#61 サンド祭り
豪勢な野菜サンドってなると、やっぱ具だくさんで種類豊富って事になるだろう。無農薬なのは最初から決まりきってる事だからな。
という訳で、まずはいつも通りの新鮮野菜のサンドウィッチ。これはレタスにトマトにきゅうりをオニオン系のジュレに絡めてパンで挟めば完成する手軽さなので、あっという間に終わる。食欲のない朝なんかには俺も食う一品。
次はきんぴらごぼうを挟んだ和風の野菜サンド。ニンジンとゴボウをささがきにしてゴボウを水に数分間つけてアクを抜く。
十分にアクが抜けたところでニンジンと一緒にごま油を引いたフライパンでしんなりするまで炒め、酒を回しがけて風味づけてから砂糖。醤油。みりんで味をつける。シリアは子供っぽいから甘みが強い方がいいだろう。
後は煮汁が煮詰まるまでじっくりことことしていけばOKだから、出来るまでの間に次に取り掛かるとするか。
次はポテトサラダサンドを作ろうと思う。味付けにマヨネーズは使えないんで、味噌を使って和風に仕上げる予定だ。エルフってのはやっぱり肉とか乳製品を嫌うみたいだからな。だからパンも卵を使わない天然酵母だけで作られてるって物をわざわざ創造しないとなんないからかなりMPを持っていかれる。
なんて文句を言ったところでどうにもならないからこの辺で。
ジャガイモを火が通りやすいように薄切りにしてから水を張った鍋に入れて茹でる。大体15分位でいいはずなんで、その間に玉ねぎときゅうりを薄切りにして塩を振ってしばらく放置。こうしないと仕上がりが水っぽくなるからな。
そろそろきんぴらの具合がよくなって来たんで、最後にゴマを散らせばきんぴらごぼうの完成っと。後はサンドイッチと合わせる為に粗熱を取りつつ味をしみこませる。ちょっとつまみ食い……悪くないね。
ジャガイモに串を刺してゆで上がったのを確認してから、ボウルに移してマッシャ―でつぶして水気を切ったキュウリと玉ねぎを入れて軽く混ぜ合わせ、今度は味噌を加えてさらにもうひと混ぜ。マヨじゃないからどうかと思ったけど、かんぷらでも味噌を使うから合わない訳はないか。
「よし。完成」
きんぴらとポテサラの方は時間がないから5人前づつくらいしか作れなかったけど、いつもの野菜サンドは30人前くらい作ってやった。シリアもよく食べるから、多分このくらいなら全部行けるはずだろう。
ついでに作る羽目になったから揚げは、野菜サンドを作っている間に一口大に切った鶏肉に小麦粉を薄く纏わせて脂に次々放り込んで作る超絶手抜き物を。味付けはソースなりマヨネーズなりを小鉢に用意してあるのでそれで。
「さくさくじゅーしーでおいしーのなのー」
「これは手軽に食す事が出来るので便利ですね」
「でもこんな時間に食べるのは少し怖いです。でも美味しい……うぅ。アスカさんは酷い人です」
「止めらんないのは俺じゃなくて侯爵の意思が弱いからだろ。じゃ。俺は届け物してくるんで」
全てのサンドウィッチを〈収納宮殿〉にしまい、シリアの元へと行ってみると、街の中心辺りで5人ほどのエルフを引きずりながら歩く姿を発見すると、あっちもすぐさま気付いたようで目をらんらんと輝かせながら駆け寄ってくるものの、その1人以外には明らかに歓迎されていない空気をビシビシと感じる。まぁ関係ないけどね。目的はあくまでその歓迎している1人なんだから。
「野菜サンド」
その人物は当然シリアだ。俺の姿を確認すると、今まで本気じゃなかったぜと言わんばかりにあっさりと全員を振りほどき、体当たりをするように抱き着いてきたんで、俺を快く思わない絶壁やナイスミドルと言った取り巻き連中は一様に睨み付けて来る。だったら押さえつけておけよと言いたいけどあえて言わない。面倒臭くなりそうだから。
「ほら。約束の物と新しいタイプの物を作ってやったぞ」
そう告げながらまずはきんぴらサンドを差し出してみると、すぐさまかぶりついてきた。表情を見る限りかなり気に入ったようですぐに次を寄越せと手を出してくるので、今度はポテサラサンドを出してみる。
「っ!? これもっと食べる」
「手間かかってるからあんまないぞ。ゆっくり味わって食べろ」
どうやらポテサラサンドがかなり気に入ったみたいで、初めて人形みたいな感じから人っぽい感情が表に現れたような気がするのと同時に、背後のエルフ連中の表情がどんどんと苦々しい物へと変わっていく。まぁ気づかないフリしますけどね。
「ん」
「はいよ」
飲み物を要求するので、いつものようにオレンジジュースを手渡してやると浴びるようにしてあっという間に飲み干すと、また野菜サンドに手を伸ばす。本当にこんな細い体のどこにこんなに入ってるんだろうな。アンリエットもだが、こっちの胃も異空間にでも繋がってるんじゃないのかと時々思ってしまう。
一心不乱に食べ続けて15分。最後の一切れまで残さず胃の中に収めたシリアは満足そうにお腹をさすりながら絶壁に抱きしめられていた。
「満足」
「ふあ……っ。そりゃよかった。じゃあな」
「ん。また明日」
飯を食わせた以上は用はない。そろそろ眠気も限界だからさっさと寝て明日に供えたいんで立ち去った。きっとこれで二度と会う事はないだろう。取り巻き連中がそんな事を許さないだろうからな。
――――――――――
翌朝。いつものように目覚ましのかき鳴らす不愉快な金属音で気持ちの悪い目覚めをして体を起こすと同時くらいに、ユニからの〈念話〉が飛んできた。
『主。昨晩の面倒くさいエルフがまた現れたのですが、殺しても良いでしょうか』
『駄目に決まってるだろ。ちょっと準備するからどこか適当な場所で待たせておいてくれ』
『分かりました。それと面倒くさいエルフの他に食いごたえのないメスエルフが同席しているのですがいかがなさいますか?』
『……まぁそいつも待たせておけ。念のために危険が迫った場合は戦闘を許可する。勝てそうか?』
『微塵も問題ありません』
取りあえず朝食の準備だな。それから2人に事情を説明して同行してもらえないか相談しよう。
シリア1人だったらまだその必要はなかっただろうけど、あの絶壁さんが一緒ってなるとちょっと事情が変わって来る。何か厄介ごとの匂いがするから、ぎせ――げふふん。知恵袋としてついて来てもらわんとね。
「エルフに会うやなんて……あんまええ気はせんで?」
朝飯を食いながら全員にちょいとエルフに会って来ると告げると、アニーがそんな事を言ってきたが、勿論俺もその意見には同意する。普通の奴等が連中に話を合わせてるとストレスで胃に穴が開くだろうからな。
「でも商売してるんじゃないのか? エルフの金だって持ってただろ」
「商売するんは友好的なエルフだけやから。話を聞く限り、待ってるんは鼻持ちならん連中やろうから気ぃ乗りませんわ」
やっぱり居るのか友好エルフ。まぁ、シリアがそんな感じだからゼロじゃないってのは分かったけど、絶対数は少ないだろうね。そうじゃなかったらあの連中が特別猜疑心の塊って事になるから。
「まぁ無理にとは言わんさ。それなら侯爵に事情を話しておいてくれ」
すぐに済むとは思うが、それでも遅れる可能性もゼロじゃないからね。ユニの足を考えれば少しの遅れ位すぐに取り戻せるが、報連相はキッチリしておくのがビジネスマナー。
「分かった。ほんなら時間になったら報せに行ったる」
「任せた。あとアンリエットのご飯は任せてもいいか?」
「構へんよ」
「じゃあよろしく」
念のために三種の野菜サンドウィッチを手土産にユニの指定してきた村の外れの人通りのない倉庫らしい場所に行ってみると、またユニに跨って毛を引っ張るシリアと、それをおっかなびっくりと言った様子で見守っている絶壁さんの姿があった。
「野菜サンド」
「今日はないぞ」
「嘘ついてる」
スンスンと鼻を鳴らして睨み付けるような目をするんで仕方なしに一人前出してやると、目をらんらんと輝かせて即座にほおばる。相変わらず綺麗な顔が台無しだ。
「これじゃあ会話にならんからそっちに聞く。一体全体何しに来たんだ? まさか単純にシリアに飯食わせるためだけって訳じゃないだろ」
「当然でしょう? そもそも猿の作る料理なんて物をどうしてこの私が口に運ばなければいけないのよ。目的は貴様の拘束。大人しく捕まればよし。暴れるのであれば実力行使もやむを得ないわ」
大層自信満々にそう告げたはずなのに、イラついたユニの唸り声一つで肩をビクッとさせて明らかに後退した。怖いならいちいち癇に障る言い方をしなければいいのに。
「一応聞いておく。なんで俺があんた等に捕まんなきゃいけないんだ。別に悪い事しないだろ」
「貴様はリックを殺したのよ。それだけで万死に値するのは当然でしょう」
えーっと……こいつは一体何を言ってるんだろうな。ちょっと理解が追い付かない。




