってもいいんだけど、それだとアニーやリリィさんが納得しないような気がするんで鼻眼鏡の奥からこっそりと視線を向けると、あくどい笑みを浮かべたのでどうやら完膚なきまでに叩きのめしていいという事なんだろう。

 そうと決まれば早速行動するとしますかね。

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