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#58 エルフの様子がおかしい……おめでたくない。半魔族になりました

「〈鎌鼬サイクロン〉っ!」


 戦闘開始は絶壁美人の魔法から始まった。

 魔法陣が展開すると同時に竜巻のように緑色の刃が俺を中心に巻き起こり、次々と襲い掛かってくるんで剣で斬り払いながら次はどうなるのかを待っていると、頭上に巨大な魔法陣が出現。何が起きるのかと見上げると閃光が瞬いたなぁと思えば、全身がビリビリと痺れてチカチカとした星が視界を埋め尽くす。

 どうやら雷が落ちてきたようで、全身の筋肉が軽く痙攣。動きに精彩を欠いたからすぐに〈鎌鼬〉が全身に襲い掛かってチクチクとした痛みが突き刺さる。


「あたたたた」


 一発一発は大したもんじゃないけど、それが10も100も集まるとさすがにダメージっぽいものになるな。

 とはいえ、このまま1時間だろうが1日だろうが食らい続けていてもまず死ぬことはないだろう。ダメージ量が丁度〈回復〉とのつり合いが取れてるらしく、ダメージを受けるたびにすぐに全快する。自信満々だったからもうちょい痛い思いをすると思ってたんだが、これならぼっ立でも別にいっか。

 って事でボーっとしてると、ようやく全身の痺れが取れ始めて来たんで動き始めようか。

 出来ればあの2人を真っ先に仕留めたいところだけど、楽しみは後にとっておこう。


「ぐ……は!?」

「なっ!?」

「まず1人」


 事もなげに〈鎌鼬〉から飛び出した俺は、〈万能感知〉で一番近い場所に居たイケメンの腹と顎を高速で打ち抜きながらも、ポーションを瓶ごとねじ込んで死にそうになりそうなところを無理矢理死ぬギリギリくらいで踏みとどまらせてから、魔法陣が展開しきるより早くその場を飛び退いて、次の相手を打倒する。今度の相手は見た目ロリっ子だったので、手錠で両手足を拘束してから口にガムテを巻いて、優しくその場に横にしてから次の相手に向かって突撃する。


「く……っ!? 何と言う速度だ」

「魔法に頼り過ぎなんだよ。野菜だけじゃなく肉を食って体を鍛えろ。そして人肉食を諦めるんだな。食った事は無いがマズそうだからな!」

「いい事言うじゃねぇか!」


 絶壁美人の言葉に苦言を呈し、次なる犠牲者となる予定の敵に向かって拳を振り抜こうとした横合いから、さっき殴り飛ばしてやったはずの馬鹿フォンスが獰猛な笑みを浮かべながら現れ、見た目子供って言う俺に躊躇いを微塵も見せない一撃が叩き付けられた。ちなみにちゃんと防御はしてるのでご安心を。


「……ふぅ。子供相手に随分な一発を放つんだな」


 ふり抜き具合から相当な威力がこもっていたんだろうけど、感触的には殴られたと言うより触られたって表現がしっくりくる。その位弱いって事だ。


「テメェこそ。たかが人種のガキから意識が吹っ飛ぶ一発を喰らったのは初めてだったぜ。おかげで祭りに出遅れたが、せいぜい楽しませてみろや!」

「そっちこそ。なんでびしょ濡れなんか知らねぇけど、加減したとはいえ俺の一撃を受けてピンピンしてるとは思いもしなかった。その頑丈さはスライムに匹敵するんじゃないのか? ぷーくすくす」


 まぁ、実際は吹っ飛ばすのと同時くらいに風呂に使ってもいいくらいに有り余っているポーションをぶっかけたりねじ込んだりして一定量まで回復をさせていただけなんだが、意識を飛ばしていた馬鹿は気付いていないようなので、そう誤魔化す。


「ほざけクソガキがぁ!」


 キチンと馬鹿にしたから、さっきまでの頭の弱い子供みたいな笑みから一転、ちゃんと怒り狂ったように表情を歪ませてクロスレンジに飛び込んで来た。

 馬鹿フォンスの戦闘スタイルは格闘術。使う魔法は主に身体強化系統のみ。それしか使えないのかどうか知んないけど、直情型で馬鹿っぽい感じはきっとそうなんだろう。


「っせい!」


 まずは一閃。最近は剣を振る機会もちょこちょこ増えてきたし、何より〈剣技〉スキルを持っている。ただ剣を持つだけでそこらの有象無象如きを圧倒する技術をノータイムで習得しただけじゃなくて、体が自然と次の一閃を振り抜きやすいように行動出来る。

 なので、相手の攻撃はことごとく回避し。こっちの攻撃は加減しているから少しだけ深めにダメージを与えるのだ。ついでに取り巻きエルフに近づき、野郎は力で黙らせ。女性は手厚く保護しながら無力化させる。


「ぐ……はっ!」

「ざっと2分。1人にしては頑張ったように見えるだろ?」

「な……っ。アルフォンスが負けただと!?」


 剣を振り抜いて刀身にこびりついた血を吹き飛ばしながら、馬鹿フォンスを蹴っ飛ばして残りの2人へと視線を向ける。


「さて。残りはあんたら2人になった訳だけど、まだやるか?」


 魔法も通じず弓すら難なくかわされた挙句。取り巻きがほとんど無力化させられたんだ。そろそろ俺と戦う事がどれだけ無謀で愚かで無駄だと悟ってくれるだろ。仮にも優秀を自称するエルフなんだからな。相手との実力差なんてもうそろそろ理解して当然のはず。


「……仕方ないわね。これ以上やったところで被害が増えるだけでしょうから、大人しく退いてあげる事にするわ。感謝しないよ人間」

「ウム。目的である姫は奪還できたのだ。さすがに我等がこれ以上森を離れるは、守護の観点からしても望ましくはないからな。我等の慈悲に頭を垂れろ」

「わーすごいやーえるふのあんぽんたんたちはおれとはおおちがいだー」


 これだけコテンパンにやられてまだ上からモノを言うか。大した根性と言うかなんというか。

 まぁしかしだ。おかげでようやく騒ぎが収束する訳で、夜も十分に更けてきたからお子ちゃまなこの身体は眠い眠いと訴えて来てる訳で。ようやく終わるとあくびを一つしたところに、〈万能感知〉がまだ終わってないぞと言わんばかりに警告音を発する。


「俺様を蹴り飛ばしたクソはどいつだ」

「多分俺だな」

「そうか。ならば死ね」


 ゆっくりと現れたのは、俺がこの場に登場するにあたって一番最初に蹴っ飛ばしてやった奴――だと思う。その時はハッキリと確認しなかったからイマイチ確証は持てないけど、2人の反応を見るにきっとそうなんだろうと勝手に考えているだけだ。


「リック……戦闘は終わったの。貴方もいつまでもさっきを出してないでさっさと――」

「避けろリディ!!」

「っ!?」


 ナイスミドルエルフの叫びに、絶壁美人は即座に飛び退くと、リックと呼ばれた不運なエルフは巨大な鎌を振り抜いていた。あと数舜、反応が送れていたら絶壁美人の首は刈り取られていただろう。


「〈風矢(エア・アロー)〉っ!」


 そしてすぐさま反撃とばかりに風の矢が十数発撃ち込まれる。どちらも同族相手に随分と遠慮がないな。まぁ、リックって呼ばれた方は少しおかしい感じがしてたから分かんだけど、絶壁美人は容赦ないな。


「「ジャマヲスルナアアアアアアアアア!!」」


 まるでリックと誰か。2人の声が重なり合ったかのような怒声を吐き出しながら、その肉体が真っ黒に染まって背中からコウモリみたいな羽が皮膚を突き破って飛び出した。少しアレクセイに似てる感じがあるけど、〈万能感知〉で見える限りはあのレベルまで強くない。せいぜいあいつの4~5割くらいってところだろう。


「なぁなぁ。エルフってあんな力があったりすんのか? あったらなんで最初から使わんかったんだ? あれなら俺に一撃くらい入れられたかもしれんぞ?」

「何を馬鹿な事を……あれは半魔族化といってこの世でもっとも手にしてはいけないエルフ族でも禁忌指定されている愚かな力の1つよ」

「ふーん。って事は、エルフも愚かって事か?」

「……こんな無様を晒しては言い訳出来ないわね」


 それでも。人族よりは遥かにマシだともだと言わんばかりにこっちを睨み付けて来る。種族によって優劣をつけるのは基本的に賛成しないけど、同じ事を学んだうえで優劣が生まれるの仕方がない事だろう。それが生物という事なんだから。

 まぁ。そんな言い合いをしている余裕はさ無そうなんで、別に口をはさんだりするつもりはない。意識をナイスミドルエルフの方に向けると、矢を番えていないのに弓からは次々に白く輝く矢が撃ち出されている。ああいうのを魔導弓っていうんだろうなぁ。ファンタジーを代表する1つだな。まさかこの目で見る事が出来るとは……ありがたやありがたや。


「リディは姫を守れ! 我はこの馬鹿の目を覚まさせる!」

「了解したわ」


 魔導弓を撃ち出しながらの指示に、リディが即座に地を蹴ってシリアを抱き上げると、半魔族となったリックに背を向けるように退避し始めたのを、黙って見過ごすほど甘くはないよねぇ。


「イマイマシイエルフゴトキガ。ニゲラレルトオモッテイルノカ? スベテワガチニクトシテクレル。〈魂狩ソウル・ハント〉」


 ナイスミドルエルフの矢に撃ち抜かれながらも、まるで意に介さないリックはなにやらヤバそうな魔法を唱えると、その傍らには刃こぼれの酷い鎌を持ったいわゆるテンプレ死神が現れ、とんでもない速度で遠ざかろうとしているリディに向かって突撃を開始。


「チッ! リディ!」

「分かっています! 〈聖盾セイント・シールド〉〈聖壁セイント・ウォール〉〈聖砲ホーリー・カノン〉」


 半魔族と言う関係上。相反する聖属性の魔法で対処するのはなにも間違っていない。間違っていたのはリックが放った魔法が桁外れに強力だったって事だけだ。


「……」

「馬鹿なっ!?」


 白く輝く盾は死神が触れただけで砕け散り。

 白く輝く壁は鎌の一振りで豆腐を斬るようにあっさりと。

 最後の白く輝かくメガ粒子砲みたいな一撃は、壁を斬り裂いた直後でもあったために見事に直撃したように見えるけど、〈万能感知〉を持つ俺だからこそ分かってしまった。それだけの一撃にもかかわらず一切のダメージが入っていない事に。

 そしてそれはすぐにリディにも伝わる事となる。絶望の表情がそれを如実に物語っていた。

 それに対して死神は、何事もなく前進を再開した。

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