#80 山と言えば……やっぱり山賊狩りだよね。
「へっへっへ……どうやら少しはやるようだなぁ」
キタコレ! ようやく異世界モノの代名詞。山賊に襲われるシチュがついに我が身に降りかかった。まさかそんな日が来ようとはな……34歳のおっさんながら興奮を覚える。
一応そんな事はおくびにも出さないが、とりあえず話がしたそうなんで馬車から飛び出してみる。
「へぶっ!?」
カッコつけて、馬車の窓から飛び出そうとして失敗した奴がいるらしいんですよ~。
なぁ~にぃ~……やっちまったなぁ!
本当にやっちまったよ! ここは颯爽と現れて宣戦布告する予定だったのに……馬車って意外と車高が高いんだねぇ。あいててて……。
「なにしとんねんあんたは……」
「ホンマ情けないですわ……でもそういうところもまた可愛さですわ」
「主は何がしたかったのですか?」
ぐ……っ! ここはスルーしてくれてもいいところだろうに。わざとだな。わざと苛めるように言ってるんだな。おっさんは涙腺が緩いんだから泣いちゃうぞ――と言いたいところだけど、1人がどんとこいと言わんばかりに鼻血を流しながら満面の笑みを浮かべてるんでグッとこらえる。
それすらストライクだったのか、銃で撃たれたように仰け反って倒れた。その表情はとても幸せそうだった。
「おいテメェ等! いつまでごちゃごちゃやってやがる!」
っとと。そうだったそうだった。今は山賊連中に襲われてるんだった。まるで危機感がないからうっかり忘れる所だったよ。
「で? 何か用か? 一応商売もやってっからオーク肉の味噌漬けなんかがお勧めだぞ」
営業スマイルを張り付けて商品を見せてみるが、目的は当然そんな物じゃないのは態度からも明らか。というかあれだけの矢を傷一つなく捌き切った腕前を目の当たりにして実力の差って奴を理解してないのか。ますますテンプレっぽい展開になって来た。
「へ……っ。当然貰うぜ。ただし、テメェ等も一緒にだがなぁ!」
はい交渉決裂。って訳で素早くクロスレンジまで踏み込んでからのアッパーカットを叩き込みすぐに後退する。そして――
「後はご自由に。情報聞くから殺さないでね」
続きはダイエット三銃士にお任せだ。もちろんそんな事を口走ればとんでもなくて痛い仕打ち(恐らくリリィさんの放射性物質)が待っているんで、死んでも声に出さない。あくまで心の中で思っておくだけだ。それでもこっちを睨んできてたりするけど、証拠がなければなんとでも言い逃れできる。
そんな感じで、十数人いた山賊ごときだ。5分も掛からず全滅させた。死傷者はもちろんゼロだが、足の骨を折ったり腕の腱を斬ったりと抵抗できない程度の怪我はさせてある。こっちの安全を考えれば当然の対処だ。
それらを数人づつに分けてロープで身体を。結束バンドで指をそれぞれ拘束。次にそれらを木の幹に縛り付ければミッションコンプリート。駄目押しで私達は山賊ですと書かれた看板を突き刺しておけば、近づくのはこれから呼んできてもらう憲兵かこいつらの仲間くらいだろう。
「じゃ。任せたよ」
「お任せください」
とはいえ見張りが居なくなるのは愚策なんで、見張りとして俺が残り、他のメンバーは侯爵の安全を考慮して同行してもらう事にした。リリィさんの背後からドナドナが聞こえてきそうなほど絶望に満ちた顔をしているけど、見ないようにしながら見送った。
さて。ここからネブカまではユニの足で往復で1日位か。となるとやる事は決まっている。大量の恩を売る為にあと2つか3つは山賊の集団を潰しておきたい。
まずは情報収集として、俺がアッパーで顎を砕いてやった特攻隊長に詰め寄る。もちろん喋られるようにするためにエリクサーを一滴入れたポーションで頭を殴りつける。激痛が襲い掛かるだろうけどすぐに治るんで安全安心。任侠映画みたいでこういうの一度やってみたかったんだよね。
「さて。命が惜しければ知っている自分達以外の山賊のアジトを吐け」
「ヘッ。んな事……誰がしゃべるか」
「まぁそうだろうね。でも……自然と喋りたくなるんじゃないかな」
言っている意味が理解できないようなんで行動で分からせる。
「が……っ!?」
「な……っ!?」
取り出しましたのは何の変哲もないバスタードソード。それを縛り付けられている別の山賊に向かって投げつけると、さした抵抗もなく頭部に深々と突き刺さって一撃で絶命した。
「さて質問だ。命が惜しければ知っている山賊のアジトを吐け。お前がな」
これで理解してくれる人間が1人くらいはできただろ。質問は目の前の男に言ってるんじゃない。それ以外の連中に言っているんだと。しかしその生殺与奪の権利は目の前の男にある。そして喋ろうにもお前という部分を強調して全員に聞こえるように言ったんだ。口を挟むような真似はしないだろう。そうすれば――
「ここ――がっ!?」
「誰がしゃべっていいって言った。口を開いていいのはこの男だけだボケ」
死ぬ事になるかもしれない。そう考えて黙っていたのは数名。意外と頭の回る連中が多かったな。
という訳でゆっくりと口を開いた連中に歩み寄り、1人1人断って回った。もちろん命をだ。
「さて質問だ。命が惜しければ知っている山賊のアジトを吐け」
三度同じ事を繰り返す。そこにはさっきまでの下品でまだ勝気が残ってた笑みを浮かべる特攻隊長の姿はなく、ただひたすらに助かりたいがためにありとあらゆる命乞いの言葉を吐き出す機械となってしまった。おかしいな。心が折れるのにはもう少し時間がかかると思ったんだけどな。
――――――――――
とりあえず聞けるだけの情報は聞いた。
それによると、あの山賊連中はこの山でも中規模レベルの集団であるらしく、情報というものをそれなりに持ち合わせていた。中には俺が殺した奴しか持っていないモノなんかもあったので、そこはエリクサーを用いて復活させれば問題ない。まぁ、山賊側は死者が復活するというあまりの出来事に口をあんぐりと開けていた。
もちろん他言無用と言いながら全員の額を押した後、スイカを破裂させて見せた。もちろんそれは見せただけで何も説明はしてない。勝手に勘違いしただけだ。
そんな連中からの情報と、〈万能感知〉を頼りに目的地へとすいすい進んでいく。もちろん監視や接近を知らせる罠なんかは排除させてもらった。
たどり着いたのは一見何の変哲もない洞窟ではあるが、その場所は比較的深い森に隠されているだけでなく、入り口もかなり小さく隙間の様に隠蔽されているのでパッと見それと気づく人間は少ない。テレビで洞窟探検のツアーがあるってのを見てなかったら俺も嘘の情報寄越したんじゃないかって疑うしな。
「よい……しょっと」
まずは入り口。特に魔法による罠の気配はないんで、俺が通れる程度に斬り広げて侵入。やっぱこういう場所はジメジメしてて不快指数がグンと上がるが気にせず突き進む。
全体的に人の手が入っている部分は少ないが、それでも邪魔な鍾乳石を折ったりして歩きやすいようにはしてくれてるんで大分助かる。こっちは背が小さいからな。
〈万能感知〉があるんでこそこそ隠れる必要もないのでずんずん奥へと突き進み、時折発見した山賊と思しき人物をスニークキルからの拘束。さらにエリクサーのコンボで復活させてその辺に転がす。もちろん叫ぼうものならもう一度殺すと脅してから。
結果。全くと言っていいほど相手に気付かれる事なく最深部まで侵入する事が出来た。わざわざ潜入ミッションにしたのはちょっと気になる事があったからだ。
「――――――」
抜き足差し足忍び足ってな感じで山賊連中のアジトの深い部分にまでもぐりこんでみると、まぁやはりというか期待通りというか。全員の格好がすべからく冒険者くずれや兵士をクビになったであろう連中の吹き溜まりって感じのクソばっかり。これはこれで楽しめる訳だけども、俺の予想した敵とは少し違うな。
「見~つけた」
「っ!? 何モンだクソガキ」
「そうだねぇ……あえて言ってやるなら掃除屋とでも言っておこうか。山にのさばるクズ専門のね」
別に本名を名乗る必要はない。正体を明かさないために黒髪のカツラと銀仮面をつけてるし、名乗ったところでどうせ二度と会うような事もないすえた臭いがするおっさん連中なんだからな。
という訳で、10分くらいでこの場に居た100人近い山賊連中を縛り上げてからさっきと同じ方法で山賊の住処を教えてもらったんで、そっちに向かうとしますかね。




