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#63 書籍予約しました

「じゃあこれが、約束のエリクサーだ。本物かどうか確かめるか?」

「当たり前と言いたいところだけど、どうやってかしら?」

「まぁ……俺の腕一本斬り落として戻るかどうかとかしかないだろ」


 他に方法があるにはあるけど、どれもこれも時間がかかる。信用を得つつ時短するのはそれが一番だろ。問題なのは、果たして俺の腕が斬れるかどうかだな。〈万能耐性〉で斬撃に対する耐性も上がっているから、俺自身でも斬り落とせるのかどうか分かんないけど、それを知るにはレッツ実験。


「っな!?」

「おぉ? どうなってんだこれ」


 躊躇えばそれだけ痛みが強くなるだろうから、全力でもってダマスカス製の片手剣を振り下ろしたわけなんだけれど、何故か刀身が肌に触れるよりも随分と手前で、謎のシールドが突如として展開する事によって阻まれた。

 こんなスキルを入手した覚えはないし、他にいくらでも似たような機会があったのに出てないってって事は、自分で自分を傷つけようとすると発生するんだろう。何が目的か知らんけど、あの駄神が何かしたのかもな。


「今のはまさか……いや、人種如きがそんな恩恵を受けるなどあり得ないわ」

「なんか心当たりがあるのか?」

「創造神の力。似てる」

「……ふーん。何かの見間違いだろ。とにかく俺じゃできないからその辺の魔物で試すとするか」

「ん」


 さすが神が存在していると信じられている世界だ。たったこんだけの情報であっさりとそんな所にまで思考が飛ぶとはね。

 しっかし……駄神の力ねぇ。目撃者が他種族を見下すエルフだからその答えに確信を持たなくて済んだけど、これが侯爵とかクソギルマスの前とかだったら勇者だなんだと祭り上げられるかもしれないところだった。ここでそれを知れたのは運が良い。

 アホ勇者との闘いの時にこれが出なかったって事は、自分で自分を痛めつけようとする時にだけ現れる代物って事なんだとすると、次からは自傷行為をする時は気をつけよう。そういう事はあんまなさそうだけど。

 あれでごまかせたかどうか知らないけど、今はエリクサーの真偽を確かめる方が優先度的に高いのか、あまり触れてくれなかったのが助かった。エルフの知識パネェ……。


「見つけた。あれでいいか?」


 〈万能感知〉を見て真っすぐに魔物のいる場所まで突き進んだので、3分もかからずに発見する事が出来たそれは、まぁ外見を一言で表すにはトカゲ人間って感じだろうな。

 保護色の緑の鱗に、腰にはボロ切れを巻き。手には鉄の槍と盾を手に二足歩行であてもなさそうに森の中をうろついていた。単独行動をしているからこっちの都合としても丁度いい。


蜥蜴戦士リザード・ソルジャーなんて随分と手ごわい相手を選んだものね」

「そうか? あの程度ならアニーでも勝てると思うんだがどう思う?」

「そうですね。あの程度の魔物ならば、あの獣人共でも勝てるでしょう」


 〈鑑定〉を持ってないから正確な強さは分かんないけど、まぁ大したモンじゃないだろ。

 とにかく。こっちも時間が差し迫ってるんでな。さっさと終わらせるために、いつものように投石攻撃一発で蜥蜴戦士の頭をふっ飛ばし、気付かないくらいに微量な経験値を入手したんでエリクサー片手にずんずんと歩み寄っていくと、少し後ろをついて来るエルフ2人が納得いかないと言った感じの表情をしていた。


「貴女一体何者なの? 蜥蜴戦士を一撃で殺すなんて我らエルフでも数える程しかいないのに……。それもどこにでもある石でとなると、ハッキリ言っておかしいのだけど?」

「野菜サンド。異常」

「主の実力であれば当然です。ワタシも一睨みされただけで戦意を喪失しましたからね」

「別にそこら辺に居るただの旅人だ。それよりもエリクサーの真偽を試すから良く見てろよ」


 確か、アレクセイが一滴だけでも効果があるって言ったてよなって訳で、ふたを開けてゆっくりと瓶を傾けて中身を下に落としてみると、爆散した頭部が形容しがたい気持ち悪さで再生していき、ものの10秒もしないうちに立ち上がって襲い掛かって来たので、再び蹴り殺してやった。


「どうやら……本物で間違いなさそうね」

「まぁそうなるな。使いさしで悪いけど、成分が変わったりもしないだろうし大丈夫だろ」

「ババ様助かる?」

「当然です。主に不可能な事など何一つないのですから」

「まぁ絶対とは言い切れないけどな。とりあえず時間がないんで、魔導書はまたこの村に寄った時にでもくれれば問題ないんで、シリアも帰っていいぞ」


 どう迫ったところで時間がかかるのは明白。であれば侯爵を王都に送り届けたその帰りにでも貰って行けば済む話だ。その間にせいぜい里の連中を説得してもらう努力をしようではないか。


「随分と悠長なのね。それでいいというならその言葉に甘えるわ。此方にとって価値がない物だとしても、それを人種ごときにくれてやるとは何事かと喚く連中もいるでしょうしね」

「じゃあこれで契約成立だな。勿論、それが破棄されたと分かれば、里を襲撃して全滅させてやるから、そのつもりでいろよ」


 これで目的は達成だ。大して時間は経っていないけど、そろそろコテージに戻らないと本当に出発を後らせないといけなくなるから急がないとな。


「なら長老の病が治るかどうか確かめ次第そっちに魔導書を送るから、目的地を教えてくれない?」

「今は人種の王都を目指してるが来れんのか?」

「……いつ戻って来るのか教えてもらえるかしら。大体でいいわ」


 即決か。まぁエルフも人が嫌いなんだろうからそう答えるのは予想は出来ていた。

 とりあえず。戻って来る時期が曖昧なんで、およそ2か月後くらいから比較的人への嫌悪感の弱いエルフを1日数時間ほど村の入り口近くに待機させて、そいつに話をつければすぐにでも魔導書を持って来てもらうという結論で片を付けた。

 ついでに、お土産として野菜サンドをシリアに手渡し、ちゃんとババ様にも食わせろよと念を押しておいてからユニと一緒にコテージ前に戻ると、大きなバケツを抱えたアンリエットの姿があった。


「ごしゅじんさまおかえりなの」

「なんだそれ」

「えーと……昨日のあまあまぷるぷるなの」


 嬉しそうに中を見せて来るので覗き込んでみると、中には黄色くプルプルした物体――いわゆるプリンがたっぷり詰め込まれていたがすでに半分以上無くなっていた。


「プリンか」

「それなの。ごしゅじんさまにもひとくちあげるのなの」


 無邪気にスプーンを差し出してくるんで特に抵抗もせずにかぶりつく。うん。悪くない味だ。正直言ってこれだけのサイズの物を作るのに少々不安はあったけど、まぁ……こうして食う分には問題ない程度の硬さにはなってるが、やっぱ緩い。

 昨日の晩。から揚げを食いまくったアンリエットが今度はデザートが食いたいと言い出した。当然そんな用意をしてる訳もないのでさらっと無視して寝ようとしたが、そこは子供。夜も遅い時間だってのにガン泣きを始めてしまい、侯爵の泊まる宿や近くの宿から何とかしろと苦情が相次いだので、とりあえずコテージの中に蹴り込んでそこでプリンを作る事にした。

 卵と砂糖と牛乳。これだけで簡単に作れるんでパパッと作ってやった。もちろん普通サイズ。

 これに対しアンリエットは小さいと文句を言って来たので軽くひっぱたいてからバケツプリンを作って冷蔵庫に放り込んでおいた。一応できるまで相当時間がかかるぞと忠告しておいたが、我慢しきれずに食い始めたって訳らしい。


「そろそろ出発するから馬車に乗っておけって、アニーとかに言えるか?」

「わかったのなの。あちしがんばるのなの」


 そこまで気合を入れるような仕事ではないんだけど、まぁ本人にやる気があるのはいい事だろう。そのくらいしかやる事がないんだけどな。

 とりあえずやってくれるとの事なので、こっちはこっちで侯爵の準備具合を聞きに行くために宿のエントランスに向かうと、すぐに侯爵を発見した。近くにアクセルさんの姿はない。


「1人でなんて少し不用心じゃないのか?」

「アスカさんですか。アクセルは片付けの最中ですが、この程度の距離であれば即座に駆けつける事が出来るのでさほど危険ではありません」

「まぁそう言うのであれば別に構わんよ。こっちの準備も終わってっからそろそろ出発しようかと呼びに来たんだが、もうちょい待った方がいいか?」

「それはちょうどよかったです。では時間があるみたいなので漫画の購入をしたいのですが」

「はいはい」


 という訳で早速商談開始だ。

 まず手始めにどんな物がどのくらいあるのかと聞いてきたが、どう答えたもんかと頭を悩ませる。

 漫画だけに絞っても、その数は10万を優に超える。日本の製本技術とこの世界の技術とを鑑みるに、それをありのまま伝えるのはさすがに怪しまれるので、数千ですと相当少なめに提示すると、それはそれで俺の収納系スキルの容量の大きさに驚いていた。


「それで? どんな漫画が欲しいんだ」

「取りあえず5種類ほど」

「あいよ。じゃあ適当に選んどくから、値段の交渉の方はアニーとやってくれ」


 値段の設定は特に決めてない。一応紙媒体って事で高値になるだろう予想はついてる。何せここは異世界だからだ。

 簡単な商談は終了したんでユニに来るように〈念話〉を飛ばして、これで準備のすべては整った。今日の目的地はここから500キロ先にあるエレレと言う中程度の街に向かう予定だけど、早く着くようならそこから200キロ先のモイ村に場所を変える予定でもある。どっちも少し森から西に向かって南下した位置にあり、山菜料理が有名らしいのでユニはあまり乗り気じゃなかったけど、侯爵はこの時期でなければ食べられないとても美味しいキノコ料理を食べたいとの事なので、少し遠回りだけどそのルートを選択した。


「そういえば、昨日件の根回しって済んでます?」

「ええ。とりあえず昨日の騒ぎを収めたのは謎の美少女という事にしておきました」

「美少女ねぇ……そこは男とかにしておいた方がよかったんじゃないか?」


 あんま自分で言うのははばかられるが、俺の作った肉体は大抵の人間に美少女と認識させるに十分な容姿をしている。そうなるように作ったんだから当然っちゃ当然だな。まぁ、本来は少年として生活するはずだったんだけどな!

 そんな訳で、謎の美少女と説明すると昨日の内にここに来た俺が一番怪しまれる可能性が高いという事になる。事実。今も俺の横を通り過ぎたおばさんが見つけた! みたいな顔をしたんだから。一刻も早くこの村を出て行かないと色々と面倒事を押し付けられそうな気がしてならない。


「……そうでしたね。考えが及ばす申し訳なかったわ」

「もういいよ。ここには綺麗で可愛い女の子もいないし、特に名物らしい名物もないんで、二度と来れ無くなっても未練らしい未練は特にないしね」


 しいて言えば宿が他と比べて豊富で、森の魔物を討伐して金を稼ぐのにさほど苦労はしないところが特色と言えば特色かもね。俺としては何の魅力も感じないけど。


「そう言ってもらえたら助かります」

「侯爵様お待たせいたしました。おぉ、アスカ殿も一緒ですか」

「ああ。そろそろ出発しようと言うのを伝えに来たんですよ」

「そうですか。それではこちらの準備も終わったので行きましょうか」


 宿を出るとちゃんとユニは待っていて、宿の従業員何人かの出迎えを受けながら乗り込み、リンス村を後にした。

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