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#73 目的達成。しかし厄介事乱入

 材料は道中で狩った角牛ポーンカウの肉を半分。

 これをまずは塩胡椒で下味をつけてからフライパンを5つ駆使して次々に焼いて行く。34歳童貞だったころには到底抱えきれないほどの仕事量だけど、〈料理〉スキルのおかげで料理に関してはこのくらいの事は同時に出来るようになっているんで、やっぱスキル万々歳だ。

 てな訳でステーキはざっと20人前を用意するが、アンリエットにとったらこの程度は前菜にしかならない。あの小さい体のどこに入るのか……皆目見当がつかないな。

 そんな事を考えながら次に用意するのが、子供が大好きなハンバーグだ。味付けはもちろんデミグラスソースだ。まぁまぁのサイズを5つのフライパンで次々に焼き上げながらソースをかけて〈収納宮殿〉に入れていく。


「ぐああああああっ!?」


 急にやかましいな。悲鳴でも上げれば俺が助けに入るとでも思ってんのか? 甘すぎる考えってもんだが、そういえばすっかりポーションを渡す事を忘れていたような気もするんで試しにちらっと見てみると、ついさっきまで鱗狼スケイル・ウルフとかゴブリンとかのザコレベルだった魔物が、鎧を着こんだ豚人間やリザードマンなんかのレベルが数段違う魔物がズラリと並び、〈解放戦線〉連中が押し込まれていた。

 一応死人はでてないみたいだけど、まぁまぁ怪我が増え始めてる。最低限の回復剤だけじゃあ対応できる域は通り過ぎてるんで、仕方ないから15体から10体に減らしてやり、ポーションを連中に向かってほり投げてやる。


「それでがんばれ」

「クソッタレが……っ!」

「でもありがてぇっすよ頭。これでまだまだ生きてられまさぁ」


 うん。悪態をつけるならまだまだ余裕があるって事だ。そろそろアニー達を呼んで連中の〈鑑定〉でもして貰うとするか。


『アニー。ちょっと連中のレベルを〈鑑定〉してくれないか?』

『ちょ!? いきなり話しかけんといてや! がふっ!?』

『ありゃ……悪い悪い。ところで出来るのか?』

『まぁできない事はあれへんけど、人を〈鑑定〉するんは本人の許可が必要なんやけど』

『その辺はさっき取ったから大丈夫だ。ユニ。乗せて帰って来てくれ』

『かしこまりました』


 よし。これでレベルがどのくらいまであればいっちょ前の冒険者としてやっていけるのかを聞いて、それに合わせてレベル上げの時間を考えよう。

 しかし……アンリエットが帰って来たはいいがどうやって入って来るんだ? ちょっと気になるなぁと〈万能感知〉に目を向けていると、結界にぶつかったと同時にするっと入って来た。

 壊したのかと思えばいまだに展開したままだし、穴が開いた様子もない。謎だな。


「ごしゅじんさま帰ったなの。ごはんなのごはんなの」

「おう。所でどうやって入って来たんだ? 見えない壁があっただろ?」

「そうなの。おはなぶつけていたかったのなの。でもにゅーって入ってきたのなの」


 説明は理解すんのが難しいが、とりあえず入ってこれたのならどうでもいいか。あんま待たせるとアンリエットが駄々こねだすからな。さっさと忘れて飯を食わせるに限る。


「戻ったか。じゃあまずはこれな」

「わーいなの。いただきますなの」


 戻って来るなりさっそく飯を要求するのでささっとステーキを出してやると、ちゃんと教えてやった食べる前のあいさつをきちんとしてから鷲掴みにして食べ始める。こればっかりは知識を入れる容量が足りないのか、ナイフとフォークで食えといくら拳骨で罰しても一向に治らないんで放っておいてる。


「戻ったで~って、よくこの状況でのんびり飯の準備ができるもんやなぁ」

「腹が減っては戦は出来ぬという格言が俺の国にはあってな。アニーは食わないのか?」

「アスカの飯やろ? 食うに決まっとるやん」

「主。ワタシも食べたいです」

「へいへい。アニーはそっちが先な」


 ユニ用のステーキをさっと焼いて差し出し、アニーには連中を指さして〈鑑定〉を指示すると、アニーはため息交じりで目を向ける。どうやらスキルが発動している時は目が金色に輝くみたいだ。


「どれどれ……レベルは平均で50いう所やな」

「冒険者としてはどうだ?」

「レベルだけで言うならCランク――いや、ギリギリBくらいやな。一応人族ン中やと強い部類に入るんやけど、あんだけぎょうさん魔物を倒しておいてこのレベルっちゅうのはどういう事や? Aランク冒険者や言うのは疑問に感じるわ。またなんか企んどるんと違うやろうな?」


 あーやっぱり気づいちゃったかぁ。どうしようかねぇ……別に俺も本人達から直接Aランクって聞いただけだから知らんと突っぱねる事が出来るだろうけど……うん。やっぱ監視者は多いに越した事はないだろう。


「まぁそれは嘘だからな。そいつらは侯爵の領地で人攫いで奴隷商をしてた連中だ」

「んなっ!? なんでそないな連中にあないな武具持たせてんねん!」

「罪滅ぼしの為だ。あんなクソみたいな連中のせいで俺が出会う予定だった美女達が裸で脂ぎったおっさんの上に跨ったり娼館でキモオタの毒牙にかかったんだと思うと腸が煮えくり返るほど憎しみがあふれて来るが、さくっと殺すのは気に入らないんでああやって冒険者として世界貢献をさせながら徐々に弱らせて殺してやろうかと考えてるんだよ」

「お、おう。よぉ分からんけどムカついとる言うのだけは理解できたわ」


 うむ。俺の怒りを込めた無呼吸のまくし立てにアニーが折れてくれたようだ。一体どれだけの女性が心に傷を負った事か。まぁ、それらは俺の手によって新しい――幸福の記憶でいつか塗り替えてやろうではないか。ふふふのふ。


「ならこんなもんでいいか」


 ギリギリとは言えBランク冒険者レベルになったっていうなら、ある程度の罪滅ぼしは出来るだろう。正直そんなレベルでAってどうなのよって疑問がない訳ではないが、本当にAランクの冒険者として活動してる訳じゃないんだからそれでもいいだろ。

 という訳で、ユニに大量の料理の入った魔法鞄ストレージバックを手渡して、アニーと一緒に結界の外に飛び出す。


「何しに来やがった!」

「決まってんだろ。お前等のレベルが十分に上がったんで、そろそろ発生源を潰しに行くんだよ。こっちは俺の仲間でアニー。ちょっと暴れたいって事でここからは戦線に加える。タイマン――1対1であればお前等より強いけど、手ぇ出そうもんなら後ろにテメェ等を一瞬で肉片に出来るユニが居る事を覚えておけよ」


 キッチリ釘を刺して、飛び出すと同時にもう1回〈微風ロー・ウィンド〉で一気に魔物の壁を切り刻み、剣を片手に魔物に向かって突撃を開始する。もちろん後を追いかけてこないように数体の魔物は残してある。あれを誰かにとられるとこっちの計画が狂うからな。


「マジかよ」


 頭目のそんな呟きはあっという間に聞こえなくなり、耳に届けられるのは魔物の断末魔と咆哮のみ。時々赤黒い液体が飛び散ってくるけど、まぁ洗濯するか風呂に入ればそれで済む。優先順位を考えれば、こんな汚れなんかよりレベルアップでの悠々自適な創造生活は上位に食い込むからな。


「ん?」


 そろそろ発生源にたどり着くかなと言ったところで、高速で近づいて来る何かに対して〈万能感知〉がアラートを鳴らす。どうやら相当な強敵が現れたみたいで、真っすぐに俺の目標である発生源に猛スピードで直進してるじゃないか。これはヤバいぞ。

 アレを万が一にでも飛んで来る何かに殺されるか奪われるかなんてしてみろ。快適な創造生活が滅茶苦茶遠のく。

 それだけは阻止したいんで全力でもって目的地にたどり着いてみると、そこには金髪碧眼のイケメンが、胴体が輪っかになってるみょうちきりんな姿をした魔物を脳天から両断しているところに出くわした。

 こめかみ辺りに角を2本生やし、眉間にしわをよせての切れ長の三白眼はかなりの迫力があり、自信みなぎる余裕の笑みを浮かべる口元には鋭い牙が伸びてて、背中には蝙蝠の羽に近い翼が2枚2対で存在感を主張する。


「のおおおおおおおおおお! 何してんだお前えええええええ!」


 俺のそんな怒鳴り声に、敵は口をへの字にして明らかに不機嫌そうになる。


「フン。みすぼらしい異世界人如きが、伯爵の子孫であるこのボクに対してお前呼ばわりとはな。これだから下民と言う下等生物は嫌いなんだ。死ね」

「チッ! 〈火矢フレイ・アロー〉」


 俺を異世界人とか抜かしやがったって事は、こいつはどこかの種族の勇者って事かよ! こりゃまたとんでもない奴が現れやがったもんだよ全く。この俺から快適な生活を奪おうとしてるんだからな! 殺すと面倒な事になりそうなんでそうしないが、ぎゃふん(死語)と言わせるために恐怖を骨の髄どころかDNAにまで刻み込んでやる!!

 とりあえず、この距離でこの死体に攻撃を当てさせるのは勘弁してほしいんで、先制で魔法を撃ち込んだが随分と豪華そうな盾に弾かれて中断させるには至らなかった。


「……〈爆散(バースト)〉」


 至近距離での大爆発が起きて、〈万能感知〉で俺と奴以外が吹っ飛んでいくのを目の端で確認できた。ギリギリで目的の魔物の死体を〈収納宮殿〉に取り込んどいてよかった。何だったのか知らんがあんなもんが直撃してたら肉片一つ残らんかっただろうな。

 ふっふっふ……しかしこれで、後はエリクサーを振りかければ経験値S〇機関の出来上がりだ。きっとそうだと信じたい。


「ふぅ……びっくらこいた」

「貴様ぁ……。下等な平民如きがこのボクに抵抗するとはどういうつもりだ! 不敬罪だぞ!」

「死にたくないんだから抵抗位するだろ。つーお前は何モンだよ。いきなりバカみたいな攻撃ぶっ放しやがってよぉ。たまたま魔物しか居なかったらいいけど、俺じゃなかったら死んでんぞ?」


 実際。2メートルくらいがクレーターになってる。アレクセイの自爆と比べると相当に威力が落ちて1割くらいしかHPが減ってないとは言え、常人ならお陀仏だ。


「はぁ? なぜ貴族であるこのボクが下等な平民如きに名を名乗らねばらならない。お前等にボクの名前を口にされるだけで高貴な血が穢れるという事も分からないとはやはり平民は愚かだな。それに貴様等のような生物が何匹死のうと関係ない。要は魔王を倒せるこのボクさえ生きていれば、後からいくらでも生産可能だろうが」


 どうやら相当に傲慢な性格らしい。きっと甘やかされて育てられたんだろうな。めっちゃムカつくんでちょいと意趣返しでもしてやろう。


「じゃあゴミでいいか。おいゴミ。こんなところで魔物狩るなんて何が目的なんだゴ――うわっと!」


 魔王を倒すって事は……こいつもあのザコ勇者と一緒で転生して来たクチか。見た目人間でもエルフでもないって事は、それ以外の勇者ってなる訳だが、こいつこんなとこで何してんだろうな。この感じだと尋ねたところで無回答なのは明らかなので無視するか。

 それにしても意味が分からないな。どうして急に攻撃してくるような真似をしたんだろうな。こっちは目的を聞いているだけなのに、その返答が攻撃って事は……敵対反応だしぶっ倒せばいいか。


「下等平民が……このボクを相手にゴミだと? 上級貴族であり勇者であるこのボクをゴミ呼ばわりとはよほど命が惜しくないらしいな!!」

「はぁ? 何怒ってんだよ。お前が名乗りたくないと言ったから、こっちはわざわざ貴族なんかの名前に用いられるゴミって呼んだだけだろ。何が不満なのか全く分かんないな」

「なんだと? いやしかし……」


 迷ってる迷ってる。ここは異世界で、俺が同じ転生者だって知らないから、ゴミ=貴族の名前に使われるってのを頭から否定しきれないんだろう。こっちとしてはそうなってくれるのが目的だから好都合すぎるだけだ。


「っせい!」

「ぐ……が!?」

「お? 随分と頑丈なんだな」


 魔物を殺された恨み(もともと殺す予定だったのは棚上げ)を込めてまぁまぁの踏み出しからの鳩尾打ち抜きの一撃は確実に捉えた訳だけども、吹っ飛んで行ったりしない。こいつぁレベルが高いぜ。あのザコ勇者よりは強いかも知れんな。


「ごはぁ……っ。き、さまぁ……っ!!」

「こっちもお前の行動にキレてんだよ。五体満足で帰すつもりはないぞ」


 即座に喉に掴み掛り、全力でもって地面に向かって投げ付ける。一瞬で土煙が上がり、まるで視界が効かなくなってしまった。失敗失敗。

 とりあえず。計画を滅茶苦茶にしてくれた事を骨の髄まで分からせてやらないとこっちの腹の虫がおさまらない。着地と同時に地を蹴って飛び出すも、土煙の隙間から紫の閃光が僅かに見えたんで慌てて回避。


「クソがっ! 下民如きがこのボクに手を上げるなどもう許さん! 魔族もろとも吹き飛ばしてくれる!」

「ん? 魔族がこの辺に居るのか? ちょっとそこんところ詳しく教えろ」


 魔族の心当たりは生憎と1人しかない。まぁ別の奴である可能性の方が極めて高いとはいえゼロじゃない。特徴を問いただせばすぐに分かるはずだ。

 そしてそれが当たっていたら、この魔物をけしかけた罪に罰を与える為、俺は魔族領の場所を聞いて乗り込むつもりだ。あいつ程度が偉い立場にあるって事は、他の連中も大した事はないだろうから何とかなるだろう。

 暴れられると困るんで、振り抜かれた槍を受け止めて引き寄せ、その胸倉に掴み掛る。


「なっ!? 馬鹿な……っ!」

「おい。俺は魔族について聞いてんだからさっさと答えろ」


 とりあえず喋りやすくなるように殴る。


「がはっ! げほっ! ば、馬鹿な……。ボクは勇者だぞ! そんなボクが何故貴様みたいな下民如きにダメージを負わねばならない!」

「そう言うのはどうだっていいんだよ。とにかく魔族の特徴を言え」

「はーっはっはっは。それはワタシの事なのだ!」


 どうやら本命が登場みたいだけど、どうやらこの声を聞く限りはあいつじゃないのは確かなんで、魔族領に踏み込まないで済んだか。

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