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#84 地震雷火事アスカ

 とりあえず俺の仕事は終わった。後はさっさとネブカにたどり着いてさっさと寝たい。安全を考えて〈万物創造〉で寝具を作らないでごつごつの岩床で気絶するように寝たから全身が痛くてかなわん。

 既に銀貨面もカツラもブーツも外して通常モードなんで、人の手が入っていない獣道だろうと何の問題もなく突き進めるから自重しない速度で駆け抜け、目の前に木が迫ろうと崖が立ちはだかろうとお構いなしに直進直進。きっとデカい音が響き渡ってるだろうけどこっちには関係ない。

 後でアクセルさんに聞かされたけど、魔族の襲来か何かかと護送中は気が気じゃなかったそうだ。

 まぁそんなこんなあって、ユニで1日かかるところを都合3時間ほどでネブカと思われる街を発見した。やはり俺は凄い。


「こりゃ凄いな」


 農耕都市らしく、都市を囲むように非常に広大な農地が広がっており、麦や野菜だろう畑が東西南北にきちんと区分けされていて、さらにそれを動物や魔物の被害から守る為にか多少高いと感じる木の柵がぐるりと囲み、畑の中心部辺りに非常に小規模ながら村っぽい集落も見える。あそこに暮らしてる人達が育成を担当しているんだろう。随分と手が込んでるように感じる。


「なんじゃこりゃ」


 どうやら作物の遺伝子が地球の物と違うみたいで、どれもこれも倍以上に大きく俺を見下ろすようにすくすくと成長している。質は……まぁ置いておくとして、それでも都市1つで生産していると考えれば十分すぎる程の量の作物が取れるんだろう。余れば輸出も出来るしな。


「……遅っそ」


 入り口に向かって列が出来てたんで並んでるんだが、今まで訪れたどんな町よりも商人の出入りが激しい。それと同時に護衛の冒険者の数もかなり存在している。ハッキリ言って入口も出口もネズミのテーマパーク並みに混雑している。1時間くらい並んでるが10数人分くらいしか前に進んでないんじゃないか?

 これが侯爵と一緒だったなら、きっと専用のゲートか何かがあってフリーパスなんだろうけど、こっちは見た目が超絶可愛いだけの一般市民だ。しかもこの世界の一般常識がかなり欠落しているから他にいい方法が1つしか思いつかん。

 ズバリ――財力だ。前に居る商人や冒険者連中であれば、金貨をチラつかせながら順番譲れとお願いすれば、きっとあっさりと譲ってくれるだろう。


「おいお嬢ちゃん」

「ん?」


 さて始めるか! と思った矢先に声をかけられたんで振り返ったら、そこには見るからに冒険者。しかも少し目は血走ってるし息遣いも荒い。よく考えなくともそっち方面目的の下衆野郎ってところか。


「っな!?」

「何か用?」


 こういう輩に用はない。という事で即座に抜剣して1人の首筋ギリギリで止めて脅す。大体10パーくらいの攻撃すら避けられないんじゃあザコ決定でいいだろ。


「い、いや……何でもねぇ」

「なら話しかけないでもらえるか?」

「……ああ。分かったよ」


 とりあえず火の子は振り払った。これで他に同じような事を考えているであろうバカな連中は声をかけてこないだろう。あるとするのならば――


「お嬢ちゃん。ここは商人専用の門だぞ? なにも持ってないように見えるが――っと〈魔法鞄〉持ちか。随分と儲けてるようで羨ましい限りだ」


 声をかけてきたのは40代くらいの少し小太りのおっさん。背中に背負子を担いでそこにいくつもの商品が括り付けられている。この歳で見た感じ小規模くらいの商いしか出来ていないなんて……なんか随分と苦労してそうな感じがするな。


「そうか。ここに来るのは初めてなモンでな。なんでこの街に入るにあたって何かルール……最低限守るべき常識みたいなのって何かあるのか? ここが商人専用であるとか以外に」

「常識ねぇ……特に決まり事がある訳ではないが、ここの守備を任されている群狼騎士団には気を付けた方がいいだろう。特にお嬢ちゃんみたいな可愛い娘はな。あくまで噂だが、連中はイイ女を見つけると罪をでっちあげて身体を要求するらしいから、気を付けるんだぞ」

「お気遣いどうも。でも、そんな有象無象程度に負けるつもりはさらさらないんで大丈夫だ」


 そもそも山賊連中如きを逃がすようなザコだ。正直に言って指先一つでダウンさせられる自信がある。もちろん頭を爆散させたりと言ったものは無理なのであしからず。

 常識1は問題なく蹴散らせる。そもそも騎士団の不手際に対して俺はその手助けをしてやったんだ。もし襲って来ようモンなら恭弥の名を口に出して弱みを握ろう。そうすれば少なくとも傲慢な態度を取ってきたりしないだろう。してきても一回死んでみればその態度は激変するだろう。

 つまりは何ら問題じゃないという訳だ。


「まぁお嬢ちゃんならそれもうなずけるか」

「どういう事だ?」

「さっき追い払った連中。Bランク冒険者なんだよ」

「……あれで?」


 たかが10パーくらいの実力の寸止めに全く反応できなかった連中がBランクぅ? あいつら程度ならレベルだけは低いアクセルさんだけでも十分に叩きのめせる気がしてならない。世の中って不思議だなぁ。


「まぁ連中は他人の依頼を横から掻っ攫って名を上げただけの連中だからな。それでもCランク程度の実力はあったんだが、お嬢ちゃんは大した腕前を持っているようだね」

「随分と詳しいんだな。さすが年の功ってか」

「情報は商人にとって生命線だからね。それよりもお嬢ちゃんは商人なのかい?」

「いんや。ただの旅人だ」

「旅人か……それなら旅行客という扱いだろうからそっちの東側の門に向かうといい。そっちであればいちいち積荷の検査で時間のかかるここよりはすぐには街に入れるようになるよ」

「いい情報ばっかで助かるよ。じゃあこれは情報料って事でどうぞ」

「えっ!? これって〈魔法鞄〉なんじゃないのか?」


 そう。手渡したのは〈魔法鞄ストレージバッグ〉のLサイズ。それとその中にはサスペンションの付いた馬車に馬を購入する用の金と水と干し草を押し込んである。まぁ明らかに過剰報酬だろうけど、そうそう何度も出会うようなミラクルは起きないだろうし、最悪知らぬ存ぜぬで押し通せばいいだろう。


「有り余ってるからくれてやるよ。感謝しろよ? この俺が野郎に物をくれてやるってのはかなり珍しい事なんだからな」

「は、はぁ……ありがとうございます?」

「うむ。ではな」


 という訳で、さっさと東門からネブカに入ろうとしたところに、突然地震が発生した。


「なんだ? ビビりすぎだろ」


 感覚で言えば震度2から3くらいの大した事のないものなんで特に気にもせずに歩いていたけど、周りの連中達は番を務める兵士に至るまで顔を真っ青にして頭を抱え、うずくまったり逃げ惑ったりしてる。たかが地震で情けないな。


「なぁおい。街に入りたいからさっさと手続きしてくれよ」


 どうせならと、このチャンスを生かして列の最後尾から一気に一番手前までショートカット。それを咎めるような奴はいなかったんでそこに居た兵士に話しかけた。


「な、なにを馬鹿な事を言っている! こんな状況で仕事なんてできるか!」

「たかがこの程度の地震でなにビビッてんだよ」

「馬鹿を言うな! 地面が揺れているんだぞ!? きっと邪神ヘルがこの世界を滅ぼそうとこの世に顕現する前触れだ!」


 なるほど。どうやらこの世界で地震という概念がまだあんまり広まっていないのか。それならこの惨状にも納得できるってもんだが、こっちもこっちでさっさとふかふかのベッドで寝たいんだ。いちいち付き合ってらんねぇ。


「うるせぇ。邪神だなんだのってのに興味ねぇんだから仕事をしろ。俺はさっさと街に入ってふっかふかのベッドで寝てぇんだよ」

「だったら勝手に入れ! どうせこの世の終わりなんだ! 取り締まってられるか!!」

「ならそうする。これは通行税な」


 突然の地震のおかげで、ズル抜かしをとがめられることもなく街の中へと入る事が出来た。ちなみに通行税は支払っていない。ケチ臭いと思われるかも知れないが、要求があった場合は地震の時にキッチリ支払っているの一点張りをするためにわざわざ口に出したのだ。ちゃんと確認しなかったこの兵士が悪い。


「のどかだねぇ」


 中は農耕都市なだけあって食材を扱う商店が多く、街を三分割するように川が流れている以外は今まで訪れた街とさほど変わらないけど、印象的なのはやっぱり風車と水車だな。あれが動く事で小麦の脱穀や製粉をしているんだろう。

 そんな風に街を見ているとようやく地震がおさまって来たけど、すぐに立ち上がっていつも通りにって動ける奴はまずいない。俺以外には。

 まず宿の場所を知りたいんだけど、そんな事を聞ける状況じゃないか。

 家屋は地震が弱かった事もあって倒壊なんて悲劇に見舞われてないが、雑多に積み上げたパンパンに詰まった麻袋が路上に転がり、それに驚いた馬の暴走によって馬車が横倒しになったりと、二次被害がそこかしこで巻き起こっているのでそっちに集中してもらおう。

 それに、街の中って事なら〈万能感知〉でアニー達の反応を探す事なんて容易いんで割とあっさり泊まってる宿であろう場所を発見。小走りでそこにたどり着くと、建物の側にはこの状況でも本を読んでいるユニもいた。


「おいっすユニ。帰って来たぞ~」

「主ですか。やはり先程の地揺れ程度では恐れもしませんか」

「当然だろ。ところで道中に問題はなかったか?」

「特に問題はありませんでした。しいて言うのであれば10時間ほど前にアンリエットへ接触してきた者が居る程度です」

「……そいつは黒い斑の付いたローブを着ていたか」

「ええ。特に争う事はありませんでしたが、ただ一言――出来損ないか。と呟いた程度ですぐに消えてしまいました」

「出来損ないねぇ」


 自らの食欲を優先させて記憶のほとんどを失った欲望に忠実なアンリエット。それとあの馬鹿ピエロはやはり知り合いだっという事に間違いはないんだろうけど、それにしたってどうやって位置を知ったんだろう。連中の間に〈念話〉的な何かがあるのかもなとでも考えておくか。


「なので一応警戒をしていたところ、突如として地震が起こりまして……主から戴いた本で知識として覚えていましたが、本当に地面が揺れるなどと言った現象が起こり得るなど初めての経験です。主の国はこのような事がよくあるのですか?」

「しょっちゅうって訳でもないが、そこそこ発生するかね。さっき程度の揺れであるなら、ほとんどの連中はいつもと変わらん日常を送るだろうな」


 さすがに5とか6になると騒ぐ連中が増えるだろうけど、今の揺れ程度なら電車止まらないよね? とかの方が重要だからな。違う意味で騒ぎにはなるかもな。


「しかしこの国の人間は恐慌状態に陥っています。なので後をお願いします」

「分かってるって」


 ユニとの会話を終え、俺はその言葉を実行するために宿の一室へ続く扉を開けた。

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