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#85 進化? の兆し?

 結果から言えば、全員が落ち着きを取り戻すのにかなりの時間を必要とした。

 扉を開けるなり全員が飛びかかって来るように抱き着いて来て、この世の終わりだとかなんとかしてくれとか矢継ぎ早に質問が飛んでくるんで本当に軽く頭を小突いて落ち着けさせ、一から順に説明をする事にした。

 地震の特性。危険性。この後の可能性等々……俺が知識として知っている限りを懇切丁寧に説明した。完全に理解できるとは思えないけど、ひとまず安全だと思うという事に重点を置いて教えたから、揺り戻しがあっても最初の時よりは心に余裕をもって行動できるだろう。


「という訳で、一応の危機は去ったんでそろそろ離れてもらえるか?」

「ホンマに大丈夫なんやろな?」

「大丈夫だって。それに今回は俺がいるだろ? 万が一どうにかなっても何とでもなる」


 死んじまってもエリクサーで万事解決。さすがに地割れに飲み込まれたりしたら時間がかかるだろうけど、あの程度の揺れでそんな事にまでならんだろう。


「そ、それはそうなのですが……やはり理解するにはまだ頭が追い付きません」

「ホンマやでアスカはんにくっついとらんと不安で不安で心が押し潰されてまいそうやからもっとぎゅっとしてくれんとあんしんでけへんわ~」

「1人から邪な本音を感じるけど、これじゃあいざって時に動けないから離れてもらおうか」

「いやや! もっとアスカはんとくっついてたいんや」


 軽くそれぞれの手を取って引きはがす。リリィさんは最後までかなり激しい抵抗をして来たけど、はぁはぁモードに入っていなければそれほど苦労する事無くはがす事は出来る。ああなったら全力を出してもなぜか全く敵わなくなるからな。

 とりあえず安全を期して宿屋から一時避難し、場所をコテージ内に移す事にする。ここであれば震度7レベルが来ても、ユニには事前にそうなったら全力で水辺から避難しろとは言ってあるので、とりあえずは馬鹿ピエロについて話を聞く事にした。


「さて。まず初めに、そいつはどうやって現れた?」

「どう言われても普通に歩いてきたで?」

「歩いてか。戦闘になったりはしなかったんだな?」

「あないな相手に剣向ける程あて等もアホやないですから」

「正直言って、すぐに退いた事自体が不思議やったな。アンリエットを見たときのあの殺意……正直に言わせてもらえればアスカに匹敵するん違うか思ったくらいや」


 あの程度の強さで俺と同レベルか。まぁここに居る全員にどころか俺自身もこの身体の限界値ってモノを正確に把握してる訳じゃないからそう思われるのも仕方ないか。


「で? そのアンリエットはどこに? 姿が見えないけど何をやってんだ」

「それが……」

「急に変になった時から寝たまま起きひんのや。飯言うても反応ないんでどないしたらええんか考えてたところに、アスカがいう地震が起こってそれどころやなくなったんや」

「ふぅむ……」


 アンリエットは基本的に満腹になる事がない。というか満腹になるのかどうかの確認がいまだに出来ていない。

 いつも相当量の食事を与えてはいるが、基本的に食べるとき以外は結構寝ている。

 それを前提に考えると、アンリエットはその生命を維持するのに相当量のカロリーを消費しているんじゃないかって仮説が立てられるんだけど、それを見越して魔法鞄ストレージバッグの中には、移動中には軽食。街などに着いた時は手の込んだ物を時間を見つけては作っておいた奴を詰め込んでおいた。

 いや――そもそもの論点が間違ってるな。空腹で寝ているなら飯と聞けば絶対に起きるし、最悪の場合は口元に食べ物を持っていけば寝ていようが喰らい付く。それは実験済みだ。

 なのに起きないって事を考えると、原因は別にあるんだろう。


「そいつとのやり取りを詳しく覚えているか?」

「ええ。と言ってもさほど長いやり取りではありませんでしたので」


 マリュー侯爵の話によると、木の陰から突然現れたピエロがアンリエットを出せと喚くので仕方なく呼び出してみると、その姿を見るなり表情が見えないながらも明らかに動揺し、すぐにユニまでも恐れる程の殺気を吐き出しながら「奴が言ってたのはこの出来損ないの事か……無駄足だったな」と呟き、マスターの命も聞けぬゴミに用はないと吐き捨て、消えるように立ち去ったらしい。

 この間大体で5分以内。ピエロのそんな態度に対してアンリエットは、寝ていたので全く反応しなかったらしい。


「――どうでしょう。何か分かりましたか?」

「うーん。さすがに情報が少なすぎて仮説すら立てられないな。とりあえずアンリエットの様子を見せてもらおうかね」

「ほんなら案内するわ」


 アニーに案内されてコテージ内の一室を覗いてみると、そこにはベッドに横たわったまま安らかな寝息を立てているアンリエットが確かに存在していた訳だけど……なんか大きくなっているような気がする。あえて説明するのであれば、5歳くらいだった身長が一回り大きくなって中学生くらいに見えなくもない体形になっていた。


「なぁ……成長してないか?」

「せやね。アスカが来るまでは同じやったはずなのに……どないなっとんのや?」

「ふわぁ……これはこれで可愛らしいわぁ……」

「いやそうじゃなくて、どうして成長してんのかに焦点を当てないと」

「本当ですね。この街に着いた時はまだ成長していなかったのですが……」


 確かアンリエットは、美味い飯が食いたいために一方的な契約を結んだ代償として色んな物を失ったと話していた。にもかかわらず、また新たな疑問が出て来るけど〈流体金属アクアンタイト〉なんて情報はしっかりと覚えていた。


「アンリエット起きろ。そうすれば飛び切り豪華な飯を作ってやるぞ」

「……」


 反応なしか。まさか主人である俺の声で飯と言われても目を覚まさないなんて……一体何が起きてるんだろうな。


「まぁいい。とりあえず起きるまでは放置しておこう」

「え、ええんか?」

「そう言われても俺は万能じゃないし、そもそもこいつの生態を全く知らんから何をどうしていいのかなんてさっぱり分からんちんだからな」


 何かしてやりたいのは山々なんだが、ここで2度と動かなくなるなんて事にでもなれば、ピエロ野郎に対抗する手段を得る事が出来なくなってしまうからな。

 そうなれば、さすがにアニー達を守りながらってのはかなり厳しいからな。なるべく早いうちにかすり傷をつけられる程度でもいいからその方法を知らないといけないが、知識がない現状はどうしても後手に回らざるを得ない。さすがにそれは腹が立つ。

 当面の対応は〈万能感知〉でアンリエットの容態が変わったら即座に駆けつけられるように常に監視する程度の事しか出来ない。


「それでしたら、先程使いの者がやって来てこの街の町長であるカスダ準男爵が私に礼をしたいとの事なので、護衛として同行してもらってもよろしいでしょうか」

「あぁ……そう言えばアクセルさんは今――」


 鉱山に行って山賊輸送の真っ只中……だ。何故?


「アスカさん?」

「どうしてアクセルさんだけをあの騎士団の中に?」

「それは、アスカさんに彼等が敵ではない事と、居場所を教える為にです」

「なるほど。それなら納得だが、今回はその善意があだになった可能性がある」

「どういう事ですか?」

「さっきの地震であの山の鉱山だった場所が崩壊し、それに巻き込まれたかもしれないという事だ。色々ありすぎてすっかりアクセルさんの存在を忘れていた。女好きとしてあるまじき失態……ッ!!」


 そもそも鉱山がどれだけの範囲まで広がっていたのか知らないけど、中世レベルで地震の怖さも知らない状況で、それに対応した造りの鉱山になっている訳がない。その結果として、地震による落盤事故。そこから山道への被害が広がらない可能性なんでないとはいえない。見落としていたな。


「そんな……っ!?」

「とりあえず現場へは俺が先行する。侯爵にはユニをつけるんで、その準男爵とやらに一応救援部隊の派遣を。10時間経って俺が戻ってこないようなら、この仮説を事実と判断して行動するように説明しておいてもらえると、被害者の数が減る」

「分かりました。彼には必ず伝えます」

「アスカ。ウチとリリィはどうするんや」

「そうだな。念のために一緒について来てもらうか。万が一が起きていた時には1人じゃ全員を助けるのは難しいからな。安全な場所で怪我人の治療とかしてくれ」

「アンリエットはどないするんや? さすがに放っておくんはどうか思うで?」

「それは大丈夫だ。こっちに考えがあるから心配はいらない。他に何も問題がなければ今すぐ行動するししてもらう」


 俺の問いに対し、全員が問題ないとの意味を込めて頷いてくれたんで、俺はすぐさまアニーとリリィさんを小脇に抱えて走り出し、マリュー侯爵はユニの背に乗って準男爵の屋敷へと向かって走り出した。

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