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#70 おかえりなさい

「アニーちゃん早ぅ」

「焦らせんといて! こっちや――あぁ……」

「ふっふっふ。その様に分かりやすい反応をすとは修行が足りない証拠ですね。アニー殿も私のように修行をすれば――どうぞ」

「ぷくく。アクセルも十分分かりやすいやん」


 マリュー侯爵領を後にして10数時間。王都に近づくにつれて魔物の数が減るっては聞いていたけど、まさかここまで違いが出るなんて思いもしなかったな。

 今までなら、これだけの時間走り続けていれば100以上の魔物が〈万能感知〉の範囲内に侵入してきたけれど、ユーゴ伯爵領に入ってからは片手で数えられるほどしかない。おかげで絶賛暇を持て余し中なんで、暇つぶしに作ったトランプでババ抜きの真っ最中だ。

 ちなみにアニーとアクセルさんが圧倒的に弱く、俺とリリィさんは互角。何故かアンリエットが絶対王者として不動の地位を確立していたが、その表情は不満そうに頬を膨らませてる結果となった。

 ちなみに理由は、激烈な幸運で配られたカードが全て揃っているという馬鹿げた奇跡の連発のせいで一向にババ抜きの醍醐味を味わえないからだ。


「わーいなの。たくさんとれたのなの。つぎはこーしゃくのばんなの」

「あらあら。これは困りましたねぇ」


 仕方がないので、日本から世界に発信された偉大なボードゲームであるオセロを教え、ちょうど仕事がひと段落付いたマリュー侯爵と一緒に遊んでもらっているが、ニッコリ笑顔で子供を叩き潰すような真似をせず。勝ち星を多目に譲る事でその機嫌を取り持ってくれている。対価はもちろん美味い飯と漫画であるのはいうまでもない。

 そんなこんなで日が暮れそうになったころ、ようやく目的地であるおオイゲンの街に到着した。

 街と言う割には随分と質素だし、ログハウス風の木造建築ばかりで田舎臭い印象を感じるけど、どうやらここは避暑地みたいな感じをウリにしているらしく、街の中央には湖畔があってボートで釣りをしたり、周りの森を歩いて森林浴を楽しむような。そんな感じの観光地らしい。

 いつものように侯爵を一番上等な宿屋に送ると、俺達の自由時間の始まりだ。

 アニーとリリィさんはエレレで仕入れた商品を売る為に露店を開くとの事で。アンリエットは自由だぞと言った途端にどこかへと走り去ってしまったので、一応誰かに迷惑かけたら飯抜きだからなと釘はさしておいた。

 ユニは1日中走りづめだったので休憩とばかりに馬車のそばで寝転がっている。もちろん護衛の意味もあるが、こっちは最近ラノベにハマっているので今日も10数冊を創造して置いておいてある。もちろん読みやすいようにサイズはきちんと数倍は大きくしてあるしこちらの世界の言語に書き換えられている。細かい所に手が届く〈万物創造〉便利だねぇ。

 とりあえず全員が自由に動き回っているので、俺はのんびりと侯爵の護衛をする事にした。

 と言っても、〈万能感知〉があれば敵意ある反応はちゃんと発見する事が出来るんで、四六時中一緒に居るって訳じゃない。これだけ何にもないのに張り付くってのはこっちも相手も気を遣うだろうから、アクセルさんも部屋の外で見張りをしているので俺は窓側を陣取る。


「さーってと。今日もやりますか」


 これまでの道中で実に多種多様な素材を〈品質改竄〉で造り出したおかげで、魔物の素材にはもうほとんど事欠かないまでになった。おかげでレベルはもうすぐ20。ちなみに皆にレベルを聞いてみたところ、アニーは68。リリィさんは77。ユニは230。アンリエットは24。アクセルさんは54でマリュー侯爵は8。まさかつい最近ついて来るようになったアンリエットにすら負けるなんて……と言うかユニって滅茶苦茶レベル高かったんだなぁ。全員の顔が明らかにひきつってたもんな。

 まぁ。強さはレベルだけじゃないからいいんだけどね。な、泣いてなんかないからな。


「はぁ……どうすっかなコレ」


 〈収納宮殿〉に押し込んでいるラインナップを見て思わずつぶやく。

 レベルを上げる為にスキルを使いまくっているとはいえ、あらゆる物を作り出せる俺としてはハッキリ言ってほぼ武器すら必要としないし、金もそろそろ白金貨20万枚を超える勢いだ。これだけやってレベルが20に届かないなんて世の中間違ってると思います。自分で蒔いた種なんで誰にも文句が言えないけどね。

 売るにしたって増えるペースを考えれば焼け石に水だろうし、そもそも超貴重素材を売ったりして顔の覚えがよくなるのは基本的には避けたい。色んなしがらみに縛られるのは勘弁だからな。

 いつか処分できる日がくるようなら一気に処分したいなぁなんて考えていると、〈万能感知〉に不思議な反応が現れた。


「なんだこれ」


 敵でもなければ味方でもない。

 人でなければ魔物でもない。

 いったいこれは何なんだろうな。敵意や嘘まで見抜く〈万能感知〉の数少ない弱点が、相手の詳細が分からない事だからなぁ。

 集団の中にあってそれは、1人に寄り添うように移動し、何かの建物に入る。確かあそこは酒場か何かだったはずだ。すぐに椅子に座ると店員らしき者がやって来てすぐに立ち去る。その間もその不思議な反応はぴったりと寄り添ったままだ。

 それからも。〈万物創造〉と〈品質改竄〉のコンボで、低級の魔物素材を未知なる上級素材に変換しつつ経験値を稼ぎながらその様子をうかがっていても、そのなにかはずっとぴったりとくっついている。

 気になるなぁ。だけど護衛をすると侯爵に宣言してまだ1時間も経ってないのに用事が出来ましたなんて言うのは大人としてどうかとも思う訳で……出来ればこっちに来てくれないかねぇと思いたいけどここはこの街で一番の高級宿だし、何より貸し切り状態なんでそれも難しいだろう。

 そう思いながらさらに1時間。ようやく何かを連れた集団が店を後にした。こっちに来いこっちに来いと半ば呪いのように念じてみると、それが通じたのかのろのろとした足取りだけど近づいて来るではないか。

 あれは相当に酔ってるとみて間違いはないんだろうけど、それに合わせて例の何かもぴったりと寄り添ってる。なんと言う事だ……あの千鳥足にぴったりと寄り添う事が出来るなんて……目的はよぉ分からんが、間違いなくあの集団で一番の実力者だろう。

 ちょっと警戒心を強めながらその一団が目視できる距離にまで近づいてきた。どうやら連中は冒険者か何かのようで、10人程度のパーティーは男ばかりで色気の欠片もない。ちょっと期待していただけにガッカリだ。

 それにしても……なんてガラの悪そうでやかましい連中だろうか。折角の静かな街並みが台無しだ。これは少し罰が必要だろう。


「ふんっ!」

「痛ってぇ! 誰だコラァ!」


 当然。俺はすでに隠れているし、そもそもここから投げたなんて分からないようにいくつかの木や建物の壁を経由してぶつけたんだ。実際に今も小石が飛んできた――俺がいる方向とは正反対に向かって怒鳴りつけている。ふっふっふ……計画通り!

 そんな訳で、結局犯人はが見つからなかったので連中は再び歩き出したんだけど、視認と〈万能感知〉を重ね合わせて確認してるのに一切それっぽいのが発見できなかった。どうなってるんだ?

 よく分からないまま連中が宿屋の中に入って来た。きっと宿泊交渉をしているんだろうけど無駄だ。この宿は国すら買えるほどの潤沢な資金力にものを言わせて俺が貸し切りにしているんだから。その額は何と一泊で白金貨2枚だ。平然と出した時はさすがに相手側は驚いた顔をしていたけど、支払った以上はちゃんとしてもらわないとなっていう訳で、俺の見てないところで二重契約を結ばないように監視の意味も込めてロビーに顔を出してみると、そこは腐っても高級宿。泊めるような真似はしていなかったので一安心だが、やっぱりもめていた。


「随分と騒がしいな。いったいなんなんだ?」

「実は……勇者様がどうしてもこの宿に泊まりたいと」

「はぁ?」

「なんだクソガキ……テメェがこの宿ぉ貸し切ったってのか?」

「おれ達はあの勇者ご一行だぞ! 大人しく宿を明け渡せ。さもないと痛い目にあわせんぞ」


 これが勇者? おっかしいな。事前に勇者(笑)には出会ってるし、侯爵からもあれが勇者(笑)だっていう情報っぽいのはもらってる。それに比べるとこいつらは明らかにガラが悪いし、なにより弱そうだ。


「お前ら偽物だろ」

「あ~? ガキ如きが随分と思い切った事言うじゃねぇか。おれさまは今日は気分がいい。その証拠って奴を見せてやるよ」


 酔って正常な判断力がなくなってるんだろうな。普通こんな場所で抜刀すれば一発でお縄な状況だけど、相手が勇者とのたまっているだけに宿の従業員は憲兵に連絡するぞなんて言えない。危険だから。俺はこいつ程度の相手に危ないなんて思える訳がないが、そんな事とは微塵も思てないだろう馬鹿連中の1人が鞘から剣を抜いた。

 そうして抜かれたのは、両刃の刀身が青白く輝く物だった。なんか見覚えがあるような……。


「どうだクソガキ。これが勇者であるおれさまにしか扱えねぇ聖剣だ」


 鼻高々と言わんばかりにふんぞり返りながら見せつけて来る。

 その姿に従業員は信じられないようなものを見るような目を向け、俺はと言うと――


「それは俺のだろうがクソ野郎がああああああ!」

「ぐべらっ!?」


 自称勇者を蹴っ飛ばし、あの日あの時あの場所でどっかに行った聖剣を奪い返したのだった。

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