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#87 アスカ。勝手に友と認定する。

「すまない。見苦しい所をお見せした。それに衣服も汚してしまったようで申し訳ない」

「いやいや。アクセルさんみたいな美人に抱きつける権利を貰えたんだ。こっちとしては、この程度の代償で良いならいつまででもしたかったくらいだ」

「わ、私はさほど美形ではない。それよりも大変なんだ」


 おちゃらけた空気を一瞬で切り替えた。つまりはそれほどの緊急事態という事……これ以上は少し真面目にならざるを得ないか。


「こっちも聞きたい事がある。さっきの地揺れの時に光があったらしいな」

「ああ。私はあまり歓迎されていなかったせいか殿を任されていたのだが、どこからともなく現れた面妖な仮面をつけた男――聞いているかもしれませんがアンリエットと知り合いらしく、そいつが山賊共の縄を次々に消し去ってしまったという報告を受け、散らばるように逃げる山賊どもを頭目などの要人を除いての殺害許可が即座に下りたのですが……」

「そのタイミング――契機に大地が揺れたという訳だな」

「ええ。そしてその光は、あまりに巨大で複雑怪奇な魔法陣だったのです」

「魔法陣か……それが地揺れの原因だと?」

「私も現場をこの目で見た訳ではありませんので確証はありませんが、魔法陣が展開してそれほど間を置かずに大地が揺れ動いたと分かった時にはもう……」

「なるほど。ちと思い出すには辛い事を聞いて悪かったね」


 それにしても起こすに犠牲……か。

 この単語で考えられるのは、ここに何かが封印されてるってのが一番有力だよな。と言うかこれ以外の選択肢が俺にゃ思い浮かばん。

 にしても仮面の『男』か。男って分かるって事は、昨日の奴とは別の奴かとも一瞬考えたけど、相手があのピエロだとするならアンリエットみたいに自在に肉体を変形させられる存在かも知れないからな。楽観的になるのは止めておくとして、先の二つを組み合わせると答えは自然と絞られる。

 この集団を襲った犯人は、この山に居る何か危険な存在を目覚めさせるための供物として、山賊及び群狼騎士団の面々を巻き込んだってところだろう。

 それがどれだけの奴なのか。そもそも封印自体は既に消し飛んでしまったのか。〈万能感知〉を展開していくつか反応を探ってみてんだけど一切反応が見つからない。確認のためと出来るのかの意味も込めて封印の反応を調べてみると、この山全体を囲むように何かがあった残滓だけは確認できたので、封印は破られていると判断しよう。


「なるほど。アクセルさんのおかげで少しは状況が読めてきた。じゃあ――」

「救助作業ですね!」

「いや。そっちは連中に任せて山賊を捕まえに行く」


 今ここで要救助者の探索をするのは連中の仕事だし、そもそも副団長が気に入らない。勿論尊大な物言いがムカつくってのもあるけど、容姿が俺のヘイトをぐんぐん上昇させるからだ。何なんだよどいつもこいつも。若い連中はまだ分かるとしてもどうしてあそこまでナイスミドルな男がこの世に存在するんだ! 全くと言っていいほど納得できぬ! あれで美人な嫁とかが居たらと考えると、もう俺は自分を自分で止めらないかもしれない。

 それに、今逃がせばまた根城を作るかもしれないからな。王都からの帰りにまた山賊退治なんて超絶メンドイ。潰せる時に潰し切るのが根治の鉄則。


「しかし。ここにはまだ多くの騎士団がいるのだが」

「それは連中に任せればいい。後は――」


 ついでにさっきスコップを突き刺した辺りに生存者が埋まっている事も教えておいてやろう。スコップに邪魔な土を避ける為の魔法鞄ストレージバッグ。こういった情報を与えておけば、十分すぎる程の利益を与えたと豪語できるんで、アクセルさんをさっさと担いで走り出す。余計な詮索は面倒くさいんでね。


「アス――恭弥殿。どちらへ向かわれるのです?」

「取りあえずは手あたり次第かな。アクセルさんは山賊の頭目連中の顔って覚えてるか?」

「全てではありませんが」

「ならいい。手近なところから探すから条件に当てはまったら教えてくれ。俺は野郎の顔に消費する記憶力はほとんど持ち合わせてないから全く覚えてないんでな」

「そ、それは構いませんが……いい加減下ろしてくれると助かります」


 そうだったそうだった。ついさっきまで地震の恐怖に怯えていたからしばらくそうしていようと思っていたけど、そこはやはり騎士として相応の精神訓練的な物を乗り越えてきたという訳か。それなら大丈夫だろうと降ろしてあげる事にした。けっしてリリィさんと似た思いでやっていた訳じゃないぞ。しかもそれがいわゆるお姫様抱っこだったのもただの偶然だ。


「ついてこれるか?」

「出来ればこちらに合わせてくれると助かりますかね」

「うーん。努力する」


 こうしている間にも山賊が次々に殺さていて行っている。それは一向にかまわんのだが、ほんの一握り――恐らく頭目レベルの山賊達は魔物を返り討ちにしてたりするんで少し急ぎたい。

 話は変わるが、ここで実験の成果を説明しようと思う。

 内容はエリクサーの修復限界について。

 少し残酷なようだがどうせ経験値として俺の糧になるのだからと、魔物を使っていろいろと試した結果。全体の二分の一程度残っていれば、エリクサーが失った部分を再生させる事が判明した。それ以上は、現状で実験に使える魔物だと再生はしなかった。

 ちなみに魔物を半分にして両方にエリクサーをかけても片方しか復活しなかった。このあたりはあの駄神の力が働いているのかもしれんな。

 そういえば……アレクセイはもっと損傷していたような気もするけど、そこはまぁ魔族って事で納得しておこう。きっと強ければ頭だけでもOKかもしれんが、そんな実験体が居る訳もないし、半分あれば大丈夫って事が分かっただけでも儲けもん。

 だから、山賊も最低でも体半分以上残っていなければ生き返らせる事が出来なくなるって訳だ。魂の概念はあんまり信用しちゃいないが、そっちも取りあえずは実験途中なんで成果を発表するのはいつになる事やら。

 最初は手分けして探そうかとも思っていたけど、さすがにまだ1人にさせるには不安が残るんで、効率は悪くなるけどアクセルさんに歩調を合わせて坑道内を突き進む。

 時々山賊のグロ死体なんかを見つけ、その傷跡から相手は鋭い爪。または鋭利な刃物を手にした何者かの仕業ってくらいの情報は手に入れる事は出来、ついでにエリクサーを吹きかけて生き返らせてからさらに情報を献上させてみると、どうやら相手は人間の形をしているらしいという情報を入手できた。

 容姿は20代前半の女性で、白銀の腰まで伸びた髪に褐色の肌。切れ長の鋭いエメラルドの瞳を持ち、斬り裂いたように歪んだ笑みから覗く長い牙はきっと吸血鬼だ――ってこいつ随分としっかりハッキリ確認していたな。この世界で珍しく敵と言える見た目でもないし……こいつなら友と呼べるかもしれないな。

 恐らくだが、これが封印されていたって言う奴の正体だろう。そんな奴がこんな場所に出ると知ってれば、山賊もこんな山を根城にしないし、商業ルートとして使わんだろうからな。


「ところで吸血鬼ってなんだ?」


 俺の思い描く吸血鬼は、人の血ぃ吸って下僕とするニンニク嫌いのナルシストって感じ。でも我が友が教えてくれたのは明らかに快楽殺人者と表現するのが正しい。所変わればって事で一応聞いてみただけなんだが、確かに別物って感じだった。

 この世界の吸血鬼とやらは、随分前に滅んでしまった霊族の一種で、現存するのは魔族にまで進化したシルル・ドゥ・ソレイユというギリギリを攻めすぎているような名を持った魔族1人だけらしい。

 その生態はとにかく残忍で、人を超越した高い身体能力に絶対的な魔法耐性を持ち、目についた他種族を殺しては血を吸い取り、次の獲物を求めて世界中を飛び回る為に、いくつかの種族が力を合わせて戦争が勃発。


「――そうして、何とか全滅させたと思った10数年後、最悪と呼ばれた吸血鬼・シルル・ドゥ・ソレイユが魔族となって世界を暴れ回って多くの種族が命を落としたと言うのは有名な話です」

「でも、あっしが見たのは女っす。シルル・ドゥ・ソレイユは男のはずっすよ?」

「ならばシルル・ドゥ・ソレイユの――」

「悪いけどシルルにしてくれないかな! それ以上連呼されると心臓に悪い」


 2人は俺の悲鳴にも似た言葉に不思議そうに首をかしげていたが、こっちはこっちで聞いているだけで鼓動が早くなって、何故だか死神が後ろから鎌を振りかぶっている幻影がより鮮明になってきているんで、この辺りで止めておかないと危険極まりない。


「よくわかんねーっすけど、旦那がそういうなら止めるっす」

「ところでお前……山賊にしては随分とヘイトが低いな。本当に山賊か?」


 〈万能感知〉で見る限り、こいつは他の連中と比べると黒の濃度が低い。むしろ俺の方が黒いんじゃないかって思うくらい犯罪になるような事に手を染めてはいないみたいだ。俺も何もしていないはずなんだけどなぁ……おっかしいなぁ。


「へいと……ってのは知らないっすけど、あっしは山賊の料理番をやってたっすから、犯罪には加担した事はないんすよ。だからじゃないっすか?」

「ふーん。まぁいいや。じゃあ達者でな」

「ちょ!? 放っておくのですか!」

「……あぁ。そういえばそうか」


 こんな所に放っておくのは確かに危険だな。しかし親友にいつまでもかまってると頭目連中や件の吸血鬼とやらを逃がしてしまうかもしれないから、ここは手早く有効的な手段を講じようじゃないかって訳で、絶対に騎士団に助けてもらえる魔法の言葉を教えたついでに、〈万物創造〉で作りだしたコック服を少しボロボロにした上に地面にこすりつけていかにも山賊達から逃げてきました風のアリバイ工作が完成した。


「あの……これでいいんすか?」

「うむ。良く似合っているぞ。それでも危なくなったらさっきのセリフを大声で叫ぶなり副団長に耳打ちするなりすれば恐らくは切り抜けられると思う」

「本当っすか?」

「その時はお前の運が悪かったと諦めろ。もし生きて会う事が出来た場合はいいものをプレゼントしてやるから、自分が幸運である事をせいぜい祈れ」


 俺の予想では99パーセントうまくいく。何しろ奴は、誰にもヅラであるとバレていないと思っているんだからな。こっちも〈万能感知〉が無かったら気付きもしなかっただろう。というかなんでこんな事までわかってしまうんだとチートの凶悪さに邪悪な笑みが止められない。

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