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#90 残念。アスカには効果がいまいちのようだ……

「そらららぁ!」


 という訳で、絶賛猛攻を受けている真っ最中だ。吸血鬼の猛攻は俺の全身にくまなく叩き付けられ、これが食肉なら程よく繊維がほくれて柔らかい肉になってくれるんだろうが、生憎とそこまで軟弱な身体じゃないんでね。せいぜいがやっと一割くらいHPが減ったってところだ。


「せい」

「どこに向かって拳を振るっている?」


 時々拳を振るっても当たる気配は皆無だ。そしてそんな隙を見ては吸血鬼がこれ幸いとモーションの大きいであろう攻撃を叩き込んできては、吹っ飛んで地面を跳ねたり大空を飛んだりしている。


「いたいよー。これ以上攻撃されると死んじゃうかもしれないよー(棒読み)」

「当然だ。わらわがこうなっては、もはや止められるのは魔族でも20評議会くらいであろうな。あの方々――特にマリア様の手にかかれば、貴様のように矮小な……小娘でいいのか?」

「まぁ一応は」


 さんざっぱら攻撃を受けては吹っ飛んだり転がったりしているうちに、かつらやシークレットブーツなんかがボロボロになって、本来? の姿であるアスカが所々あらわになってしまったんで、途中からは完全にアスカとして相手をしている。

 それにしてもマリアか……あいつ相手ならシュークリーム1つで簡単に屈服させられそうだから大して脅威に感じないなんて思いもしないだろう。告げたところで信じもしないだろうけど。

 しかし……これだけ殴ったり蹴ったりして俺にほとんどダメージが通っていない事実に気付いていないほど頭が残念そうなこの吸血鬼は、一体全体どんなスキルを使ってんだろうな。この不思議な現象がどうにも厄介で困る。

 そもそも俺に状態異常は効かないし〈万能感知〉でもしっかりと吸血鬼の反応を捉えている。

 なのに当たらない。

 なのに反応しきれない。

 不思議だ。一体どんな原理が働いているのかが気になってしょうがないが、全く持って対処できない訳じゃない。

 例えば――〈微風ローウィンド〉で多少のズレなんてお構いなしに吹き飛ばせばいいし、全力全開で<身体強化>した超スピードで、殴られた瞬間に掴み掛ればどれだけ早く動こうが意味はなくなるし、何より見えようが見えまいが〈剣術〉の付与されたこの身体で剣を扱えば、1秒もかからず全方位に剣閃を走らせる事なんて朝飯前。

 つまりはいつでも倒せるけどあえて野放しにしてるんだよ。理由は未来を見据えているからだ。

 吸血鬼は現在確認されている情報だと、こいつともう1人のシルルとやらのみ。

 他にもまだ封印と言う形で残っているのかどうかはまぁ置いておくとして、とにかくこいつでこの現象の対処法を学んでおけば、いざシルルとやりあう時を考えれば同じ戦術でこないとも限らない。威力等に違いはあるだろうが、基礎さえ知っておけばトライアンドエラーを繰り返せばいい。だから、これは必要な事だ。

 という訳で、体力の続く限りはあの能天気吸血鬼の攻撃を受けつつ色々な仮説を1つ1つ潰してけばいい。


 ――――――――――


「はぁ……はぁ……はぁ……」

「どうしたどうした。さすがにこれ以上攻撃されると死んでしまいそうなんだぞ?」

「嘘をつくな! そんな言葉を一体何度吐いた! まったく堪えた様子など見せないではないか!」

「チッ! さすがに気付いたか」

「貴様ぁ! やはりわらわを誑かしておったのだな!」


 あれから1時間。絶え間ない攻撃で完全に息切れしてしまった吸血鬼はいつの間にか元の美女に戻り、俺とひざを突き合わせて他愛ない? 会話へとシフトチェンジしていた。


「そりゃそうだろ。情報ってのはとても大切な物だ。それが自分の生死にかかわるとなれば獲得は絶対条件だからな」

「フン。たとえそうだとしても、人族如きに吸血鬼の秘技である〈万華鏡プリズム〉をそう簡単に見抜けるわけがなかろう」

「確かにな」


 結局のところ答えは分からなかったけど、今の〈万華鏡〉という言葉を当てはめると、光の乱反射を応用した一種の分身の術的な側面を持った魔法またはスキルだという事なのかもしれないな。ま。それを素直に教えるつもりはないんでここは黙り、相手の威張り散らした態度に何の感慨もなく肯定しておく。


「それで? 貴様はなぜこうしてわらわとひざを突き合わせて会話をしておる。殺そうと思えば殺せるのではないか?」

「ふーん。そのくらいのことは分かるのか。意外だな」

「馬鹿にするでないわ! で? なぜ殺さぬ」

「そりゃその〈万華鏡〉とやらの対処法を調べる為だよ。まだ回復しないのか? 吸血鬼のくせにちょっと遅すぎる。そんなんでよくもまぁあれだけ偉ぶった態度が出来たな」


 〈万華鏡〉とやらが限界を迎え、制限時間が意外と短いなぁと思いながらその隙を逃すほどお人よしじゃないんで、死なない程度に痛めつけたから今の吸血鬼はボロボロになっている。


「貴様が早すぎるのだ! 本当に脆弱な人種なのか?」

「正真正銘の人間だ。それなら仕方ない。もうちょい話をしようじゃないか。まずは真実の血(エルダーブラッド)ってなんなんだ?」


 エリクサーを使ってもいいんだけど、さすがにそれほど利になりそうでもない敵を相手に使うのはちょっとねぇ……。アレクセイは俺がこの世界に来た理由に大きくかかわるから可能な限り救援するつもりだ。あいつが居なくなるとアニーやリリィさんとのむふふな事が出来る可能性が1つ潰える事になるのだから。


「真実の血はシルル様がこの世界で唯一口にする事が出来る――貴様等で言う食料だ」


 やはりその辺は名前の通りだったか。そうなると、シルルって奴は随分と長い間飯を食っていない事になる。いくら魔族が頑丈だとしても、長い間飯を食わなければさすがに死ぬんじゃねぇのか?


「万が一探せたとして、そいつまだ生きてんのか? お前さんどのくらい封印されてたんだ?」

「生きているに決まっておろう! たかが303年ほど食事をとらなくとも、シルル様はある程度であれば自ら栄養を生み出す事の出来る唯一無二の御方。わらわもいつかはそうなりたいと修業を重ねていたが、道のりは遠い」


 自ら栄養を生み出すって……シルルは植物か何かなのか? 普通に考えれば生物が生物として生存している限り、何かしらの栄養は確実に必要になる。それを生み出せるんだとしたら、真っ先に唯一の食料を生み出すはずだろうが、限界って事は作りだせる量が決まってんのか?


「だったら別に真実の血とやらを探さんくても良くね? 正直言って、ここら辺に居られると俺の生活に滅茶苦茶迷惑がかかるからさっさと帰れよ」


 こんな所で真実の血がどうたらこうたらなんて言いながら暴れまわられると、避難と称して綺麗で可愛い女性との出会いが減ってしまうだろうからな。


「ならぬ! さすがに300年も連絡を寄越さずに姿をくらましていたのだ。そこに手ぶらで帰ろうものならどのような目に合うか……だから何としてでも真実の血を手に入れるまでわらわの帰還はありえぬわ!」

「にしては随分と死体に血が残っていたのはどういう事だ?」

「味が別物だったからの。一度シルル様に真実の血を頂いた事があるのだが……正直わらわの口に合わなくてな。それを頼りに探し回っておったのだ」

「ふーむ。だから手当たり次第って訳か」

「然り。血など舌に乗せなければ味など分かるまいよ」


 吸血鬼にも味の好みはあるのか。まぁ生きていればそういう物があるのは当然だとしても、それにしたってたった1つの物しか食えないだなんてとんだ偏食かアレルギー体質だな。

 しかし……恩を売る絶好の機会でもある。ここで真実の血とやらをこいつに持たせ、こっちに迷惑がかからないように契約すれば、いちいち面倒事に巻き込まれて世界一周美女探しの旅で行く先々でこうやってもめ事を治めなきゃなんない面倒の可能性が減るんだからな。


「なら俺と契約を結ばないか? 金輪際人を襲ったり魔族以外に手を出さないというのであれば、俺がその真実の血とやらを用意してやらんこともないぞ」

「わらわの全てはシルル様に捧げておる。それを貴様のような人族――からはかなり常軌を逸しておるが、下等な存在に従うなど、霊族で――いや、人類で最も高貴な部類に名を連ねておった吸血鬼としては許しがたい事だ。そもそもそんな事が出来るとは到底思えぬ」

「まぁ論より証拠って言うからな。とりあえずこの辺から試してみるか」


 〈万物創造〉で血液パックを作り出して前においてやる。


「なんじゃそれは」

「まずはこれからだ」


 当然初めて見る物だろうから目を白黒させていたんで、味を確認させるために上部分を斬って差し出してみると、吸血鬼というだけあって漂う匂いを感じ取ったのか奪い取るようにしてから10秒チャージも何のそのと言わんばかりの速度で搾り上げるように飲み干した。


「ぷはぁ……っ♪ なんだこの血液は。わらわらが今まで胃に収めておった物が2度と口に出来なくなるほど濃厚で馥郁たる香りが何層にも折り重なった天界の一品だ」

「じゃあハズレだな」


 そもそも顔をしかめなかった時点でそれは真実の血というカテゴリーから外れる。ちなみに今のはA型の血液パックだ。


 ――――――――――


 それからも、B。AB。OにRH+や-といったところまで掘り下げて調べても見たが、単純に吸血鬼――何でもメディスと言う名前があるらしいこいつが餌付けされただけで成果らしい成果は得られなかった。


「はぁ……っ。これほどの充足感を得られたのはいつぶりであろうかのぉ」

「いつまでも飲んでないでさっさと思い出せ」

「何をする! もはやわらわの肉体はおぬしでなければ満足できぬ身体になっておるのだぞ!?」

「勘違いされるような言い方をするな! というか、自分の欲望を最優先にしてシルルはいいのかよ。告げ口してやろうかなぁ」

「……も、もちろん覚えておるわ。そのためにわらわが味を見ているのではないか」

「だったら飲んでばっかいないで情報を寄越せ。匂いとか色味とか食感・のどごし色々あんだろ」


 そもそも血を出したのは俺がこういう事をできるんだぞという事を知らしめるために造り出した物であって、決してメディスを満足させるための物ではないのだ。まぁ、メディスみたいな女王様みたいな奴が懇願してくる姿はなかなかグッとくるもんがあった。


「そうであるな……確かとても青臭かった事を覚えておる」

「青臭いか……粘度はどうだった。サラサラしてたかドロッとしてたかは?」

「ドロリとしておったと思う。それと、何かを混ぜておられたのを記憶している」

「混ぜる?」

「ああ。黄色い物や緑の物を混ぜて、完成した真実の血は若干どす黒くなっておったな」

「……なるほど。もしかしたら正体がつかめたかもしれない。ちょっと待ってろ」


 思いつく限りの材料を創造して、それらを一緒くたにして手動のミキサーで液状になるまで混ぜ合わせれば――スムージーの完成だ。


「うぐっ!? こ、この臭いだ。これこそがシルル様が求めていた物に間違いない!」

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