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#71 安い飴(アスカ的に)とドギツイ鞭(元・奴隷商談)

「うーわ懐かしい。道理でどこにも無かった訳だ」


 この世界に転生したその日に創造して、結果奴隷になるという大失態を犯す原因となった聖剣が、まさかこんなニセ勇者の手に渡っていたなんて。不思議な反応の正体は〈万能感知〉のおかげですぐにこれだとわかった。というか聖剣って確か……


「お前等、マリュー侯爵領で問題になってた奴隷商の連中だな」


 そう。確かあの牢屋に居た時、誰かから奴隷商の誰かが聖剣っぽい物を持っていたなんて事を言っていた記憶がある。あの時に捕らえたのが確か半数だったはずだから、こいつらの数も大体当てはまるからほぼ間違いないだろ。〈万能感知〉にも動揺している表示が出ているからな。


「な、なにを馬鹿なこと抜かしてんだクソガキ!」

「そうだそうだ! おれ達のどこが奴隷商だっていうんだ!」

「ふざけた事をぬかしてると痛い目にあわせるぞ!」


 すごいな。口を開けば開くだけ〈万能感知〉に嘘の表示が出て来るじゃあーりませんか。

 そもそも。俺みたいな子供の戯言を本気で受け止めてる時点でやっちゃってるんだよなぁ。ここをさらりと軽く流していれば、従業員も全く子供は……程度で済んだだろうけど、今ではまさか……本当に? って感じの表情で明らかに疑惑の目を向けている。

 よし。ここでさらに追い打ちをかけてみるか。


「じゃあそっちの言い分に億万歩譲ったとしよう。そうなると、仮にも勇者を名乗る人間が俺みたいな子供にぶん殴られてあんなになるなんておかしくないか?」


 つい本気でぶん殴って胴体を吹っ飛ばしかけたけど、そこは天下のエリクサーの出番だ。肉片などが飛び散る前に飲ませて事なきを得ているので、本格的な問題は宿の修繕費だけって事になる。そっちは増え続ける金で支払えるんで痛くもかゆくもねぇからどうだっていい。

 そんな事を考えながら誰にでも気が付くような疑問を投げかけてみると、男達の表情はますます曇り、従業員の表情は汚らわしい物を見るようなものになっていく。


「あ?」


 さぁここからどう言い訳をするのかと待っていると、どこからともなくガラスが砕けるような音が響き渡り、なんだなんだと〈万能感知〉に意識を向けると、街を覆っていた『一番外側』の結界がいつの間にかなくなっていて、魔物の大軍がこっちに向かって進軍してくる光景を捉えていた。

 今の音の理由はもうわかった。なので次は、知らないフリをして今の音は何なのかを聞こうとこの街の従業員であるちょいイケメン側の男に尋ねようとするよりも早く走り去ってしまった。

 どうしたもんかいのぉと首をひねっていると、ここでようやくニセ勇者(弱)が目を覚ました。


「う……く」

「ボス!? 大丈夫ですかい!」

「当然だ。おれさまは勇者だぞ? あんなクソガキの一撃程度でやられたりするかよ」

「そ、そうですよね。とんでもない一撃だったんでマジで死んだかと思ったんですが、さすがはボスだ」


 全員でニセ勇者(弱)の無事を喜んでいるようだが、こっちとしてはコナかけられてはいそうですかって訳にいかない。あくまでまだ勇者を名乗るつもりなんだとしたら、こいつにはちょっとお仕置きが必要だろう。


「おい奴隷商。まだ勇者を名乗るつもりか?」

「誰が奴隷商だクソガキ! あ? テメェはどこかで……思い出したぞ! 道で寝転がってた馬鹿じゃねぇか。何でこんな所に居やがる!」


 あーあ。折角取り巻き達がしどろもどろになりながらも誤魔化そうと必死になっていたのに、感情優先のニセ勇者(馬鹿)のせいですべてが台無しになったじゃないか。まぁ運良くそんな発言に意識を向けるような状況じゃなかったから、咎められるような事はなかった。


「その節は世話になった。ところでお前は勇者なんだろ?」

「当然だ。この聖剣がその確かな証拠――ってない!?」

「元は俺のだから返してもらったに決まってるだろ。まぁ別にくれてやってもいいんだけどな」


 聖剣自体に対して執着はしていない。エリクサーが潤沢な現状、すでに数本似たような物を創造してあるからな。ただ、この俺からパクったモンを自分の物だと言わんばかりに見せびらかすのが単純に気にいらない。そんな事をしながらこんなとこまで逃げてきた――のかどうかは知らんが、利用したからには不利益もキッチリ受け入れねぇとな。

 そしてこの後にさせる事を考えると、聖剣なしじゃこの連中には荷が重いだろうからな。


「ならさっさと返せクソガキ」

「あ? またぶっ飛ばされたいのか?」

「う……っ!?」


 思わずお腹を押さえて後ずさる。あまり記憶はないだろうが相当な激痛は体が覚えていたんだろう。まぁあんまり生意気言うようだったら問答無用で同じ目にあわせるけどな。


「まぁそんな訳で、今のお前等には道は2つしかない。1つ――俺に奴隷商の生き残りとして捕まって判決を受ける。この際はまず間違いなく死刑だろうな」

「2つ目はなん――ですか」

「勇者なんだろ? この状況を何とかして見せろ。嫌なら死ぬしかない」


 つまりは魔物退治だ。どうせ今まで勇者だと言いふらして飯や寝床を確保していたのはこういう手合いの常だ。それを少しでも返還させる為には、世のため人のために行動しないといけない。それが勇者ってモンだ。俺はそう言うのが超絶怒涛に面倒くさくて嫌だから、絶対に勇者なんて名乗らないけどね。

 そんな訳で、俺と言う抗えない暴力に無駄な抵抗をするか、一縷の望みを賭けて魔物退治に精を出すか。選ぶのは連中次第だ。俺はその決定に身を任せるつもりだが、あまりに遅いようなら問答無用で魔物の中に放り込んで強制的に数を減らさせるつもりだ。

 はてさて一体どうするのかなと連中の回答を待っていると、慌てた様子のアクセルさんが上から降りてきた。


「アスカ殿ここに居たのか!」

「どうしたんですかアクセルさん。マリュー侯爵の護衛はどうしたんですか?」

「そうだ! どうやらこの街を守る結界が何者かに破壊されたとの報告があったんだ。すぐに我々で討伐せねば侯爵様に害が及ぶかもしれない。手を貸してくれないか」

「だったらいい人達が居ますよ。こちらの方達はなんと、かの有名な〈解放戦線〉というAランク冒険者らしいですよ」

「なっ!?」


 俺の突然の発言に、元・奴隷商だった連中は一様に驚愕していたが、事情を知らないアクセルさんはなんと素晴らしい戦力が居てくれたものだと言わんばかりの満面の笑みを浮かべながら聖剣もちのリーダーの手を取った。


「Aランクとはおみそれしました。現在この街は火急的状況にあり、1人でも多くの実力者の助けが必要なのです。当然、手伝っていただけますな」

「あ、ああ。もちろんだとも。おれさま達に任せておけば、勝利は約束されたようなものだ」


 まぁ。そう言う以外に残された道はないだろう。

 わざわざアクセルさんがマリュー侯爵の護衛である事を教えてやったんだ。つまり、やろうと思えば今すぐにでも侯爵の手によって首と胴体がお別れしなくちゃなんなくなるんだから。おかげで面倒な手順もなくこっちが動き回る事無く面倒を解決できるってもんよ。


「おお! さすがAランク冒険者。それでは私は憲兵達の指揮を任されておりますので、皆様の事は私が皆に伝えておきますので、ご自由に動かれてください!」


 ニコニコ笑顔を一瞬で引き締め、アクセルさんは宿から飛び出していった。公私の切り替えの早さは素晴らしいな。


「さぁ諸君。どうやら選択肢が1つになってしまったようだな」

「クソッタレが。どうせ死ぬなら一瞬でも長く生き残ってやらぁ! やるぞテメェ等!」

「「「「おぉ……」」」」

「やる気がないないのかな~?」

「「「「うおおおおおおおおお!」」」」

「まぁ合格にしてやる。そんなお前等に餞別をくれてやる。好きなのを選べ」


 魔法鞄ストレージバッグから取り出したように見せかけて地面に転がしたのは、経験値稼ぎのために死蔵しまくっている武器防具各種だ。さすがにリーダーの聖剣以外の装備が貧弱過ぎて、魔物の前になんて出せやしない。レベルも期待してないんで、せめて装備だけでも立派にして生存率を上げる狙いだ。動かないでいいってのがまたイイ。


「ミスリルだと……っ!? テメェ一体何モンだ」

「何でもいいだろ。それよりさっさと着替えろ。さんざっぱら将来有望な綺麗で可愛い少女の命をもて遊んだ罪を、この程度でそう簡単に消せると思うなよ」

「そっちこそ。魔物殺しまくったら約束守れよ」


 これは慈善じゃない。連中に懺悔をさせる為の先行投資だ。こいつらのせいで、一体どれだけの美少女たちが俺の目の届かないところで脂ぎったおっさんに跨されていたのかと思うと……腸が煮えくり返りそうだ!

 この恨みを晴らすには、さくっと命を奪うだけじゃ物足りない。いたぶっていたぶって精神を擦り減らして徐々に徐々に弱らせながら最後は魔物に……と言うのが俺の思い描くストーリーだ。

 そんな事を考えながら着替えを済ませて行く元・奴隷商の連中に目を向けながらも、魔物の動向もちゃんと確認している。今は2つ目の結界を破ろうとしているみたいだけど、少し視線を別に向けると、一際大きな反応から次々に魔物が現れ続けているのを発見した。

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