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#79 山道は続くよしばらくは

 マリアも無事に帰り、ようやく出発の準備を済ませた俺達は、一応ショット男爵に出発する旨を伝えると、侯爵と二言三言のやり取りの後に手紙を受け取ってから街を後にした。

 今日の目標予定地は100キロ先にあるネブカと言う都市だ。

 ここは川をまたぐように都市が築かれている為に、新鮮な川魚とその恩恵による農耕が非常に発展している所謂農耕都市という部類に入るから、エルグリンデやギック市と言ったこの世界基準で近代的な場所とは趣が違うらしい。

 そして。なぜたった100キロに1日をかけるのかというと、オイゲンとネブカの間には雲を突き抜ける程の山脈が立ち塞がっているからだ。


「うへー。高いねぇ」

「それに険しくもあるんや。普通の馬やったらここを越えるだけでも何日もかかる難所や」

「確かになぁ。大丈夫か?」

「問題ありません。このワタシをそこら辺の家畜と同類と思わないでいただきたい」


 何でも昔はミスリルが僅かに採掘できる鉱山だったらしく、ここら一帯は常にその利権を奪い合うために血で血を洗う鉄臭い戦争が延々と続いていたらしいけど、今の王族が人種を1つにまとめたのとミスリルの採掘量がほぼゼロとなったのを契機に下火になった今では、オイゲンとネブカの行き来を妨げる無用の長物でしかないらしい。

 だったらトンネルを掘ればいいんじゃないかと思うんだけど、何でも洞窟や鉱山に出現する魔物は一様にレベルが高く厄介な種類が多いってのに、狭い坑道での戦闘に長物は使えないし魔法は厳禁。それじゃあ確かにおちおち掘削作業も出来ねぇよなぁ。

 という訳で、山脈を登るルートを通っての移動になる訳だけども、当然ながら人が通過しやすいように道が出来ている訳もなく、曲がりくねった道を行くので滅茶苦茶時間がかかる上にこちらのルートもそこそこ魔物の数が多いので、ここを抜ける場合は商人であれば多くの冒険者を護衛として雇い、冒険者自身もそう言った依頼を複数パーティーで受ける事で自らの安全を買い、貴族は私兵を従える事で安全を手に入れなければならないようだが、俺達は石を投げたりユニが殺気を振り撒いたりすれば大抵の魔物は近づいてこないし、大軍でもないんで移動もオフロード用のタイヤなので坂道で車輪が滑るなんて事もなく非常に早い。

 片側2車線くらいの、対向馬車がすれ違っても問題ないくらいに木を切り倒して整地して確保してある。それだけこの道が重要なんだってのはひしひしと伝わってくる。伝わってくるんだけども……


「しっかし……視線が痛いな」


 登り始めて1時間ほど。これまでに3つの商隊とすれ違い。2つの商隊を追い越して来た訳だけども、後ろから押したりする事もなくするすると登っていく俺達を皆すべからく怪訝そうな目を向けて来ており、中には金さえ積めば仲間に入れてやるなんて奴もいるには居たけど、こちとら急いでるんで断っておいた。


「そらそうやろ。護衛もつけず女だけで山越えしようとしとるんやから。ウチだってアスカとユニが居らんかったらこないな場所通らへんて」

「そんな危険なのか?」

「ええ。ここは魔物だけでなく、商隊が頻繁に通るためにその荷を狙って多くの山賊が根城としているのですよ」

「だったら潰して回ればいいんじゃねぇの? 放っておけば領主としての信にかかわるんだから」


 頻繁に利用されているって事はある程度の間引きは出来てるんだろうけど、アニーや侯爵に話を聞いてみたところ、オイゲン側からネブカに向かうルートはここが一番近く安全らしい。他の所は踏破困難な沼地であったり人嫌いなエルフの森を抜けないといけなかったりと手間と時間がかかるらしい。だからこその冒険者と集団行動って訳か。


「もちろんユーゴ伯爵も何度も討伐隊を結成しているらしいのですが、この山脈は広大なうえに数多の鉱山道が残されているので、そこを使われてしまうと……なので良い成果は得られていないのが現状です」

「ふーん。意外と大変なのか伯爵が無能なのか。どっちにしろ安全じゃないって事か」


 俺には〈万能感知〉があるんで、商隊やら山賊やらの反応はキッチリ捉えているから、たとえ地の果てまで逃げようとも必ず追いかけられる。やっぱチートマジ便利。


「ホンマは大変の一言で済む問題やないんですけどね」

「しゃーないやん。アスカなんやから何言ったって無駄やろ」

「ですね。私もここまで快適で魔物の姿を見ない旅など初めてです」

「全てアスカ殿のおかげだ。〈気配感知〉でも持っているのだろう? 羨ましい限りだ」


 とりあえず。今のところは他の商隊との距離も近かったりするんで山賊や魔物が襲ってくる気配はないが、山はまだ始まったばかり。入口出口に人が多いのは当然なんで〈万能感知〉もさほど範囲を広げてる訳じゃないし、そろそろレベルアップしてスキルも強化されると思うんでそっちに精を出したい。

 という訳で、今のところの警戒はユニやアクセルさんなんかに任せ、俺は幌の上で〈万物創造〉でのレベルアップに勤しむ事にする。


 ――――――――――


「おほー。絶景かな絶景かな」


 山中を突き進む事6時間。侯爵の話だと全体の4割くらいの所まで来たらしく、晴れていると言う事もあって遠くまでよく見渡せるが、高層ビルもなければ道路も線路もねぇのを見ると本当に異世界にやって来たんだねぇって感じる。


「もうこんな所まで来たのですか。さすがとしか言いようがありませんね」

「早いのか?」

「ええ。いくつか広場があったのを見てませんか?」

「多分あった……と思う」


 うすぼんやりとした記憶を引っ張り起こしてみると、4時間くらい前と1時間くらい前に見たような気がしないでもない。ハッキリと覚えてないが馬車がたくさん停まってたような……。


「覚えてらっしゃらないのですか……まぁ、これだけの速度ですから仕方ないでしょうけど、本来であればその場所が馬で進める距離なのです」

「まぁ、分からんでもないか」


 ざっと見た感じは結構きつそうってのが思い浮かぶ。ユニにプラスしてオフロードタイヤにサスペンションのコンボがあるからすいすい上ってるとはいえ、6時間かかって折り返してねぇんだ。その過酷さが伺えるってもんよぉ!

 なんてやり取りをしながらふと近場の周囲に目を向ける。

 さすがにこの辺りになるとさすがにすれ違う商隊などとの出会いはめっきりなくなり、自然と魔物との戦闘機会が増えて来るというものだが、鉱山というだけあって相手は岩で出来た人型の塊に岩で出来た蛇に岩で出来たコウモリ。

 まぁ、大体が岩で出来ているんで武器なんかの物理攻撃に対しては当然ながら耐性があるんだろうけど、こっちは既にダマスカス製の武器で固めているんでほぼ意味がない。つまりは俺が居なくても全然平気って訳だ。むしろダイエットのためにと率先して3人が魔物退治に精を出してくれるんで、俺はやっぱり幌の上で以下同文。


 ――――――――――


 時は流れて登山開始から12時間。途中食事休憩をした際に多くの商人や冒険者から羨ましそうな視線を向けられたが、分けるような真似はしない。何故ならそこに美女が居なかったからである。

 それを済ませて再び山道。さすがに連日ユニに馬車を引かせ続けるのもどうかと思ったんだけど、そこは森角狼ユニコーンウルフ。得物を求めて数日山野を駆け回る事もざらにあるらしい。それに比べれば、毎日極上の食事と適度な休憩に未知の知識を刺激してくれるこの世界で何の役に立つのか分からん専門書を読めるのは相当に幸せとの事。

 だから食事にもう少しお肉と新たな書物をくれとねだられた。俺からすればなにも問題ないんで、今夜は分厚い霜降りのステーキを食わせてやろうと心に決めた頃。ようやくテンプレっぽい展開が近づいてきたよ。


「……これって自然現象だと思う?」

「ンな訳ないやろ。商隊を狙って山賊がやったに決まっとるやん」

「ですよね~」


 あるのは立派な巨木。それはもう女性の細腕では二進も三進もどうにもブ――じゃなくてどうにもならない代物が進路を塞ぐように横たわっている。

 これがこの世界のどこにでもいる連中であったなら、慌てて戦闘態勢を取るか馬車を反転させて休憩所まで逃げ出すかの二択を迫られるんだろうが、こちとら駄神から数々のチートをむしり取って来た34歳童貞の男だし、アニー達もAランクでもほんの一握りくらいしか持っとらんとあきらめの混じった説教を受ける羽目になったダマスカス製の装備に身を包んでいるし、レベルも超高い。大事なのでもう一度。俺よりもレベルが超高いんだ。

 まぁそんな訳で、たとえ山賊が現れようとダイエットに励む3人組の前には10人20人程度は物の数じゃないと思う。だってそれより凶悪そうな岩系魔物をなぎ倒してるんだから。


「で? どないするん?」

「俺としてはこの程度なんとでもなるけど、侯爵としてはどうします?」


 無視して進むもよし。

 ここで待機して襲い掛かって来るであろう山賊共を退治して伯爵に恩を売るもよし。


 もちろんそういう事は口にしない。今回の旅で俺という規格外の存在をいい意味で理解していくれている侯爵だ。前者も後者も出来ると分かってくれているはずだ。悪い意味? 嫌だなぁ……俺が美少女に対してそんな評価を与える訳がないじゃないですか――多分。


「そうですね。アスカさんはどの程度の事が可能でしょうか」

「まぁ……3・4日くれんなら、この山脈の山賊掃除くらいならできると思いますよ? 勿論報酬は今回の護衛の比じゃねぇけどな」


 〈身体強化〉の前に山脈などあって無いような物。崖があろうと足を突き刺して垂直に登ればいいし、たとえ道に迷ったとしてもMPがあれば水も食料も枯渇しない。そもそも山賊は設定を変更した〈万能感知〉を駆使すれば、人のいる場所はいつでも分かる。つまりはどこに隠れようと無駄なあがきって訳。

 と言っても、さすがに1日2日で出来る規模じゃない。本気を出せば別だけど、その時には山を大きく崩す危険があるんでやらない。侯爵の責任になったらさすがに悪いからね。


「それほどの数がこの山に居るのですか!? でも、請け負ってはくれませんね?」

「そりゃそうだ。美人で可愛い女性が絡まない面倒事は気が乗らんからな」


 そんな軽いやりとりが終わるのとほぼ同時に、数十本の矢が馬車に向かって一斉に撃ち込まれた。

 まあ、その程度の不意打ちにはきちんと対応してますよ? 幌の裏側には全員の痛いくらいの白い目に耐えながら張り付けた鋼の板があるから、マシンガンでも持ってこない限り貫通する訳もない。魔法だとどうなんだろう。まぁそれはおいおい試せばいいか。

 とにかく中に居た俺と侯爵とアンリエットは無傷で済んだし、外のダイエット三銃士+ユニは自分に届く範囲の矢くらいは叩き落としていた。なんかかっこいいな。

 敵の第一射が終わり、ようやく山賊達が姿を現した。

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