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#83 人体? 科学実験

 ふむふむ……。

 アダマンタイト。魔導銀マギシルバー。エーテル液。ドラゴンの血。そして何故か塩。流体金属アクアンタイトはこの材料でできているようだ。調合の割合はハッキリしていないけど、とりあえず正体の大部分はつかめた訳で、後はここからどうやって無力化させるかだけど……駄目元で聞いてみるか。


『あーあー。聞こえてたら応答してくれないか~』

『いかがなさいましたか主』

『別に急を要するって訳じゃない。ちょっとアンリエットに聞いてほしい事があるんだ』

『あちし? なんでもきくのなの~』

『実はな――』


 内容は、ぐにゃぐにゃ金属と言う単語から、アンリエットの同族っぽい奴が目の前に居て、それがそうであれば倒すか無力化する方法がないかといった質問をした。あまり期待はしてないんで、後は道中がどんな感じかを聞こうかと思っていたんだけど、あっち側の空気が変わったような違和感に遅れて聞いた事もない声が届けられた。


『流体金属は魔導銀にアダマンタイトで制作された疑似生命を組み込み、エーテル液による変形で肉体を形成。そして固定化に塩を用い、ドラゴンの血に含まれる多量のマナによって生命維持と魔法行使を可能としているため、活動を停止させる方法は3つ。

 1.エーテル阻害による流体性の損失。

 2.マナ喪失による活動停止。

 3.アダマンタイトコアの破壊による存在消失。

 個体名アンリエットに残されているライブラリを参照した結果です。お役に立てたでしょうか』

『お、おう。助かったよ』

『んにゅ……よか……』


 なんかよく分からんが、とにかく対処の目途は立った。後はそれをどうするかだが、アンリエットは既にお子ちゃまモードに戻っており、何かを言いかけたが相当に体力を消費したのか向こうからすやすやと寝息が聞こえて来たんで、ここでユニにバトンタッチ。


『こちらは万事問題なく進み、現在はネブカが兵の編成を至急整えており、早朝には出発予定との事です』

『なるほど。じゃあ今からでもいいんで捕縛対象が500人くらいに増えたって言っておいてくれ』

『……かしこまりました』


 それで会話は終わり。後は目の前のこいつを何とかするだけだが、エーテル液だドラゴンの血だと言われてもどうすりゃいいのか正直分からんから、ちょっと驚かせてみるとしよう。


「〈温泉ホットスプリング〉~」


 魔法でもなんでもないただの〈万物創造〉で造り出した温泉だけど、そうじゃないと疑われると面倒になりそうなんで魔法っぽく振る舞いながら、魔法使いにぶちまける。もちろん攻撃的な意味も勢いも全くないと怪しまれるんで、普通の人間であれば首がへし折れるくらいの勢いで叩きつけた。


「ぶわっぷ!? いきなり何をするのかと思えば……何も通じないと何故理解しない?」

「さて。それはどうかな?」


 わざとらしく肩をすくめて見せると、それはすぐに起こった。真っ白とは言えないまでもそこそこの白さを持っていたローブが、見る見るうちに黒く変色していった。


「っな!? いったい何をした……っ」


 答えは単純。温泉の硫黄成分が銀を黒く染め上げ他だけに過ぎないんだが、そんな事と知らなければ自分の身に異常が起きたと内心焦るのも無理はない。知識がなければハッタリもまた攻撃なり――ってね。


「なんだろうねぇ」


 とぼけて見せながら再び水を叩きつける。今度は塩素系の漂白剤。先程より圧倒的な速度で黒ずんでいく。きちんと〈漂白ブリーチ〉と魔法っぽく唱えるのも忘れていないぞ。


「くっ!?」


 さすがに自分に何が起こるか分からない液体を2度も3度もかぶるほど馬鹿ではなかったようで、ここに来て初めて回避行動を取った。それも大げさなほどに。


「どうした? なんで避けるんだ。別に危険な物じゃないぞ?」

「っ!?」


 そう言いながら吐き出された漂白剤を大仰に避ける。と言ってもそれに当たってもただ単に黒ずむだけ。銀は簡単に黒くなるけど、手入れをすれば簡単に元の輝きを取り戻す。手入れの怠れない手間のかかる金属だけど、それだけに愛着がわきやすいと聞いている。まぁ……さすがに殺しにくる銀はノーサンキューだろうけど。

 さて……どうやら少なからず脅威と感じてもらえたなら重畳。これで交渉をしやすくなった。


「おいお前。こっちは山賊を兵士に突き出したいだけだから、この辺りで逃げるというならとりあえずは追わないぞ? どうする」


 既に夜遅い。そろそろこっちの活動にも限界が近い。つまり超眠いって訳だ。

 今は戦闘をしてるって事で多少興奮しているからまだ抑え込めているけど、こう攻め手が緩んでしまうとどうしても睡魔の攻勢が勢いづいてしまう。

 かと言って攻め続けてあっという間に真っ黒になった結果。本当に何でもない物でしたってバレるのが早まるだけとなると、眠気に負けてどうなるか分かったもんじゃない。

 という訳で、ここは立場が上という事を見せつけつつ御帰宅願う。そうすれば少なくとも寝る事くらいはできるだろう。


「……まぁいいだろう。最低限の目的を達成した以上、こんな下等な連中がどうなろうが知った事ではないからな。ここは退いてやろうじゃないか」

「その目的は侯爵の殺害じゃなかたのか?」

「言うと思うか?」

「聞いただけだから安心しろ」


 まぁ……〈万能感知〉である程度の心情を把握できるからそれだけでも十分なんだけどな。

 結果は黒。やはり侯爵を狙って山賊を仕掛けたようだ。何故かまではこの力で調べるにはより突っ込んだ質問をしないと難しいし、そんな事をすれば何かのスキルがあると怪しまれるのは必至。なので今はこれで十分。

 しかし最低限か……。何の目的があって侯爵の命を狙ったんだろうな。それも自分で襲うんじゃなくてわざわざ山賊なんかに手を貸してなんてまだるっこしい事をしたのか謎だ。


「せいぜい夜道に気をつけるんだな」

「夜は寝てるから心配ない」


 そんなやり取りに、魔法使いは忌々しそうに舌打ちをしてから立ち去ったが、もちろんこっちには動きの分かる〈万能感知〉が存在するんで、完全に山小屋を後にするまでは一応警戒しつつも転がっている山賊を次々に縛り上げてはエリクサーを振りかける。

 途中で面倒臭くなったんで霧吹きで代用。これが結構楽だった。

 この山賊達の総数は258。相当な大捕り物になったなぁと思いながら、大声で喚く山賊達の声を無視して意識が途切れた。


 ――――――――――


「こ、これは……」


 翌日の昼過ぎ。ようやくすべての山賊をアニー達と別れた場所に連れて来たころ。アクセルさんを先頭に鎧を着こんだ集団と箱馬車がぞろぞろとやって来た。


「おっすアクセルさん。随分と大人数だね」

「え、ええ。夜分遅くにユニ殿から、捕らえた山賊の数が増えたと聞いたので可能な限り連れ出してきたのだが……貴殿がアスカ殿で相違ないか?」

「もちろん。ああいった連中にいつもの姿を見られたくないんで変装してんだよ」


 アクセルさんに指摘された今の姿は、いつもの銀貨面に白髪染めを適当に塗り込んでくすんだ銀髪のかつらをかぶり、背も大きく見えるようにシークレットブーツで嵩増ししているから、どこからどう見ても男としか認識されないだろう。

 ちなみに声は、おもちゃのボイスチェンジャーを〈品質改竄〉する事で魔道具にまで進化した物を使っているので、男の声も問題なく出す事が出来る。

 ついでにアクセルさんが俺の姿を見てすぐに同一人物だと分かってくれたのは、事前にそう言う情報を教えておいたからだ。


「貴様がアスカか?」

「いんや。俺はあの娘の知り合いで恭弥って女好きの旅人だ。お前さんは?」

「おれの名はインガンス・マリオリー。ネブカで騎士団の副団長をして居る者だ」

「そりゃお偉いさんだ。まぁこっちの情報を聞けば当然の判断だ。合格点をやろう」

「なんだと?」


 山道が通行困難になるほどの兵と馬車とはいえ、その総数は兵が100ほどで馬車は10。片や山賊はあれから更に動き回って総数が千に届くほどになっていた。

 それだけの数をいくら後ろ手に縛り上げて可能な限り抵抗力を奪い取っているとはいえ、集団の力とは恐ろしいもんだ。これだけの数が一斉に反旗を翻して襲い掛かって来るとさすがに対処に困る。最悪の場合は死者が出るかも知れない。

 なので、山賊連中が畏怖を覚える相手が登場する事で十分すぎる抑止力になるだろう。俺? 俺はさすがについて行かない。いちいち話をするのも面倒だし、何より目の前の副団長が気に入らない。


「まぁそんな訳なんで、俺はこれで失礼させてもらうわ。ほんじゃな~」


 後ろで何かを言っているような気がするけど、まぁロクな事じゃなさそうなんで完全に無視の方向だ。それにしてもシークレットブーツってのは歩きにくくてかなわん。ハイヒールに似た構造をしている事を考えると、よく女性は平気で歩けるよなぁと思う今日この頃。

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