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#72 暇を持て余した。アスカの。遊び。

「どうなってんだこれ」


 〈万能感知〉を見た限り、魔物から魔物が現れる。そんな不思議な光景に首をかしげていると、とうとう2枚目の結界が破られるのと同時にガラスが砕けるような音に少し遅れて視界がぐっと暗くなった。


「な、なんだなんだ? どうなってんだ一体」

「魔物が村を覆う結界を砕いたんだよ。それよりも準備が終わったならさっさと行くぞ」


 このペースで魔物が増え続ければ、さすがに面倒くさくなってくるんで、さっさと大本を叩いてしまおう。

 しかし……あの魔物は誰にも渡さない。あいつの死体を収納して、人のいない場所でエリクサー復活をさせての経験値S〇機関となってくれれば、遅々として進まない俺のレベルアップ速度も多少は上がってくれるはずだからな。こればっかりは面倒だなんだとサボタージュする訳にはいかねぇぜ。


「なぁ、あんたも来るのか?」

「当然だ。いつお前等が逃げ出さないとも限らないしな」


 そこに行く尤もらしい理由と共に、奴隷商たちを引き連れて魔物が襲撃をかけている場所に向かおうとした俺達の前に、当然のようにユニと、息を切らせているアニーとリリィさんがいた。


「主。その者たちは?」

「冒険者の〈解放戦線〉だ。少し話をしたら、快く魔物退治を買って出てくれることになった」


 嘘っぱちの説明だがそれっぽい理由に聞こえるだろう。そう思っていたのに、アニー達の表情は一様に憐れむようなものばかり。


「ふぅ……っ。スマンなあんた等。アスカはこういうやつなんで迷惑かけた思うわ」

「せやけど悪い人やないんです。許したって下さい」

「なんか俺が悪い事してるみたいな言い方に聞こえるんだけど今はいいや。取りあえず魔物の群れが無尽蔵に現れ続けている異常事態だ。どうする?」


 ここで侯爵だけ逃がすという手もある。すでにここは他貴族の領地だから、俺がわざわざ手を貸してやる義理はねぇ。まぁ、例の何かを回収するためにそれっぽい理由――逃げ道の確保的なウソをでっちあげて残るつもりではあるがね。


「戦うに決まっとるやろ。っちゅうかこれだけの数を見殺しにするてアスカは何考えてんねん」

「ここは侯爵領じゃないからな。むやみに手を出して難癖付けられんのも癪だろ?」

「そうかもしれんけど、そこら辺は侯爵様が何とかしてくれるやろ。伯爵より偉いんやから」

「せやね。あの人やったらアスカはんに何とかしてくれへん? って頼む思いますわ」

「なるほどねぇ……」

「せやからあては守りに徹します。少しくらい後ろにおらんと、いざいう時に対処でけへんから」

「なら侯爵と街の守りはアクセルさんと他に任せるとして、俺は大本を叩くとすっか」


 あれを誰かに渡す訳にはいかない。俺の快適レベリング装置……あれがあるのとないのとでは今後の生活が変わるんだからな。

 という訳で、俺は〈解放戦線〉達を引き連れて現場に訪れてみると、薄黒くなっている結界の外側にはパッと見ただけでも100以上の魔物が手にした武器で殴りかかり、言葉とも言えない雄たけびを上げている光景に、まともに戦線に立った事がないのか奴隷商の連中が明らかに腰が引けている。


「なんやあんた等。あの程度の数にビビっとんのか? それでもAランクなんか?」

「あ、当たり前だろ! あんだけの魔物を相手にビビらない方がどうかしてる!」

「ウチらは平気や。と言うか平気にさせられたいうんが正しいかもしれへんな」

「どういう事だよ」

「主のそばに居れば、あのような少数のザコを前にしても恐怖の対象にならないのですよ。見ていれば分かります」


 さてと。とりあえず発生源に向かうにしてもこいつらを排除しないと出るに出られないからな。大勢を一気に潰すには〈微風ロー・ウィンド〉が最適なんで、さっさと唱えて一瞬で切り刻んでやった。

 撃った後に結界まで壊れないかとの疑問が脳裏をよぎったけど、結果として内側からの攻撃はなんなく通過してくれるという事が分かったんで良しとしよう。横合いから他の連中のこいつ考えなしに魔法放ちやがってみたいな目を向けてくるが無視だ。済んだ事をグチグチ言った所で変わらないんだ。細かい事を気にする連中だ。そんなだから胸も――


「はぶしっ!? いきなりなにすんだよ」

「なに。ウチの勘がアスカを思い切り引っ叩け言うてたからそれに従ったまでや」

「はた迷惑な勘もあったモンだ。何の根拠もないのに叩かれる方の身にもなってみろって」


 いやぁ……鋭すぎる勘を持ってるもんだねぇ。ちみっと考えただけでハリセンが飛んでくるたぁな。侮れんぜ。

 それよりも、後から続々と魔物が近づいて来るが、死体の山をかき分ける時間の分だけ、こっちにはわずかながら猶予がある。さっさと処理しないとこっちにまでお鉢が回ってきちまう。


「さ。道は出来たからさっさと行くぞ」

「……嘘だろ」

「ほら。先陣はお前達だ」


 俺の後ろをついて来るだけじゃあ罰にならないんで、次々と〈解放戦線〉の連中の首根っこを掴んで結界の外に次々に放り投げる。そこに多少の手心はあっても無事に着地させるという心遣いは微塵も持っていない。もちろん女子なら別だがこのメンバーの中には俺が女子と認識できる存在はいなかったんで全て同様の扱いだ。


「あない乱暴に扱ってええんか?」

「仮にもAランクの冒険者なんだから大丈夫だろ。ある程度間引きが済んだらアニーもあの中に行ってもいいぞ。さすがにあの数の中に女性を飛び込ませたくないからね」


 正常な判断力がないのか奪われて居るのかは知った事じゃないけど、次々と迫って来る魔物が足止め代わりの死体を横から回り込んで襲い掛かると言う猿でもわかりそうな事をしないので、連中に襲い掛かる数はまだそこまで大軍とはいいがたい。装備だけは一流なんだから、このくらいの数はやってもらわないと困る。主に恨みを残しているであろう幼女達がね。


「テメェざけんなよ!」

「そうだそうだ! こんな数俺等だけで捌き切れるわけねぇだろうが!」

「クソッ! 何で戻れねぇんだよ!」


 不思議だねぇ。内側から出るモノはいかなるものだろうと拒まれないのに、外から内に入ろうとするものはその全てを拒んでいる。この街に入る時にはそんな事はなかったはずなのに……もしかしたら魔物の接近が理由かな? それとも結界が砕ける事で段階的に強力になっていくのかな? 疑問はいろいろと残っているけど、とりあえずは見学かな。


「一度に10以上こないようにしてやるから、取りあえず100匹倒して見せろ。回復手段の類は一定数倒すたびにくれてやるから考えて使えよ」


 既に5匹倒してるからとりあえず1本投げ込む。勿論まだまだ序盤なんで市販されている傷薬だ。ちなみに治るのは浅い切り傷くらいが限界だけど、まぁ最初なんだしこれで十分。何か文句を言ってるみたいだけど無視しても問題のない内容なんで、耳を貸さずに魔法での数の調整に精を出す。


「ええなぁ。ウチも運動したいわぁ」

「それならユニと戦ってみるってどうだ? 準備運動がてらにちょうどいいんじゃないか?」

「ワタシは構いませんよ。最近馬車を引くばかりで運動らしい運動をしていませんでしたからね。アニーが良ければ準備運動の相手をしようではないか」

「ユニかぁ……前にレベル聞いたけど勝てる気せぇへんわ」

「別に勝つ必要はないだろ。準備運動なんだから胸を借りるつもりでぶつかってみればいいだろ」


 全身運動はダイエットになるし、格上の相手とやりあうのは戦闘技術の向上に一役も二役も買ってくれる貴重な好機だ。それが死ぬ危険も少ない状況で出来るんだ。喜ばしい事この上ないだろうて。


「ほんならやるけど……加減してや?」

「ご心配なく。これでも餌を入手するために加減をするのは得意としている」

「ま。失敗しても最悪エリクサーあるから」

「ちょ!? ホンマに、ホンマに頼むで!」

「ごちゃごちゃとうるさい女だ。さっさと始めるぞ」


 その言葉を合図に、ユニがアニーに向かって突進する。


「早――」

「足りないぞ」


 あまりにも突然で直撃すんじゃないかって思ったけど、随分とスピードを落としていたみたいでギリギリのところで防御する事が出来たみたいだけど、あっという間に5メートル以上遠くまで飛んで行っちゃった。


「あんま街に被害出すなよ~」


 よし。これで注意したという大義名分は得られた。後に何かしようと全てはユニとアニーの責任だ。俺は頑として無視を決め込もう。こっちが大変になって来たからな。


「頭ぁ……体が重いです」

「頭ぁ、痛ぇよぉ……」

「気合で何とかしろ! クソが……っ! いつまでもわらわらと鬱陶しいんだよ!」

「おーおー。頑張ってるねぇ」


 まぁ。懸念事項はレベルが上がり切ってない最初の段階だったんで、それを過ぎた今となっちゃ別にどうでもいいんだけど――


「喋る余裕があるって事は、まだ追加しても大丈夫だな」

「なっ!?」

「テンメェ……ッ! これ終わったら覚えてやがれよ!」

「あっはっは。吼えろ吼えろー」


 さて。後は漫画片手に魔物の数を調整しつつ、いっちょ前の冒険者として最低限動き回れるだけのレベルになるまでは待機だな。今のところはこの一ヶ所からしか魔物の襲撃はないみたいだし、俺にとっての目標物がどれだけの量の魔物を断続的に生み出し続けられるのかを知るいい機会だ。

 俺が飽きるのが先かレベルが上がり切るのが先か。取りあえずけんだな。

 という訳で他の皆に様子はどうかな……っと。

 アニーとユニは一応まだ準備運動が続いてるみたいで、リリィさんはアクセルさんや侯爵なんかと一緒にこの街の戦力で住民などを避難させてると思う。こっちに人が来ないのはきっと俺が何とかしているって事を説明してあるんだと信じたい。

 そう言えばアンリエットはどうしてんのかな。特に行き先も告げずにどっか行っちゃったみたいだけど……って見つけたんだけど、どうやらまだこっちの異常に気付いていないようで結構なスピードで森の中を走り回ってるみたいだからとりあえず戻すか。


『アンリエット。聞こえるか』


 反応なし。そう言えばこれの説明をよくしてなかったっけ。何を言うでもなくいつも近くにいたからすっかり忘れてた。スパッと説明。


『これでいいなの?』

『ああよく聞こえる。今何してんだ?』

『うーんとね。いっぱいはしってぱくぱくしてるのなの』


 パッと聞いただけじゃ意味が分からないだろうけど、アンリエットはソウルイーターなる剣で、その攻撃方法は切れ味鋭い刃での斬撃という訳ではなく、身体のいたるところから出現させる口による捕食みたいなのが攻撃だから、説明するなら近づく魔物を食らっているという事になるだろう。


『おおそうか。でもそろそろご飯の時間だから戻って来い』

『ごしゅじんさまのごはんなの!? すぐにもどるなの~』


 飯と言う言葉に素早く反応したアンリエットとの通信はすぐに切れたけど、〈万能感知〉に映るアンリエットの反応はもの凄い勢いで近づいて来るんで、とりあえず収納しておいた食用になる魔物の死体を取り出して、〈解放戦線〉達が継戦するすぐ隣で調理を開始する事にした。

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