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#65 知り合い訪ねて30キロ

 ミュルス達と別れてから30分ほどして、ようやくエディーが目を覚ました。


「ッ!? ここはどこだ?」

「お? ようやく目が覚めたか。いくら俺が最大戦力とは言えどうして野郎なんかと一緒の部屋で2人きりにならにゃならんのか……」

「いったい何を言ってるんだ」

「こっちの話だ。それよりも、お前は依頼の途中で特殊個体らしい魔物の一撃を受けて重傷を負ったんだろう? 一応治してやったがどっかに違和感があったりとかするか?」

「……いや、大丈夫だ。しかし……君は一体何者だ。ミュレス達はどうしたんだ?」


 今現在。エディーが寝ている部屋には俺しかいない。

 アニー。リリィさん。アクセルさんの3人は食後のダイエットとして、馬車の警備を兼ねたランニングで脂肪を燃やしている最中であり、そのために移動速度はかなり遅い。このペースじゃ夜になってもエレレにたどり着けないので、あと30分で見張りを交代して一気の距離を稼ぐ予定だ。

 ちなみに侯爵は、招集された事に対する準備をするために基本的に部屋に閉じこもっているので安全性はバッチリだし、一応そこへ通じる扉を背にするように位置取ってる。


「奴等はまだ依頼が残っていると言って森に戻って行ったぞ」

「なんだって!? どうして止めてくれなかったんだ! 今すぐ引き返してくれ!」

「落ち着け。とりあえずあの森で起こった事を――」

「落ち着いて話なんかしてられるか! 今すぐ引き返さないというのなr――」

「俺は……落ち着けと言っているんだが?」

「っ!?」


 怒りに染まっている奴を黙らせるには、やっぱ脅して黙らせるのが一番だ。どうやらユニもビビったみたいで馬車がガタガタと揺れまくったが、気にも留めずに野郎に目を向ける。

 未だに睨んでいる自覚はないんだけど、ユニがこれで生きる事を諦めたと言うほどなんで試してみたら、目の前のエディーも顔面蒼白で柄にかけた手をそっと放した。


「よし。それじゃ、あの森で何が起きたのかを教えてもらおうか」

「あ、ああ……」


 とりあえず、ざっとだけど話を聞いた。

 エディー達は、魔物が最近この辺りを通る商隊を襲うようになった原因を調べるために訪れたらしいが、すぐに原因は森にあるんじゃないかと足を踏み入れたのは、闇の森と呼ばれるこの辺りでは有名な自然型と呼ばれるダンジョンらしく、主に木材の調達のための依頼が頻繁に発生するので、Cランクくらいまでだったらこの森の魔物を狩るだけでなれる所謂うまみが多い場所らしい。

 なので、今回の依頼も魔物の間引き程度で済むだろうとこれを受けて森を訪れてみたら、なんて事のない〈鱗牙狼スケイル・ファング〉の大軍が発生していたので、これらをいつものように討伐していたとの事。きっとあの時の大軍の事だろう。


「確か、特別個体ユニークモンスターが出たと聞いてる」


 我がパーティーの知恵袋アニーに聞いたところ。特別個体になると戦闘力は桁違いに跳ねあがり、様々なスキルを入手するため、危険度は一段。最悪二段は上がるらしいので、ユニは今やSランク冒険者でも手に負えない災害級の魔物になっているらしい。よく分からんけど。

 この辺りは、説明を聞くのが面倒なんで断らせてもらった。だってユニ相手でも戦いにすらならないなら、そんなのを聞いたところで意味なんて無いと思わないかね。


「そうなんだ! 奴は外見だけはただの肉食華人エビル・プラントだったが、中身はとんでもない化物だ!」

「どう違うんだ?」

「普通の個体であれば、遠距離から火魔法を撃ち込めば倒せる奴だが、あいつは自らの蔦を足代わりに動き回るんだ。それでなくてもあいつは戦士殺しの異名が付いていて、接近戦をするおれやミュレスにとっては危険な存在。それが自ら餌を求めて動くとなると、どうなるか分かるか?」

「普通に考えれば被害が大きくなるな」


 魔法職にとってただの的であった肉食華人なる魔物が動き出す。それを知らずに戦闘を開始。移動速度にもよるだろうけど、この男の焦りようを考えると相当に早いんだろう。万が一を考えると俺の救済措置が使えなくなる危険がある。


「わかったのなら今すぐ引き返してくれ! 早くしないとミュレス達が食われちまうんだ!」

「悪いけどこっちも仕事中なんでな。はいそうですかと危険な地に護衛対象を連れて行けない」

「だったらおれだけでも下ろしてくれ! 助けに向かう」

「病み上がりのお前に何が出来る。せいぜい足手まといになって餌になるだけだ」


 ハイポーションで傷を治す事は出来ても、失った血まで戻す事は出来ない(エリクサーならそれすら可能だけど)。運ばれてきた時点で背負っていたドワーフのおっさんは中々赤く染まっていたので、エディーの体調は現在。貧血に近い状態ともいえるだろう。

 そんなんじゃあまともに戦えないのは明らか。しかも相性最悪の接近職だ。死ぬ以外の未来が見えない。こいつには救済措置を渡してないからそれがより確実だ。


「だからってこんな所で指をくわえてまってられないだろ!」

「話にならないな。これ以上騒ぐようなら――ぐえっ!?」


 これ以上騒がしくなると侯爵の仕事の邪魔になるだろうから、漫画でおなじみ首トーンで黙らせてやろうと立ち上がった瞬間。背中にものすごい衝撃が襲い掛かって来て床に叩きつけられた。


「え? 本当に呼び寄せ石でしたの……」

「エリーゼ!?」

「エディーさんっ!? 起きて大丈夫なのですの?」

「取りあえずどいてくれ」

「キャッ!? も、申し訳ありませんわ」


 ぐへへ。エリーゼたんのお尻柔らかかったなぁ……って思うのは俺の勝手だよな。ちょっと泥臭かったけど、その辺は冒険者なんだから仕方ないよな。


「どうやら。俺の救済措置は役に立ったようだな」

「っ!? そうですわ! 貴女のおかげで助かりましたわ。それにしても呼び寄せ石なんて高価なもの……譲っていただいてよろしかったですの?」

「構わんさ。元々こういう時のために渡したんだから」


 呼び寄せ石とは、記憶させた人間や建物の近くに時間・距離を無視して転移できる便利アイテム(アニー説明より抜粋)だ。一応俺を記憶させておいたんで、いざという時は近くに飛んでくるんだとばっかり思っていたんだけど、まさかの真上ですか。これがミュレスじゃなくてよかった。あんなクソ重そうな鎧の下敷きになったらと思うと……ゾッとするな。


「それよりも緊急事態なのです! 例の特別個体が動き回ってミュレスさん達が危険なんですの!」

「遅かったか……」

「エディーさん知っていましたの!?」

「ああ。そうじゃなかったら命がけで最大火力のエリーゼをおれが守ったりしないって」

「確かにそうですね」


 エディーとやらの装甲は、ミュレスに比べれば――というか大抵の奴はあのタンクより薄いか。


「ん? なんで男連中は残ってんだ?」


 あまり気は進まんかったが、あの鞄の中にはちゃんと全員分の呼び寄せ石をキッチリ用意してやったはずだし、使い方も握りしめて魔力を流しながら〈使用(クラッシュ)〉と口にするだけだ(アニー談)。


「実は……件の〈特殊個体〉の魔物と交戦の際にすべて失ってしまい、何とか1人分だけを回収してわたくしがギルドへの報せをするために戻って来たのです」


 いい判断だ。エリーゼはかなり可愛い部類に入る少女だからな。贅沢を言うのであれば蔦か何かに捕らわれた挙句に裸に剥かれ、苗床となりかけているところに出くわす――なんてエロゲ―ならCGと回想シーンゲットの好機だけど、そんなタイミングよくいきそうもないのでこれで十分。

 しかしそうなると、残ってる連中は接近職だけになる訳か。一応双子の弟だか兄貴だか分からん方が回復できるっつってもMPには限界がある。そして一定を超えると二日酔いみたいに気持ち悪くなるし頭も痛くなる。

 野郎如き別に見殺しにしてもいいんだけど、エリーゼたんの好感度を考えると助けに行かない手はないよなぁ。


「なら、俺が助けに行ってやるよ」

「は? え? 貴女がお1人でですの?」

「ああ。その方が色々と都合がいいんでな」

「案内もなしにどうやって救助に向かうと?」

「スキルスキル」


 1人であれば動きやすいし、何より無茶が出来る。一応〈万能感知〉で嘘をついていないとの判定が出てるので、ピンチなのは疑ってない。

 が、そんな俺の言葉に異を唱える馬鹿が1人。


「ちょっと待て! さっきおれが言った時に駄目だって言ってただろう!」

「そりゃそうだろ。こぉんなに可愛いエリーゼたんがこんなに必死に頼んできてるんだぞ? 好感度を稼ぐために願いを叶えるに決まってんだろ!」

「そんな理由なのかよ!?」

「それ以外に理由など存在しないわ!!」


 女性からの頼みは基本的に断らん! そうと決まれば善は急げだ。ユニに〈念話〉でしばらくこの場を離れる旨を伝えながら森に向かって一気に駆け出す。大見得切っておいて助けられませんでしたじゃ格好がつかないからな。出来れば死ぬ前に助けておきたいのが本音だけど、まぁ死んでいてもエリクサーで即復活できるから何の問題もない。運が良ければ。


 ――――――――――


 ってな感じで、のんびり行程で30分の距離を5分程度で戻って来た俺はすぐさま森に飛び込みつつ、目の前にいたウツボカズラみたいな奴を両断して奥へ奥へと突き進む。

 3人の位置は〈万能感知〉で丸わかりだ。どうやらダンジョンによってはこのスキルも十二分に効力を発揮するらしい。また一つ賢くなったな。

 にしても……随分と奥まで連れて行かれているのか逃げているのかはハッキリとしないけど、エリーゼを逃がすために無茶をしたなら前者の可能性も捨てきれない。


「せいやっと」


 森に突入して木々が邪魔なうえに、魔物が襲い掛かってくるので随分と速度が落ちたとはいえ、ミュレス達の倍以上の速度で突き進んでるのに、植物系の魔物にしか出会わないな。普通森と言ったら小動物なり昆虫なりが居てもおかしくないはずだと思うんだけど、全くと言っていいほど出会わない。奴等もウルフの群れを壊滅させたって言ってたのに……件の特殊個体が食ったのか?


「――――」


 ようやく声が聞こえてくる距離まで近づいたか。これまでの時間経過は10分も経ってない。やっぱチートていうだけあってマジで反則だよな。

 そして見えてきた肉食華人なる魔物の特殊個体の姿は、ラフレシアを3倍くらいデカくした花の中心に、上半身だけの見目麗しい緑の肌の女性が裸で突き刺さっているという感じで、数十の蔦や根を巧みに動かして小さく確認できるミュレス達を追いかけているようだ。


「〈火矢フレイ・アロー〉」


 丁度良く背後を取れたんで、3人に当たらないように位置を変えてから魔法を放った。

 いつものように、紅いレーザーが立ちはだかる全てを焼き尽くしながら森の中を駆け抜けて一直線に肉食華人に襲い掛かったが、気色の悪い事に女性の上半身が左右に真っ二つに割れて回避された。


「なんじゃ。まだ餌がおったのか。童の肉とはたいそうな馳走じゃのぉ」

「そっちこそ。随分と立派な物をお持ちで」


 何と言う眼福だ。上半身しかないからさほど欲情したりはしないけど、胸にある2つのそれはリリィさんをはるかに超えたデカい代物だった。

ストックがきれたのでしばらくお休みします。

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