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#7 初めての戦闘(短め)

「はぁ……駄目だったか」


 念のため、他の牢屋も回ってシリアと同じ質問を投げかけてみたが、予想通り結果は散々。中には魔法スキルを持っていた子が2人いたけど、どっちも聞いた事がないと言われた。一子相伝って訳でもなさそうだから、よほどレアな魔法なんだろう。

 もちろん。情報を提供してくれた相手に役に立たないなんてものを言葉にも表情にも出していない自信はあるけど、所詮は自己採点。出ていた場合はせいぜい悪印象を持たれないように祈っておこう。

 兎にも角にも、やっぱりあいつから情報を聞き出すしかない。自白剤手のがあるのは知ってるが現物を見た事が無いんで作れねぇから、力づくが駄目なら魔法で何とか出来ねぇもんかね。世界を回れば自白魔法とか催眠魔法なんてものがあるかもしれんから、そっちの方が性転換出来る魔法を発見するよりは可能性が高そうだし、今はそれくらいしか選択肢がないっぽいからもうそれで行こう。

 そうと決まれば即行動と行きたいところだけど、さすがにこれだけの子供を引き連れて街まで向かうってのは難しい。

 外の見張りを殺した時にちらっと確認した限りだと、この建物はその昔に砦として建てられたものだったんだろうが、すでに放棄されて長い年月が経ってると思う。外壁は苔がビッシリ付着してたし、周囲も深い森に囲まれて凄く視界が悪い。

 そんな場所を、100人近くのロクに戦えない子供を引き連れて近くの街まで強行軍なんて、森の全容どころかどちらに向かえばいいのかすら知らない今の俺では集団で自殺させる以外の何物でもない愚行だろう。


「よし。それじゃあまずは偵察と行きますかね」

「てーさつなのだ?」

「おう。さすがに俺1人でお前ら全員を街に帰すのは難しいからな。助けが来てるかどうかの確認をして来るんだよ」

「だいじょうぶにゃ?」

「多分な。一応そこまで離れる予定はねぇし、街でも見つかったら少しづつ連れてってやるよ」

「まってるにゃう!」


 砦を離れるのはかなり不安だけど、魔法を使える子や武器の扱いが出来る子なんかに創造した杖や武器を渡しておいて、数人には消毒液や包帯といた治療道具に、敵襲を知らせる笛なんかを渡して防衛に徹するようにキチンと言い含めてから、トドメに防護柵代わりのガードレールで入り口を塞ぐように設置すれば大丈夫だろ。おかげでMPスッカラカン。二日酔いン時みたいに頭がガンガンする。これが魔力欠乏症って奴なのか。聖剣作った時に比べれば楽だが、正直シンドイ。

 その聖剣もこの砦にはなかったので、恐らく奴隷商共を束ねている貴族とやらが持って帰ったんだろう。見つけ次第数回は殺してやろう。そう心に決めて歩き出す。


 ――――――――――


 深い森は日の光を通さないほど木々が密集してるから道の整備なんてしてる訳がないんで、大小さまざまな根を跨いだり飛び越えたりしながら適当に突き進んでいくと、すぐ滝がある湖にたどり着いた。きっとここが、かつてはあの砦の水源だったんだろうな。

 そしてそこには、既に先客が居た。まぁ、そこにいる事は〈万能感知〉で知ってたんだがね。

 数は30人程度だから砦の犯罪者集団の一味って訳じゃないんだろうけど、だからと言って正義の味方的な連中であるとも言い切れない。何せ情報がないんだからな。有名な山賊集団かも知れない可能性もあるので、とりあえずコッソリと近づいてみるとしよう。


「――――」

「――――」


 とりあえず個人個人の顔が確認できるくらいにまで近づいてはみたものの、連中はきちんと統率が取れてるし、全員があの砦に居た奴等よりはるかに清潔っぽい印象を受ける。何を話してるのかまでは滝から流れ落ちる音がデカくて分かんないけど、木々の間に張った日除けの下で地図を確認しながら真剣な表情をしてるから、何やら作戦会議でもしてるんだろう。

 あの感じだとまだまだ時間がかかりそうだから、とりあえず出来そうな雰囲気を出してる奴とシンボルマーク的な特徴だけ記憶して、誰か知ってる子がいたら何者なのかを尋ねてみよう。救助してもらえるような集団であるなら案内できるかもしれんしね。


――――――――――


「それはギック市の鉄狼騎士団だと思います」


 廃砦に戻って、覚えてる特徴で思い当たる集団がいないか質問してみたところ、ルーアが知っていたらしく答えてくれた。

 ギック市は、ここら一帯を治めるマリュー侯爵とやらの領地にある総人口10万の――この世界ではかなりの大都市に該当する街で、連中はそこの守護を任されている騎士団である可能性が高いらしく、俺の質問に答えたルーアの説明に喜びの声を上げたり、安堵から泣き崩れたりする子たちが続々と現れるから超うるせぇ。

 まともに会話が出来ないんで少し場所を移動して会話を続ける。


「奴等は信頼できるのか?」

「そうですね……侯爵様は非常に素晴らしい領主だと伺っておりますが、ギック市を治めるお方については全くと言って良い噂を聞きません。むしろ悪評ばかりが目立ちますね。先程街道の警備を渋っている貴族というのがこの方なのです」

「じゃあマトモな連中は居ないって訳か。面倒だな」


 疑問に感じるくらいルーアが情報ツウなのは気になるが、今考えるべきは連中をどうするかだな。

 撃退しようにも30人の訓練された大人と全くと言っていいほど役に立たなそうな子供99人。籠城戦なら数の利も活きないからなんとかなるか。


「いえ。アスカさんがおっしゃられる方でしたら大丈夫のはずです」

「そうなのか? だったら引き入れてみるか」

「お願いします」


 俺よりこっちの世界に詳しいルーアの説明だ。相手を信頼してここまで道案内してもいいか。万が一違う目的だったりしたら、マジで面倒臭いが殲滅させるとするか。脚とか顔面を狙って殺せば鉄装備が潤沢に手に入り、森の外まで無事に案内させてやれるかもしれんからな。

 引き続き皆にはここの守備を任せて、俺は1人で森の奥の湖にある騎士団の居る場所まですぐに戻ろうかとも思ったんだけど、さすがに布袋1枚じゃ下半身もスースーするしそろそろ着替えたい。その方が相手にも怪しまれないだろうし、加えて奴隷救出に一役買ったという好印象を与えるだろう。まぁ、一番の理由は臭いのが気に入らないって事だ。


「この辺でいっか」


 適当な木の陰で布袋を脱ぎ捨て、MPがないんでHPを削りながら水入りの樽とタオル。それに石鹸を創造して手早く体を洗いながら、思考操作で動きやすいパンツスタイルの服と下着(何故か女物しかない)にブーツに剣を下げるホルスターなんか一式を創造し、ようやく人らしい格好になれると1人満足していると〈万能感知〉が人の接近を知らせてくれた。


(1人か……)


 スキルが無かったらなんにも気づかなかっただろうけど、今は木の上に人の気配がちゃんと感じ取れる。一応敵意はないみたいだけど、突き刺すような視線が向けられてるのは分かる。こんな所で美少女……美『少女』なんだよなぁ。いつの間にか胸も膨らんでるし……それが水風呂に浸かってるんだ。怪しさ100億パーセントだから確認に来るのは当然っちゃ当然か。

 まずは気付いてないフリをしながら後片付けだ。石鹸はまた後で使うから取っておいて、泡だらけで汚れた水は樽を蹴っ飛ばして地面に還元してやってから、空になった樽は〈収納宮殿〉へと放り込む。

 〈収納宮殿〉は、任意の場所に空間のねじれを発生させて文字通り宮殿のように広大な倉庫に色んな物を保存しておく事ができる便利スキルで、その容量は大きさ問わずに65535種のアイテム一種につき65535個運搬できるけど、人や獣と言った命あるものの収納は死んでなければいけないという制限をかけられている。所謂テンプレインベントリって奴だな。もちろん植物は例外。

 そんな片づけを終えてもまだ樹上の何かが居座り続けている。

 無視してさっさと仮設テントにいるだろう隊長格を奴隷達のいる廃砦に案内してやろうと思ったけど、万が一男だったら俺のスンバラシイ肉体をタダ見されたって事になる。そうであった場合はすこぶる気持ちが悪いんで代償を支払ってもらわねばならないな。


「――ほいっと!」


 スキルで強化した脚力でもって飛び上がり、木の上に居た何者かの首根っこを掴んで地面に着地。そのまま観察者を大地に軽く叩きつけてマウントを取る。


「なん……だと!?」


 驚きに目を見開くのは20代くらいの女性。栗色のボブカットに片眼には手甲と狼の刺繍が施された眼帯をしていていた。

 こいつもルーアが言っていた鉄狼騎士団の1人かな? 全体的にスレンダーで軽そうに見えてあんなところに居たって事は、この女性はいわゆる斥候って奴なんだろう。


「ここまでやっておいてなんだが、こっちに害意はない。抵抗せず質問に答えてくれるなら――」


 俺の言葉は、女性が口から吹き出した極細の針の出現で遮られた。

 咄嗟に〈万能感知〉が反応したからスウェーで避けてはみたけど、その隙に袖に仕込んでた短剣を取り出して喉をかっぱざくように疾る横薙ぎの一撃をさらに回避するためにマウント解除を余儀なくされた。ある程度距離が離れてから腕を押さえておけばよかったと後悔。咄嗟の判断力はこれからの課題だな。


「今のを避けるか。君は一体何者だ。こんなところで何をしている」

「俺はアスカってしがない旅人だよ。その紋章は鉄狼騎士団の紋章でいいんだよな? 街の守護者が1人でこんな辺鄙な森に何の用だ。幼女の風呂を覗きに来たってんなら随分とご苦労な事だな。もしかして同性の幼女にしか興味ないんか?」


 あちらさんの目的は、ルーアの話を信じるなら子供達の救出なんだろうが、確定してる訳じゃないんで自白させるのが一番確実だろう。余計な事を言って辺に疑われるのも癪なんで、一応知らんふりをして確認しとかないとね。その為にわざわざ関係ない俺の風呂覗きの話題を振ったんだからな。


「ワタシを性欲を持て余している下衆な男どもと一緒にするなっ! 君こそこんな場所で堂々と入浴をするとは随分おかしな人間じゃないか。そっちこそ一体何者か」

「俺は世界中の女性とお知り合いになる為に旅をしてる道中だ。さぁ、こっちが喋ったんだからそっちもこんなトコに居る目的を教えてもらいたいんだけど? ついでに斬りかかった理由もね」

「……最近魔物の被害が多いから森の調査をしてる最中よ。斬りかかったのはそっちが襲って来たから以外の理由が要るかしら?」

「言い返す言葉もないね」


 まぁ、そう簡単にゲロっちゃくれねぇか。確かに先手を取ったのは俺だけども、だからっていきなり斬りかかって来るのは少し物騒過ぎやせんかねと思わんくもないのだが、ここは剣と魔法の世界。ラノベなんかで見る限りだと命の価値が限りなく低い。

 ここで万が一間違って殺しちゃった。てへ♪ となっても証拠である死体は魔物の胃に収まるし、殺人に対する忌避感なんてあって無いようなもんだろうから、あれも正当防衛の一種と言われてしまえばこの世界では通じるんだろう。


「まぁそれは置いといて。森を調査するならここら辺は止めといたほうがいい。さっき派手に暴れまくったから正確な魔物の数が計れんからな。おススメはあっちの方がいいぞ」


 そう言って俺が来た方向とは逆の方を指さすと、表面上はあまり変化が見られなかったがレーダー内に居る存在の簡単な感情まで把握できる〈万能感知〉にかかれば、明らかに動揺したのが手に取るように理解できた。


「あっちは調査を終えてるわ」

「ならさっさと帰還しとけ。こっちから先は行っても無駄だからな」

「それを決めるのはこちらであって君じゃない。邪魔をするなら無理矢理押し通る」

「無理無理。お前程度の実力じゃ逆立ちしたって俺には勝てないから。痛い目に合う前に素直に尻尾を巻いて逃げなって。そうすれば追いかけたりしないから」

「……舐めんじゃないわよ!!」


 怒声を張り上げ、斥候っぽい女性が地を這うような素早い突進をしつつ袖から取り出した短剣で放つ斜めの斬り上げを半歩下がって回避。

 その勢いのまま、斥候女子がさらに踏み込んで短剣を振り下ろして来たので、それよりも早く踏み込んで軽く突き飛ばすと、まるでカタパルトで撃ち出されたみたいに吹き飛んで、気が付いたら木に思いっきり背中を叩きつけていた。


「が……は!?」

「勝負ありだな。だから素直に従えっつったのに……拘束すんぞ」


 これで素直にこっちの話を聞くとは思えないから、結束バンドで後ろ手に拘束してから体をまさぐって、武器になりそうな物は根こそぎ奪い取っていく。け、決して童貞丸出しの女の胸や尻を触りたいなんて不純な動機でやっている訳じゃないと抗議しておこう。ちゃんと武器っぽい物もあったんだからな。短剣とか毒薬とかさらしで押さえられた大山とか。


「がはっ! げほっ!」

「さて。勝負は決した訳だからこっちの指示に従えよ」

「殺せ。賊如き命に従うくらいなら死を選ぶ方が何倍もマシだ……っ!」

「まぁ落ち着けって。俺ぁ奴隷商人とは無関係な一般人だから。どうやらお前さんも無関係っぽいから、滝のトコに居る連中を引き連れてガキ共の救助活動よろしくぅ」

「救助活動……ですって?」

「そ。知ってるとは思うが、この先にある廃砦みたいな場所に無理矢理奴隷にさせられた子供が囚われててな。助けたくても1人じゃさすがにどうしようもないから応援が欲しいと思ってたところに鉄狼騎士団だっけ? お前等を見つけてこれ幸いと役立ってもらおうと思ってな」

「……」


 ここで、あの場所はすでに無力化に成功している事を伝えようかと思ったけど、相手は犯罪者と言えど結構あっさりと数人を殺しちゃったからな。俺はたまたまその現場を発見し、こうして助けを求めて駆け付けた結果、既に何者かによって見張りは皆殺しになっていた。そう言うシナリオにすれば俺が犯人と断定される可能性は少ないだろう。

 後は、俺と言う存在を誰にも秘密にしろと言い含めようと思った矢先――閃光に遅れて全身に叩きつけられる轟音が森中に響き渡った。


「なんだ?」


 〈万能感知〉で発生源を探ってみると、どうやら廃砦の辺りに雷が落ちたらしいな。

 空を見上げても入道雲どころかピーカンだから自然現象じゃないのは明白。となると考えられるのは、きっと魔法か何かだろう。どうやらよくないフラグが回収してくれとやって来たらしいな。本当に面倒臭くてかなわない。


「じゃ。後は任せたんで頑張ってくれ」

「ちょ――せめて拘束を解いてから行きなさいよ!」


 ずっと〈万能感知〉が警報っぽい物を鳴らし続けてるのが何とも嫌な予感がするんで、斥候女子なんて無視して全速力で廃砦に向かって走り出した。

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